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「 あなたは、誰かの大切な人 」

 10月末、秋だけど春みたいな気持ちが良い暖かい日に、家の鍵をなくした。

 ちょっとした外出の矢先だった。心あたりがある場所に電話を掛けても交番に行っても、どこにもなかった。

 一人暮らしなので鍵がないとどうにもならない。せっかくの日曜日に何をしてるんだろうと落ち込んだ。

 そんなわけで突然家に帰れなくなり、充電もギガも瀕死のスマホと財布しか持っていなく、ぼーっとしていてもどんどん落ち込むだけなので、暇つぶしと気分転換にと有隣堂で本を買った。

 原田マハさんの短編集「あなたは、誰かの大切な人」

 表紙(原田さんが選んだ特製セレクション・カバーみたい)の綺麗さと原田マハさんだから間違いないだろうということで購入。 

 あとはシンプルなタイトルにも惹かれた。失敗した日には特に優しい小説が読みたくなる。

 実際に読んでみると、どれも感情が強く揺さぶられたり号泣したりすることはなくじんわりと温かい余韻が残るお話だった。家に帰れなくなった日でも電車に乗りながらでも作業の合間にでも、タイミングを選ばずに読める本だと思う。


 主人公はみんな40代前後の大人の女性。

 小さく見えるが、当人にとってはかけがえのない幸せな時間。家族だったり友人だったり恋人だったり大切な人との繋がり。そんな温かさを感じられるお話が詰まっていた。

 この人との繋がり、というのも相手に依存しすぎず、あくまでも自分は自分というように主人公達がみんな自立している部分も好きだ。

 あと、お話のタイトルも個人的に好きだ。「月夜のアボカド」とか「皿の上の孤独」とか。原田マハさんのセンスが好き。

 個人的に好きなお話は、「波打ち際のふたり」

 忙しくてなかなか会えてなかった友人と仕事や介護で日々頭を抱える主人公が久しぶりに2人で旅をするお話。

 これだけだとなんだかどこにでもありそうな話だが、この2人の互いに対する干渉のしかたや幸せな時間を過ごしている様子が、読んでいて高校の時の友人と2人旅をしたことを思い出した。その友人に会いたくなってしまった。

 私もその友人にとって大切な人であれたらいいなって強く思った。


 あとは「月夜のアボカド」と「緑陰のマナ」

 どちらも海外の明るく独特な雰囲気と登場人物の価値観や言葉、美味しそうな食事が素敵で印象に残っている。

 大好きな人と美味しいご飯を食べる、当たり前だけど何にも変えられない幸せを思い出させてくれる。

 微妙だと感じるお話もなく、どのお話も優しくじんわり温かく素敵な1冊だった。

 こういうお話を読むと大人になるのも楽しそうだなあと思う。

 幸せの在り方も感じ方も難しく考える必要はなくて。何歳になっても、楽しいことばかりの日常じゃなくても、大好きな周りの人達にたまに会えるならばそれで充分なのかもしれない。自分の人生に悲観的にならず、当たり前の幸せを忘れたくない。そして、自分の周りにいてくれる大切な人達にとっても自分が大切な存在でありたいなあと考えました。


 結局鍵をなくして一晩帰れなかったことも、友達と美味しいものを食べながら笑い話に変えられたので良かったです。


 いや良くはないかな、、
 もうなくさないように気を付けます💧

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