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買うのを辞めた瞬間

モノにあふれる時代に、「これ!」という一品を選び出すのは実は難しい時代に入っているのかもしれない。それでも、消費者がこちらから出向かなくても、広告やメールなど、あらゆる手段をつかって、売り手側から問いかける。もはや迷惑メールの自動振り分けのように無駄骨になるとわかっていても、同じような手法でやり続けるのは、この社会のどれだけのお金と時間と資源が無駄になっているのだろうか。

1、「売りたい」商品は「買わない」

消費者が、これだけ選択肢にあふれている中で、売り手側から猛烈にプッシュしてくる商品がある。いや、売り出してくる「手法」といっても過言ではない。

「これどうですか?」
「これどうですか!」
「これお似合いですよ!」
「これが一押しです!!」

そんなことを言われて、安々と受け入れるほど消費者は甘くない。たとえそれに根負けするとしても、それは、「売れなくて可愛そう」という同情心ゆえの購買であって、「そのものが欲しい」わけではない。
(もちろん、この同情心を最大限煽って、高齢者から巻き上げようとしている売り手や会社が存在していることは理解の上である)

アパレル店舗の声かけが敬遠されてたり、無駄に迷惑メールを送りつけてくるECショップ。あるいは個人名であたかも手紙のように錯覚させるチラシを送ってくる封筒など、小細工を重ねても、すぐにその手法は消費者に見破られる。

いい加減「売る」という行為自体が無駄であることを、そろそろ売り手は気づくべきである。

2、買うのはあくまで「消費者」が決める

買い手にとっては、「決められる」ことが嫌い。あくまで選択肢として「自分で決める」ところに、購入の喜びや醍醐味があるのであって、「買う」という言葉も決定も、売り手は関与してはならぬのだ。

だから、売り手が最大限できる手段としては、「買わない」選択肢を作るということ。だから、商品ラインナップには、次の要素が散りばめられていることが肝要である。

①キャッチ商品:目につき、そしてそれを仮に買ったとしても無駄がないと思えるようなもの(例:お試し商品、お買い得限定商品)
②買わない商品:欲しい人には魅力的だけれど、まだそうでないお客様にとっては無駄、多い、損をするなど明確に買わないほうがいいという理由がはっきりしている商品(例:まとめ買い・大容量商品・高額商品)
③値段が魅力的な商品:④より安いのは、ちょっと劣ったり、量が少ないからだ、とはっきりわかる商品
④内容が魅力的な商品:価格はちょっと高いが、③より内容がよい商品

戦略としては、この③と④で消費者を悩ませるだけでよい。価格が大事な客は、③を選ぶだろうし、内容が納得するタイプであれば④を選ぶ。この「比較して選ぶ」ということが、購買比較そのものであり、意思決定が後悔のないものと認識するために重要なプロセスである。

以前、「価値」の違いについて、書いた記事がある。

消費者には、「お金」が残ることを価値とする人と、「中身」があることを価値とする人の二通りあると述べた。これは、個人の「大切なもの」が違うので、変えようがないし、関わることができない。

「価格安く」を徹底する人とは、もはや相容れないと思った方がいい。だから、値段と中身で悩ませる選択肢で、あとは消費者に委ねればいいのである。

3、売り手は、商品価値の追求に徹するべき

生産者は良いものをつくり、売り手は品揃え良く、そして欲しいものときちんと売場(ネット販売では写真写りや実在庫の確保になるが)を整えることにつきる。

だから、「売り方」としてのセールストークや、相手を翻弄させるための営業テクニックなど、もはや磨く必要はない。そもそもそれらは「商品に価値がないから」存在する方法であって、商品価値ではなく「営業手法」にすぎない。

売れないのは、「営業」は「価格」が悪いのではなくて、「商品」が悪いのだ。

そのことを真摯に捉えた時、ものづくりはやはり、日々鍛錬、日々成長であるし、売り手としては、「聞かれたこと」「求められたこと」に応えられるようにする「準備」にすべてがかかっている。

欲しい商品が、欲しいサイズや量で、欲しいときに買えるのか。この根本的課題が解決できていないのに、あれやこれやと手法ばかり、売場ばかり、価格ばかり手を加えても、全く意味がない。

流されるまま、市場に押しつぶされていくだけ。それなら、作る必要も、売る必要もない。ただ、そこに消耗される「モノ」があればいいだけだ。

4,もう一度「価値」とは何かを問い直す

あなたが作るものはどんな価値を持っていますか。
あなたが売っているものはどんな価値をもたらしますか。

それは、求めているモノと、求めているタイミングに、求めていることが心地よく得られるように準備され、整えられ、何か不都合があっても対処でき、そして、最終的にモノを手に入れた消費者が満足できるものであったか。

その総意として、作り手も売り手も、利益を享受できるものだ、ということを。

マーケティングやブランディングなどと言う前に、やることは山ほどある。いや、やり尽くしても、一生かけてもそれは終わらない。本当に、やるべきことを理解しているのか。胸に手を当てて、考え直して見る必要がある。

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