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くるはらきみの画室

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自然の中で暮らしながら絵画や人形を制作するくるはらきみの小部屋。油彩を中心にちいさな祈りを込めた作品を発表します。
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RIE EGUCHI & くるはらきみ|文学者の音楽室《3》|物語と音楽にみる舞踏会幻想

 『シンデレラ』などのおとぎ話や『ボヴァリー夫人』『谷間の百合』などのフランス小説で出会いの場の象徴として、あるいはエドガー・アラン・ポーの『赤い死の舞踏会』のようにシュールすぎる時代を映す場として描かれてきた「舞踏会」。  今の日本ではなかなか参加する機会がないけれど、海外では今も毎年色々な所で開催され、日本からも参加できるイベント的なものもあるらしい…。  今回、Mauve街で開催中のオンライン「舞踏会」もそのひとつ。しばし、文学や音楽で描かれた舞踏会を空想し、幻想の舞踏

くるはらきみ|くすしき花の香り

 聖書の伝統を踏襲しながら新たな解釈をもたらす、くるはらきみさまの宗教画。本イベントでは、降臨節を祝うにふさわしい二作が届きました。  くるはらさまの作品に特徴的な、まあるい瞳。聖母マリアの半ば閉じられた目は、生まれたばかりの幼子であり、神秘的な花のように神の言葉を身にまとうイエスを見つめます。  エサイの根より生いいでたる救い主。背景の絡まりあう蔦は、純なる出自とともに繁栄を暗示する。天使が慎ましく祝福に訪れ、白く可憐な花を差し出します。花はかぐわしい香りを放ち、世に遍

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|DAY 4

本記事はオンライン展覧会 くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》DAY 4最終日の配信記録です。 Text霧とリボン    健やかな風が抜けた七夕の日。  皆様、今日は何度、空を見上げましたか?     霧とリボン サマーシーズンの開幕を飾る「くるはらきみ & 霧とリボン ヒルデガルト・シリーズ共同企画展」の全配信が本日無事終了致しました。  12組のアーティストが参加した前期グループ展から、後期くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》へ——お休みをはさんで全8日間、全32記事(

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|ヒルデガルト—祈りの薬草園《2》

 「私たちそれぞれが歩む創作の道のひとつがヒルデガルトへつながっている」——日々祈り、植物を愛しんだヒルデガルトの軌跡を辿りながら、これまで探求してきた道の歩みを、さらに前へと進めて。  本展にて発表するくるはらきみ & Du Vert au Violet(ドゥ・ヴェール・オ・ヴィオレ)のコラボ・ポプリセット2種のうち、先に1種を公開しました。以下のリンク先よりご高覧下さい。  本記事では、もう1種にあたる「ヒルデガルトの薬草園カード」が封入されたヴァージョンをご紹介しま

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|ヒルデガルト—祈りの薬草園《1》

 湿気を含んだ土の香りが舞い上がり、草花と混じり合う夏の小径。しばらく歩いてゆくと、雲間から覗く光に照らされた門が、威厳をたたえながらも、温かい面持ちで迎えてくれる。  ヒルデガルトが修道院へと向かった小径、あるいは、ユッタとちいさな庵で暮らしながら日々歩いた小径には、どんな草花が咲き、樹木の葉が揺れ、風が香りを運んできたのだろうか——  遠き異国、遥けき中世に生きたヒルデガルトへ、繋がる糸を手繰り寄せながら編んだ祈りの薬草園の風景を、小箱に託して。  くるはらきみ様と霧

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|おとめ聖ヒルデガルト

 くるはらきみ様& Du Vert au Violetのコラボ作品「プライヴェート・ポプリセット《ヒルデガルト — 祈りの薬草園》」に封入されるカードの原画となります。  きみ様は本展のためにはじめてホーリーカードをイメージしたアクリル画を手がけられました。聖人や聖書の一場面、あるいはキリスト教における伝統的なモチーフを組み合わせた図案を携帯できるようカードにしたもので、いにしえよりお守りのように大切にされてきました。ヒルデガルトの象徴として描かれている植物はすべてポプリに

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|DAY 3

本記事はオンライン展覧会 くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》DAY 3の配信記録です。*明日7/7最終日です Text霧とリボン  暑さが和らぎ、身体も少し楽になりましたが、猛暑や台風の心配はまだ続いています。皆様、引き続き、どうぞくれぐれもお気をつけてお過ごし下さいませ。  涼しい場所からお楽しみ頂ける本オンライン展覧会、くるはらきみ個展会期後半がスタートしました。DAY 3の本日、ご高覧下さいました皆様に深くお礼申し上げます。  今日のヒルデガルトの苑には、ひとき

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|自然の喜び

 どこかから、にぎやかな気配がする。  自然の恵みが近づいてくる。  彼らはヒルデガルトゆかりのハーブにどうもよく似ているようだ。  陽の光をいっぱいに受けて、花咲く君はカレンデュラ。天に向かって伸びるように逆立つ赤毛は、太陽に愛された証。  身体は小さいけれど存在感はとびきり。鮮やかなカラーは目に眩しく、シックな黒にもよく映えている。  優しい面差しながらも、瞳には意志の強さがにじんでいる。君からはそう、いつもあたたかい匂いがする。傷ついた体も心も癒してくれる、頼れる

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|かぐわしき草原の奇跡 

 植物学の祖ともいわれるヒルデガルトは、修道院の庭でどのように植物と対峙していたのでしょうか。今回は、自然の息吹を感じる土地で季節の花を愛でる、くるはらきみさまの暖かい眼差しを感じる3作をご紹介いたします。  集まった信者たちに炎の舌が降り、異国の言葉を話し始めたと伝えられるペンテコステ(聖霊降臨)。本作品では、炎に代わり色とりどりの花が降り注ぎます。  復活祭から50日、全ての生命を持ったものが目覚める季節。香気に満ちた大気のうねりを感じる淡い緑色のグラデーションが、天と

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|DAY 2

本記事はオンライン展覧会 くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》DAY 2の配信記録です。明日7/5(火)は配信お休みです。 Text霧とリボン  戻り梅雨の気配満ちる雨曇りの一日。ちいさな庭に出て、緑を終えた落ち葉を掃いて集めると、大地の野趣あふれる湿った香りが勢いよく立ち上ります。展覧会を通してヒルデガルトに出会う日々、香りが伝える季節のわずかな変化を、いままで以上に敏感に感じていたいです。  くるはらきみ個展二日目。ここオンライン・ギャラリーにて展覧会をお楽しみ下さ

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|緑煌めくヒルデガルトの春

 緑豊かなラインラントの貴族の家に生まれたヒルデガルトは、8歳で修道院に預けられた。本共同企画展のメインヴィジュアル「少女ヒルデガルト~小さな羽の旅立ち」でくるはらきみが切り取ったのは、幼いながらも将来への一歩を踏み出す決意に満ちた少女の得も言われぬ表情だった。  ヒルデガルトが成長して立派な修道女となり、ドイツの厳しい冬を乗り越え、植物園での植物たちとの感動の場面を描いた「春の再会」。たおやかな立ち姿の彼女が手を差し伸べる相手は、明るい緑色のフェンネルの精。ヒルデガルトは

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|予感

 新たな出会いの予感がする。  今度は、どんなヒルデガルトに出会えるだろうか。  時が止まったような静かな空間の中で、少女は一人、前を見つめている。いや、一人ではない。小さな羽根が風に運ばれて舞い上がる。その羽根はヒルデガルトにしか見えていないのかもしれない。  静けさの中に浮き上がるような心の動きが羽根となって、ヒルデガルトに寄り添うようにゆらゆらと揺れている。光は、ヒルデガルトと羽根を照らし、少女の不安を和らげ、門出を祝福しているようだ。  ヒルデガルトの瞳には迷いが

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|DAY 1

本記事はオンライン開催 くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》DAY 1の配信記録です。 Text霧とリボン  連日の猛暑から、暑さが和らいだ今日。緑の匂いを運んで窓を抜ける風の心地よさが身体の芯まで染み入りました。皆様、お変わりなくお過ごしでしょうか。  前期グループ展にて灯された美しい光を受け継ぐように、後期くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》が開幕しました。初日の本日、ヒルデガルトが棲まう菫色の聖所を逍遥して下さいました皆様に御礼申し上げます。  本展でも引き続き

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|植物に寄り添って

 植物に造詣の深いヒルデガルトに敬意を表すように、くるはらきみは様々な植物を用いてヒルデガルトの姿を描き出した。  少女ヒルデガルトは、先輩修道女のユッタに尊敬のまなざしを向けている。その瞳には、隠し切れない音楽への強い好奇心も浮かんでいるようだ。二人の姿は、修道服とあいまって、まわりに立ち並ぶ背の高いオダマキたちに溶け込んでいる。  上を見上げるヒルデガルトと、彼女をユッタと同じ目線で見下ろすオダマキのコントラストも微笑ましい。オダマキはオダマキで、彼女たちを見守っている