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「 ウエハースの椅子 」

「恋することの孤独と絶望を描く傑作」

この紹介文に惹かれて読み始めました。愛する恋人もいるし好きなことを仕事にし平穏な自分の暮らしを持っている、一見幸福な主人公。だけど絶望を抱えながら生きている。既に家庭を持つ恋人だからその幸せには絶望が付きまとうのです。読んでいても幸せな描写と孤独の描写が交互に入っていて、幸福と孤独は紙一重だなと感じました。

主人公と恋人の優しいやりとりが印象に残っています。愛する人を通して世界を見る感覚、私にはまだわからない感覚。もしかしたら後15年くらいして主人公に年齢が近づいたらもう少しリアルに感じるのかもしれない。ところどころ挟まれる幼少期の回想も、家族の優しさと同時に子供の時に感じていたどうにもできないことが多いもどかしさを思い出しノスタルジックな気分になりました。

そして、美味しそうにお酒を飲みながらそれぞれ好きな話をする描写が多かったです。こんなお洒落な世界観に憧れて、後半はワインと少し高めの生ハムとチーズを買ってきて、ひとり穏やかな夜を過ごしながら読みました。

後半では主人公がゆるやかに壊れていく様子が描かれています。絶望がやってくる描写の方は特に共感できる部分がありました。不自由はないし比較的毎日幸せなはずなのにふと絶望が入り込む感覚、私にもあるし大きさは問わず誰だって経験していることだと思います。

終始柔らかくてふわふわした夢のような感じがするお話でした。綺麗な言葉で描かれていて、一癖ある設定でもお洒落に感じさせてしまう江國さんの恋愛小説がやっぱり大好きです。


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