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コロナワクチン予約システムベンダーが明かす、365日奮闘の舞台裏①

ご覧いただきありがとうございます、サイシードCOOの叶です。
弊社のPHILOSOPHYを感じて頂くために、個人的にnoteをはじめました!
一発目のnoteとして、弊社がコロナワクチン予約システムの最大手ベンダーとして、コロナウィルスと共に怒涛の1年間を過ごしてきた舞台裏を3部作で紹介します!

第1部となる今回は、主に時系列でニュースとともに裏側を振り返っていこうと思います。


読者として想定している方

ワクチン接種が完了した人の割合
画像参考元:Our World in Data


ご存知の通り、日本のコロナワクチン接種は当初こそ出遅れましたが、接種が本格化してからは驚異的なスピードで進んできました。多くの方々の尽力の結晶であることは間違いありませんが、私達が命を燃やした予約管理システムもその一助に繋がっていると自負しています。
そこで、波乱に満ちた日々を自己満足のために時系列で振り返るとともに、日本のIT化の進展のために我々が学んだ様々な知識をシェアしていければと考えています。

  • 自治体や官公庁向けにビジネスをしたい、もしくは行っている企業の方

  • 日本国のシステムの現状と、未来に興味がある方

  • 単純に、コロナ対策の裏側を知りたい人

には、価値ある内容かと思うので、ぜひ読んでみてください!

サイシードの会社紹介

事業概要

サイシードは、コールセンターや企業のバックオフィス向けの業務効率化を目的とした、クラウドサービスやLINEミニアプリを提供している企業です。

sAI Chat:自社開発のAIエンジンを使った高性能AIチャットボット
sAI Search:検索意図をAIが先回りしてタグで提示する、次世代の検索システム
sAI Phone:音声を認識しテキスト化する音声認識システム
Monkey App:LINE上で動くミニアプリの開発サービス

2017年よりLINE社の開発パートナーとして、AIチャットボットやミニアプリの開発をしていたのですが、LINE社公共政策室の村井宗明さんからお声がけいただき、コロナワクチン予約管理システムを開発する運びとなりました。

日曜報道
フジテレビ「日曜報道THE PRIME」で紹介された際の映像

コロナワクチン予約管理システムとは

サイシードが提供するコロナワクチン予約管理システムの機能群

コロナワクチン接種においては、政府主導でV-SYSやVRS(後述)と呼ばれるシステムが開発されていますが、我々一般市民が接種予約を行い、その接種実績を自治体ごとに管理するためのシステムが『コロナワクチン予約管理システム』です。
サイシードでは、これまで開発した自社サービスと新たに開発したシステムを1つのパッケージとして、ワンストップで提供しています。

コロナワクチン予約管理システムの導入実績

実は、コロナワクチンの接種事業は、方針を提示するのは厚生労働省ですが、実施するのは全国1718市区町村になります。
(児童手当や10万円給付、持続化給付金などの事業も運営は自治体ごとに行われるので、自治体によってやり方やスピードも異なってきます)

したがって、
・コロナワクチン接種において予約システムを利用するか
・予約システムを利用する場合、どのサービスを利用するのか
は1718の市区町村ごとの判断になります。

各市区町村のHPを1つずつ確認し、どの予約システムを利用しているかを自社で調査した結果、サイシードのシステムは自治体数、利用人口数ともに最も使われているシステムだと確認できました。
したがって、それなりに有益な情報をお伝えできるのではないかと考えております!
(※職域接種や、都道府県で行う大規模接種は別物)

(左)自治体数ベースのシェア、(右)人口ベースのシェア

時系列で見るコロナワクチン予約管理システム開発

時系列で見るコロナワクチン予約システムの軌跡

まずは、主な出来事を羅列で紹介します。

2021/01/08:LINE社の自治体向け説明会で発表
2021/02/05:登録に2ヶ月超、接種実績も把握できないという大きな課題
2021/03/05:政府の公表から約60日という驚異のスピードで第一弾システムをリリース
2021/04/29:人気コンサートを上回るアクセスも、一切停止せず捌ききる
2021/06/10:都道府県主体の大規模接種に対応
2021/06/14:仕組みづくりからのサポートで職域接種にも対応
2021/06/27:わずか3日で大規模データ移行という地獄のプロジェクト
2021/12/23:制御ロジックから見直す大規模改修で3回目接種にも対応

2021/01/08:LINE社の自治体向け説明会で発表

LINE社にはLINEアプリを日常的なインフラにするために、自治体の住民サービスでの導入を促進する「公共政策室」という組織があります。
今回のワクチン接種においても、「LINEアプリから使える予約システム」としてLINE社の開発パートナーを集めた説明会が開催されました。
ここで、発表されたのを皮切りに、怒涛の1年が幕を開けます。

2021/02/05:登録に2ヶ月超、接種実績も把握できないという大きな課題

当初、国民のワクチン接種実績は各自治体が持つ『予防接種台帳』というシステムで、管理していく想定でした。
しかし、予防接種台帳への登録には2ヶ月程度かかる上に、国が各自治体の接種実績を把握できないという大きな課題がありました。
そこで、リアルタイムに接種状況を把握できるようにデジタル庁主導で、接種実績を政府で一元管理できるVRS(Vaccination Record System)の開発が公表されました。

ちなみにこの開発を行ったのが、ベンチャー企業である『ミラボ社』です。血を吐きながら開発してきたと想像されますが、このような重要なシステム開発においても大手SIerだけでなく、ベンチャー企業が存在感を示しているのには勇気づけられます。

2021/03/05:政府の公表から約60日という驚異のスピードで第一弾システムをリリース

ワクチン接種が3/20頃から開始されるということで、それに間に合うように第1弾のリリースを行いました。(説明会での発表から56日後)
この時点で接種が早い自治体を中心に、100自治体以上に利用いただいておりました。

当然、開発チーム全員が昼夜を問わず寝食を忘れ、とんでもないオーバーワークをして、なんとかリリースすることができるスケジュール感です。
(※普段は人間的かつ健康的に働いているベンチャーですが、この期間においてはサイシード創業以来の異例な働き方をしました汗)
この際にはMVP(Minimum Viable Product)の考え方で、とりあえずは使えるが機能も不足しているし、バグもある状態でリリースしました。
ここから、1週間から2週間おきに30回を超えるアップデートを行って現在に至っております。

2021/04/29:人気コンサートを上回るアクセスも、一切停止せず捌ききる

GW前後に接種が本格化し、少ない予約枠に対して人気コンサートのチケットを上回るような大量のアクセスが集中し、全国でサーバー停止、システム障害が続出しました。

世間一般のシステムに対する認識は、「普通に動くのが当たり前。バグが出たり、ましてやシステムが止まるなどあり得ない。」です。
ベンダーの開発期間の短さや、アクセス集中なんて知ったコッチャありません。そして自治体もかなりシステムトラブルにはかなり神経を尖らせているので、「サイシードは本当に大丈夫なのか!?」としつこく確認されましたが、開発チームの周到な設計のお陰で、一切の停止なく、ピークを乗り切ることが出来ました。

ピーク時間帯のCPU利用率

ついには競合会社から「どう考えても無理なんですけど、サイシードさんは何でアクセスが捌けるんですか!?」と電話がかかってきた件は、社内で語り継がれています。

2021/06/10:都道府県主体の大規模接種に対応
大規模接種とは自治体(市区町村)ではなく、主に都道府県が主体で実施し、複数自治体の住民を対象とした接種スキームのことです。
一番有名なのが自衛隊による東京と大阪の大規模接種です。

この時は、「存在しない接種券でも予約できる」と記事が出てシステムベンダーが批判されていましたが、実はベンダー側に非はありません。
先述のように接種券は自治体ごとに発行され、それが共有される仕組みがないため、自衛隊側でどんな接種券が登録されるかわからず、どんな接種券番号でも登録できるようにするしか無いんです。
当然、ベンダーに対する仕様書もその前提になっており、それに合わせてシステムを開発しただけというのが事実です。

国民が地方自治制度に無知なのを利用してか単に不勉強からなのかわかりませんが、一部のメディアが過剰に揚げ足を取る悪習が現れていると感じました。

ちなみに弊社(正確には、事務局を運営するパートナー企業)は入札で負けてしまったので、結果的に批判を受けることはなかったのですが、落札した企業は気の毒だと思います。

2021/06/14:仕組みづくりからのサポートで職域接種にも対応

自治体での接種を、あまり出歩かない高齢者や基礎疾患を持つ方の重症化防止を目的とした「静」の戦略とするなら、職域接種は感染を広げる可能性が高い現役世代の感染力を落とす「動」の戦略です。
自治体接種や大規模接種と並行して、大手企業や大学を中心に接種が進められることになりました。
ここでの問題は「まだ接種券が届いていない従業員が多く、接種券番号で管理できない」ということでした。
そこで、システム上で仮の接種券番号を付与する「仮接種券番号」という仕組みを作り、接種券が届いてから本物の接種券番号と実績を突合することで、解決しました。

2021/06/27:わずか3日で大規模データ移行という地獄のプロジェクト

3月にシステムをリリースしてからも、政府から次々と新しい指針・ルールが発表されるため、システムは常にアップデートを行う必要がありました。
とはいえ、全てのベンダーが付いてこられるわけもなく、高齢者接種から一般接種に移るタイミングで、1社の大手ベンダーがギブアップしました。
この会社のシステムは、人口数十万人の自治体を中心に多くの自治体に導入されていたため、その予約情報をサイシードの予約管理システムに移行するプロジェクトが発足しました。

データ移行のためにシステム停止できる期間が土日含め2,3日しかないにも関わらず、正規化されていないデータが大量にあったり、自治体ごとに微妙にデータ構造が違ったりと、かなり苦戦しましたが、パートナー企業の尽力もあり、なんとか力技で突破することが出来ました。

2021/12/23:制御ロジックから見直す大規模改修で3回目接種にも対応

3回目接種における主な制御ロジックの変更

ようやく2回接種が一段落したと思った矢先、現在猛威を奮っているオミクロン株への感染を防ぐために、3回目のブースター接種が決まりました。
これにより、システムとしてかなり大きな対応が必要となり、これまでの制御ロジックの前提を一気に見直す必要がありました。
ここで対応できなくなるベンダーも多く、弊社のシステムが200以上の自治体に導入いただくに至りました。
(このnoteを書いている今も、小児用ファイザーへの対応など新たな課題に取り組んでいます。)

エピソード1:まとめ

以上、これまでコロナワクチン予約システムを提供するベンダー目線で、約1年間を振り返ってきました。
記憶に新しい出来事もあったのではないでしょうか?

エピソード2では、ベンチャー企業である弊社がセールス面・開発面でこの規模のプロジェクトを上手くやってこられた理由についての詳細なノウハウを公開しています!
同業界のIT企業や、自治体向けに事業を行っている企業にとっては有益な情報だと思うので、引き続きお付き合いください!

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