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統合失調症関連作品感想文集 当事者の著作を中心に

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統合失調症関連作品の感想文を書いています。当事者の著作が中心です。たまに当事者以外も。 感想を書きたいものはたくさんあるので、ゆっくりですが更新していけたらと思っています。
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#読書感想文

「過去の自分へ 未来の自分へ」モンゴロイド著 を読んで

統合失調症関連作品感想文集ーno.19 「過去の自分へ 未来の自分へ」 モンゴロイド著 統合失調症をもつ電子書籍作家・モンゴロイドさんが「過去の自分」と「未来の自分」にあてて書いた、手紙形式の作品です。 思いのたけを込めた長い手紙。 まずはその一部分だけ紹介させていただきます。 <過去の自分へ> と、体験には全て意味があったと振り返り、 いくつか苦言を呈し、さらにその後の経験を伝え、 過去の自分をねぎらい、しっかり引き受けておられます。 <未来の自分へ> 現在の

ただ一人を信じたときに~「舞台裏のルーレット」藍崎万里子著 を読んで~

統合失調症関連作品感想文集ーno.18 「舞台裏のルーレット」 藍崎万里子著 <ただ一人を信じたときに> 世界には黒幕がいて、全ては自分を脅かすために仕組まれている。 精神科で治療を受けながらもそんな確信を持ち続ける主人公と、現実の孤独に耐えかねて亡霊になった魂とが織りなす奇跡の物語。 いずれもこの世の常識を超えているけれど、孤独という点で現実に根を持つ同士。 病的な不思議と霊的な不思議が出会い混ざり合ってゆく、不思議あふれる魅力的な小説です。 人はみな裏切り者だと思

精神病をもつ「僕たち」の命の重さを問いかける~「四人の陰」戦姫静寂著 を読んで~(続)

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にーno.17 「四人の陰 スタートラインにさえつけない僕たちは」 戦姫静寂著 <精神病をもつ「僕たち」の命の重さを問いかける> 生産性などという言葉が幅をきかせ、心無い放言がSNSにあふれる息苦しい時代に私たちは生きている。 そんな中、この物語は「スタートラインにさえつけない僕たち」の命の重さを問いかける。 精神病をもつ4人の群像が、一人ひとりについて深く鮮やかにかつ自然に描き切られていることに、まず強い印象を受ける。この作者な

「夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?」冬樹コギ丸著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.16 コギ丸さんは統合失調症と発達障害をもつ虐待サバイバー。 夫の暁さんにはうつ病と発達障害。 そんな二人が支え合う日々を描いたコミックエッセイです。 表題のとおり「ビョーキ同士の夫婦のあり方」を中心に描かれていますが、コギ丸さんが子ども時代に母親から受けた虐待の影響があちこちに顔をのぞかせます。 私自身が虐待サバイバーなのでそこを中心に読まずにはいられませんでした。 そして、虐待後遺症と統合失調症の両方に苦しむ人に読ま

「飛べない鳥のかけるん」物語:かけるん 絵画:片岡洋子(kaede)を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.15 「飛べない鳥のかけるん」は 短くやさしい絵本ですが、読後に強い印象を残す作品です。 かけるんは飛べない鳥。飛ぶことに何度挑戦してもうまくいかないのです。 生きる意味を見出せずにいました。さらにこんなことを考えてもいました。 この一節は、宮沢賢治の「よだかの星」を思い起こさせます。 その昔「よだか」という鳥がいて、殺し殺される世界や虫の命をとる自身を悲しみ、自ら天へ還っていった。 かけるんもまた、そんな苦悩を抱え

「統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません)―推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日―」ズミクニ著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.14 統合失調症で措置入院となり職も失ったズミクニさんご自身による実録漫画。 山あり谷ありの道のりが軽快なタッチで描かれた、力強い作品です。 本書を貫く大きな流れは、発症から治療、福祉の利用を経て再就職活動に至る経過です。 併行して、折々の出来事が数々の4コマ漫画となって添えられています。 川の流れとともに岸辺の風景を細やかに描くようなこの構成のおかげで、とても読みやすくなっています。 ズミクニさんは家族親戚に頼らない

「五行歌集 白つめ草」石村比抄子著を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.13 「2級」「3級」という冷ややかな行政用語に象徴される「友」と「わたし」の状況の差。 そんなことをあっさり飛び超えて「わたし」におもいきりの励ましを届ける友。 冷たいはずのお役所言葉が逆に温かさをまとうのが不思議です。 白つめ草は、統合失調症をもつ作者による五行歌集です。 五行歌とは “字数にこだわらず現代のことばをそのままに自分の呼吸で五行に分ける詩” (「五行歌の会」による) 本歌集には、統合失調症にまつわる経験

「わたし中学生から統合失調症やってます。―水色ともちゃんのつれづれ日記―」 ともよ著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.12 2018年に発行された本書は、統合失調症をもつ作者によるコミックエッセイです。 読むたびに私が感じるのは、こんなに人に説明しにくい、伝わりにくいあれこれが ”水色ともちゃん” の登場によって伝わってくるのはなぜだろう?という驚きです。 はじめに、明らかな発症に至るまでの日々が描かれます。 孤立して不安や焦りのなか無理を重ねてゆくこの時期の切迫感は、家族にもなかなか分かってもらえない。 その頃の短いエピソードがいくつ

「今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる~統合失調症の私から世界はこう見えた~」 Himaco 著 を読んで

感想文集―統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.11 学校図書室に置いてほしいなあ。 中高生に読んでほしい。 実はHimacoさんの前作からそう思っていました。本作を読んでさらにそう思いました。 統合失調症は100余人に1人、中学校なら1学年に1人がいつかは発症する、多い疾患です。発症のピークは10代後半から20代にあります。 若い作者が統合失調症との暮らしを描き、苦悩を経て生の肯定を伝えるこの本を、生徒たちや周囲の方々に読んでもらいたい。 もしやがて発症したならば、

「統合失調症の不思議」黒木淑子著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.6 この一文に集約されるように、著者は自らの統合失調症体験について、その不思議さを率直に克明に綴っておられます。 医学的には病気であっても、自ら体験すれば「不思議」と言い表すのがふさわしい。 それが実感というものでしょう。 おそらく多くの人が、患者として医療を活用しながらも、自身の経験を「脳の病気」の一言でまとめられると何かが取りこぼされているような感覚を抱くのではないでしょうか。 著者がどのような不思議を経験し、ど

「喪失感をどうしたらいい?」 児玉朋己 著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.5 「喪失感をどうしたらいい?」  私が体験した、統合失調症回復のためのステップ7+1 児玉朋己著 こんな問いかけで始まるこのエッセイには、喪失感に向き合ってきた著者自身のこれまでの道のりと対処が静かな筆致でつづられています。 著者の30代は統合失調症の消耗期だったそうです。 陰性症状のため身体も頭も動かないまま時間ばかりがすぎ、「自分には30代がなかった」という喪失感を抱えるようになったそうです。 その後いくつかの

「木村きこりの統合失調症ライフ カミングアウト編」木村きこり著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.4 木村きこりさんはアーティスト・漫画家で、統合失調症をもっておられます。 この作品は、美大生時代に統合失調症をカミングアウトした経緯を自叙伝的につづられたものです。 テンポのよい漫画で、とても読みやすいです。 同時に内容は深く、決意への過程、周りの反応、カミングアウト後の思いなどが描き込まれています。 カミングアウトまでには山あり谷あり。 一般に重大な決心をするとき、その理由は一つではないことが多いように思います。

小説「四人の陰」戦姫静寂著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にーno.2 小説「四人の陰:スタートラインにさえつけない僕たちは」戦姫静寂著 精神疾患をもつ4人の青年がデイケア(回復途中に通う施設)で出会う。 楽しい時間、生きる目的や方向への問い、それぞれの病状悪化、そして・・・ いくつかの点から感想をメモします。※ネタバレ注意 1 精神疾患をもつ青年たち 遅れてきた少年期のような、4人そろっての冒険。 やりたいことへと一歩を踏みだす主人公「僕」の背中を、三人がそれぞれのしかたでそっと押

「家族・友人が統合失調症になったら」家猫著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.1 未治療で病識のない統合失調症の方を、どうしたら治療に結び付けられるか。 正解のないこの問いを、統合失調症をもつ当事者である著者が正面から取り上げた著作です。 さらに特筆すべきは、著者自身がそのような方を訪問し医療機関受診をサポートする活動を個人で実施されているらしいことです。 なぜ病識を持ちづらいか。 「人間は、自分の知覚したことを真実とする生物だから」と、著者は経験をふまえて端的に指摘し、天動説と地動説を例に分かり