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モーヴ街7番地《スクリプトリウム〜菫色の写字室》

Text|HOLON

 スクリプトリウムとは、修道院の写字室のこと。
 モーヴ街7番地《スクリプトリウム〜菫色の写字室》は、文字にまつわるアート——カリグラフィとタイポグラフィ——に取り組んでいる二組、カリグラファの佐分利史子さまとブックデザイナーHOLONが主宰する場所です。

 ここでは、カリグラフィとタイポグラフィ作品の発表を中心に、文字・書体の面から文学や書物を紐解いていきます。また、聖書や修道院などキリスト教文化に関連するアート作品の発表も広く行ってゆく予定です。
 モーヴ街のお散歩の際は、ぜひお気軽にお立ち寄り下さいませ。

佐分利史子 Fumiko Saburi | カリグラファ →HP
伝統的なカリグラフィ文字を基調とした作品を制作している。文字そのものが持つなんらかの力を、題材(詩や文章)が持つ情景や感情に変えられればと考えています。
しばらく作品の制作発表からやや離れていましたが、今回のお誘いを機に、気持ちを新たに再開しました。霧とリボン様の企画にも久しぶりの参加です。皆様どうぞよろしくお願いいたします。
ホロン HOLON | ブックデザイナー・霧とリボン運営事務所
1997年設立。「清く正しく美しいタイポグラフィと手仕事」をモットーに、これまで1,000冊以上の装幀を手がける。1990年より開始した、装飾を重視したオリジナル・アルファベット書体制作を現代の写字法ととらえ、ライフワークとして取り組んでいる。2013年、HOLON タイポグラフィ作品展《スクリプトリウム〜聖書の言葉を写し、纏う試み(2013年・森岡書店)》開催。

 文字への興味の出発点は、約30数年前に遡ります。
 80年代後半に大英図書館で出会った、美麗を極める装飾写本「リンディスファーンの福音書」と、同時期に音楽レーベル「4AD」を中心にUKインディ・シーンを席巻していたクールなタイポグラフィ文化——新旧の文字文化との衝撃的な出会いにより、当時専攻していた舞台美術から、グラフィックデザイン及びタイポグラフィへと、興味の対象が大きく変わりました。

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 以来、私たちHOLONは、装飾を重視したアルファベット書体(デジタルフォント)を制作、また書家・石川九楊氏の元での10年に渡る書の研鑽など、文字にまつわる作品制作をライフワークとしてきました。

 そうして2011年、初めて企画とキュレーションを手がけた美術展《菫色の文法〜ルネ・ヴィヴィアンの寢台》(銀座・ヴァニラ画廊)に佐分利史子さまがご参加。

菫色の文法_DM

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 展覧会のテーマとなったベル・エポックの詩人ルネ・ヴィヴィアンの詩を、菫色の遺品のように作品化した佐分利さまの端正なカリグラフィに感銘を受け、文字、文学、書物への愛情をいっそう深めていきました。

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 同時刊行したアートブック『アンソロジー《菫色の文法》』には、参加作家の作品に加え、中島淑恵先生によるルネ・ヴィヴィアンの新訳や小早川捷子先生のエッセイなども収録。活版印刷・手製本などこだわりのアートブックは霧とリボン オンラインショップにて発売中です。ぜひご高覧ください。

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 2013年には、HOLON タイポグラフィ作品展《スクリプトリウム〜聖書の言葉を写し、纏う試み(2013年・森岡書店)》を開催。
 聖書の言葉をオリジナルのアルファベット書体で綴り、手袋やケープ、ドレスや小袖雛形など衣服の造形に構成、それらをリトグラフとシルクスクリーン、写真や大判書物として発表致しました。

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「SCRIPTORIUM」とは修道院の写字室のこと
長きに渡り、修道士たちの手により
聖書の言葉は壮麗に写され、遺されてきました
私達は、アルファベット書体デザインを現代の写字法ととらえ、
文字によって多彩な情景を表現できるよう、
装飾を重視した書体制作を行ってきました
本展示では、文語訳聖書と欽定訳聖書(KJV・1611年)を題材に、
聖書の言葉を写し、衣服として纏う試みを定着させた
タイポグラフィ作品(平面・書物)を発表します

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 デジタルフォントの制作をスタートして20数年後に実現した展覧会——そのモチーフに聖書の言葉を選び、展覧会名を「スクリプトリウム」としたのは、出発点となったリンディスファーンの福音書へのオマージュ。
 「スクリプトリウム」展で発表した版画作品などをここ菫色の写字室にて少しずつ発表していきます。

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 2016年には霧とリボンにて「スクリプトリウム II〜音楽を纏う試み」を開催。ふたたび佐分利さまにご参加頂き、音楽の言葉(楽譜と歌詞)をカリグラフィとタイポグラフィで表現致しました。

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 そしてこのほど、文字文化を愛する者として2010年代を伴走してきた佐分利さまのご協力を得て、モーヴ街7番地に「スクリプトリウム〜菫色の写字室」をオープン致しました。

 こうして回想してみて、文字へのフェティシズムの源泉となったリンディスファーンの福音書との出会いに、背筋が伸びる思いです。もし出会っていなかったら、核となる創作活動は大きく変わっていたことでしょう。
 いつかまた大英図書館を再訪して、素晴らしい一頁に新鮮な気持ちで出会ってみたいです。そして、まだ行ったことのないリンディスファーン修道院の廃墟への旅も夢見ています。

 イースターやクリスマスの時期には、霧とリボンゆかりの作家さまのご協力を得て、聖書や修道院などキリスト教文化に関連する作品発表も行う予定です。3番地の図書館《モーヴ・アブサン・ブック・クラブ》とも連携をはかってまいります。

 モーヴ街7番地《スクリプトリウム》には、現在3つの小部屋があります。
 二組の制作発表の場である「佐分利史子の写字室」「HOLONの写字室」。そして、この記事がアップされている「CLOISTER|案内所」です。スクリプトリウムの中庭として、訪れた方にゆったり過ごして頂けるよう、修道院の廻廊(散歩廊下)を意味する「CLOISTER(クロイスター)」と名付けました。*2021年8月現在、「くるはらきみの画室」「keino glassのガラス工房」「金田アツ子の温室」と、さらに3つ、アーティストの小部屋が増えました。

 文字フェチの方にはあまり出会ったことがないので、マニアックな場所になるかもしれませんが、私たちの身近にあり、あたり前すぎて意識化されない「文字」そのものの造形と美、あるいは「文字」を装飾せずにはいられないフェティシズムについて、作品発表と共に綴っていきます。

 菫色に染まるスクリプトリウムをどうぞよろしくお願い申し上げます。

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