見出し画像

レポート:(前編)KAGA Education Player's Day-文部科学省委託 教員研修の高度化に資するモデル開発事業の事業報告会

みなさん、こんにちは。
NPO法人学校の話をしようです。

今回は1月末に石川県加賀市で開催された、2023年度文部科学省委託教員研修の高度化に資するモデル開発事業の事業報告会についてレポートします。

加賀市教育委員会は2023年4月、“Be the Player”をスローガンとして掲げた学校教育ビジョンを発表し、「自分で考え 動く 生み出す そして社会を変える」子どもたちの育成に向けて新体制を始動しました。

これに並行し、加賀市は2023年度教員研修の高度化に資するモデル開発事業を受託し、私たち学校の話をしようを含む共創パートナー企業・団体と共に事業を推進してきました。

KAGA Education PLAYER's Day』と銘打たれた当日は、北海道から沖縄まで150名近くの教職員、教育関係者の皆さんが加賀市に集い、市内の小中学校の授業ツアーに参加した後、事業報告会に参加されていました。

加賀市教育委員会、共創パートナーである福井大学教職大学院、株式会社VisionWiz、認定NPO法人Teach For Japanによる報告の後、私たち学校の話をしようは、報告と共に対話の場づくりを担当しました。

当日は数十のグループが対話に取り組み、会場は熱気に包まれていました

前編にあたる今回の記事では、加賀市における2023年度教員研修の高度化に資するモデル開発事業実施の前提、また、共創パートナーの取り組みに関する報告について紹介していければと思います。


事業報告会開催に際して

報告会冒頭に映像による振り返りが行われた後、石川県加賀市教育委員会教育長の島谷千春氏、独立行政法人教職員支援機構理事長・中央教育審議会会長の荒瀬克己氏のお二人のお話がありました。

島谷氏からは2023〜2025年の加賀市学校教育ビジョン、その中で大切にしている「学びとは、子どものもの。子どもの中に答えがある」「子どもに委ねる学び」という考え方、教育ビジョンの進め方などについてお話を伺いました。

加賀市学校教育ビジョンの中には、4つのプロジェクトが含まれます

その中でも特に印象的な点として、人事異動に左右されず、文化として根付かせるために加賀市の全小中学校で実施するというものがありました。

モデル校方式や一部実施の場合、進級や進学に伴って子どもたちの間で経験の差を生み出してしまう可能性がありますが、全校で実施、かつ画一的なマニュアルを作らずに現場での個別対応によって進めていくという方針に、強いこだわりと覚悟が感じられます。

既存の「子ども観」「教師観」から変わることの重要性を語る島谷氏

荒瀬氏からは令和3年答申で示される「自立した学習者」がどのような経緯や意図で現れてきたのか?についての紹介と、島谷氏も言及されていた子どもの学びと教師の学び(研修)の「相似形」についてのお話がありました。

子どもと教師の学びの「相似形」についてお話しされている荒瀬氏

令和4年答申に示されたキーワードでもある「相似形」。子どもたちがワクワクしながら学びを進めるためには、先生たち自身もまたワクワクしながら継続的に学習を進める必要があります。

そのためには既存の「学習観」、ひいては「研修観」の転換を図っていくことが必要となります。

冒頭の映像記録の中では、探究的な学習を進める児童の発言を受けて、現場の先生もまた『自分の思っている教師像を変えていく』ことが必要だという旨の発言も紹介されていました。

また、同じ映像記録の中では、自分で課題設定した学びを深めるために、「交流」と称して友人たちや先生に自由にコミュニケーションを取りに行く子どもたちの様子も紹介されていました。

このように子どもが主体となり、自立的な学習を進めていく上では、自分と異なる意見の持ち主や、新しい見方、異なる視座の理解・活用と、そのための対話が重要となります。

そして、そのような実践の中で起こる視座の転換は、子どもたちの立場からは彼ら彼女らの抱く「教師像」や「学習観」の転換であり、教師の立場からは「子ども像」や「研修観」の転換と言えます。それらの転換もまさに相似形」をなしています。

「視座」についてお話しされている荒瀬氏

上記のようなお話をいただいた上で以下、本年度事業報告へと移りました。

本年度事業報告

加賀市の研修について(事業の前提)

初めに、本年度の文部科学省委託 教員研修の高度化に資するモデル開発事業を加賀市においてどのように捉え、どのように実施してきたのかの全体像について、加賀市教育委員会・小林湧氏からご説明がありました。

事業の推進に際しては、加賀市が教員研修について抱いていた3つの課題感に対して、共創パートナーである4団体がそれぞれの課題にアプローチしていく形で取り組んできました。

教員研修のあり方については、「子どもの学びと相似形を目指しているか」という課題感に対し、個別最適な学び・主体的な学びを促進する伴走型研修の実施を福井大学教職大学院が、協働的な学び・対話的な学びを促進する対話型研修の実施をNPO法人学校の話をしようが役割を担い、それぞれが往還するよう意識してきました。

教員研修の効果測定については、「子どもの学びの変容でみているか」という観点から、『「子ども」の学び方が変容したか』『「子ども」に力がつく授業になったか』という視座の転換をめざしました。

また、教科学力以外の指標については、「ペーパーテスト以外でどのように測るか」という観点から、エージェンシーの定量的な測定を認定NPO法人Teach For Japan、集中力や積極性の定量的な測定を株式会社エクサウィザーズグループの株式会社VisionWizがそれぞれ独自のサーベイを行い、データの分析を行いました。

以上の前提を踏まえ、共創パートナーによる報告が行われました。なお、NPO法人学校の話をしようの報告は後編の記事にて扱う予定です。

伴走型研修について

伴走型研修に関する報告は、福井大学教職大学院の小林真由美氏からいただきました。

福井大学教職大学院は学校拠点方式(School-Based Teacher Education)という学校の課題に即応できる独自の教員養成システムを採用しており、授業参観や授業研究会の実施、その後の授業改善構想などチームによる授業改善に取り組まれています。

また、近年は独立行政法人教職員支援機構(NITS)との協働も進めており、複数の機関とのネットワークづくりと共に「教員研修の高度化」に取り組まれているとのお話を伺いました。

福井大学教職大学院・小林真由美氏のよる報告

集中力・積極性の測定について

子どもたちの集中力・積極性の測定に関しては、株式会社VisionWiz・生田研一氏からご報告いただきました。

画像認識・解析、生成AIを中心としたAI×教育の領域で社会課題解決に取り組むVisionWizは、本事業においては子どもたちの学びの状況・変化を動画像の解析によって定量的に捉えるというアプローチを行ってきました。

アプローチの方法は教室の四隅にカメラを設置し、視線や姿勢、行動の変化の観察と解析を通じてデータ化するというもので、「一斉授業」時と「子どもに委ねた授業」時の子どもたちの様子を比較によって傾向や変化の可視化をめざされたとのことです。

株式会社VisionWiz・生田研一氏による報告

エージェンシーの測定について

認定NPO法人Teach For Japanが本事業で担ったのは、エージェンシーの測定についてでした。

エージェンシー(Agency)とは、OECD(経済協力開発機構)が推進してきたEducation 2030プロジェクトにおける中心的な概念であり、文部科学省は「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」としています。

測定方法としては、加賀市内の小中学校の全教員及び小学3年生〜中学3年生の児童生徒を対象に質問紙調査を行うというものです。

報告の中で興味深かった点としては、加賀市の子どもたちのメタ認知に関する数値が全国平均を上回る結果となっていた、というものがあり、この点は後述する庄学校の子どもたちの受け答えの様子にも現れていたように感じます。

認定NPO法人Teach For Japan・松尾啓司氏による報告の様子

共創パートナーの報告から

以上、共創パートナー3団体の報告も踏まえて、加賀市教育委員会・小林湧氏から本年度事業の振り返りの共有がありました。

加賀市における本事業は教員研修のあり方、教員研修の効果測定、教科学力以外の指標という3つの課題感から事業がスタートし、大きく2つのテーマ「教員研修のあり方を変える」「ペーパーテスト以外の指標を探る」に加賀市として取り組むこととなりました。

事業実施を通じて、教員研修については以下のような今後の取り組みの方向性が語られました。

各学校でチャレンジする実践者には個別伴走、教育観の転換には実践者が自分の言葉で語り、対話できるネットワークを築いていくこと、さらに今後は学校内の組織開発を進め、校内で対話を重ねながら自走していくよう促すなどです。

また、教員研修の成果指標へのアプローチについては、授業の内容の変化に絞った方が見取りやすい、動画像解析は個人の尊厳とのバランスに配慮する必要がある、といった気づきが得られたとの報告がありました。

庄小学校の子どもたちの声

報告を終えた後は、マイプラン学習(複数教科・自由進度学習)という授業を推進している庄小学校の5年生4名が会場に参加し、昨年度までの一斉授業と今年度から始まったマイプラン学習とで感じた違いなどについて紹介してくれました。

会場からの質問に対して子どもたちからの回答もあり、以下のようなやりとりが行われました。

Q、4年生までの手を挙げる授業と、5年から始まったマイプラン学習でどんな違いを感じましたか?

A、手を挙げる授業(一斉授業)では「わからない」と言いづらいことがありました。マイプラン学習だと自分で計画を立てて好きなところから始められたり、交流して自分の考えだけではなく、他のみんなの答えや考えを知ることができます。

Q、マイプラン学習が始まったら、先生は要りますか?居なくてもいいですか?

A、自分で考えても、友達に尋ねてもわからない場合、先生がいるとサポートしてもらえます。必要です。

Q、学校の授業以外、例えば運動会の準備などで、マイプラン学習の時のようなやり方が活かされていると感じることはありますか?

A、運動会の準備の時なら、言われてやる、ではなく自分で考えて準備したりする方が早いです。マイプランの授業がなかった時は、自分の考えていることを言うのができなくて。自分がこう思っている、と相手に言えるようになりました。

最後に、「この中で一番遠くから来た人は誰ですか?」と会場の皆さんのアイスブレイクをするような問いが子どもたちの方から投げかけられたことも、印象的な出来事でした。

以上のような子どもたちとのやりとりの時間を経て、対話の時間となりました。

私たち学校の話をしようが本年度事業において担当した対話型研修の報告および報告会内の対話の時間については、来週末公開予定の後編の記事にてご紹介できればと思います。

<みなさまへお誘い>

ここまでnoteを読んでくださりありがとうございました。
NPOに何かの形で関わりたい、応援したい!何かできることはある?と浮かんできているようでしたら、下記のアクションからお願いいたします。

寄付の応援

SNSフォローの応援

https://www.facebook.com/schooldialog2021

開催予定のイベント

4/29(月・祝日)17:00~20:00開催

よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは学校や先生とともにさせていただく活動の費用として使わせていただきます。