見出し画像

小説「四人の陰」戦姫静寂著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にーno.2


小説「四人の陰:スタートラインにさえつけない僕たちは」戦姫静寂著

精神疾患をもつ4人の青年がデイケア(回復途中に通う施設)で出会う。
楽しい時間、生きる目的や方向への問い、それぞれの病状悪化、そして・・・

いくつかの点から感想をメモします。※ネタバレ注意


1 精神疾患をもつ青年たち

遅れてきた少年期のような、4人そろっての冒険。
やりたいことへと一歩を踏みだす主人公「僕」の背中を、三人がそれぞれのしかたでそっと押す場面。
病状悪化した仲間を励ましたいけど励ましすぎない思いやり。
差別への怒り。

置かれている状況は決して容易ではないのに、全ての場面から独特の優しさが立ち昇ります。
時折の呟きからうかがわれる生きかたへの思いもそれぞれな、四人の人柄に引き付けられます。


2 「僕」の変化

物語の最初と最後に、ある深刻な事件が描かれます。
最初、その件と“綿あめの軽さ”を結び付けていた「僕」が、最後にはまったく違う向き合い方をします。
その間にはさまざまな出来事がありました。友人達が僕にしてくれたこと、僕が彼らのためにしたこと。
最後の事件は主人公には耐えがたいものでした。その受け止め方に現れる「僕」の変化が胸に迫ります。


3 将棋の駒

物語を貫く軸のひとつが、将棋の駒です。
駒作りは僕の願いであると同時に、僕と友人とつなぐものにもなります。

最終章、僕が友人達を駒の書体や種類になぞらえる場面。
その頃には読んでいるこちらの中に彼らが宿っていて「そうだよね、○○君はその書体のイメージだね、△△君の動きはその駒みたいだよね」と、肯いてしまいます。

(書体はこちらに写真で紹介されています)
https://menhera40.com/insei/


4 余談

終盤に“恩返し”という少し古風で美しい言葉が出てきます。したくても、もうできない恩返し。それが印象的だったのは私の個人的な事情によるのですが、ここで見かけたおかげであらためて考えるきっかけになりました。


5 おわりに
当事者の視点に小説を紡ぐ力量が加われば、こんな群像を描けるのだなあ・・・

例えば精神科病院を舞台にした映画に感じる違和感 ~せっかくの作品なのに人物像に納得できない~ を思い出すとき、この小説はそれらとは別の次元にあると感じます。

ぜひ読んでみてください。


(追記)
静寂さんがこの感想文についてツイートしてくださいました。
ありがとうございます。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?