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【古代中世言語好きがオススメする歴史漫画(3)】目の前で数万人が死んでも明るく前向きな人たち:『ヘウレーカ』に描かれた古代人像の不思議な説得力

岩明均先生が古代のシラクサ戦争を描いた『ヘウレーカ』は、古代最高の(ひょっとしたら世界史上最高の?!)数学者であるアルキメデスを描いた作品です。

ただし、アルキメデスの数学者としての事績については、ほとんど触れられていません。

シラクサ戦争における伝説、「この戦争にはアルキメデスも新兵器の発明でおおいに参戦した」という一点を掘り下げた、「古代の戦争にまきこまれたアルキメデスとその仲間たち」の物語です。

アルキメデスの「シラクサ戦争への参戦伝説」とは、西欧に古くから伝わる、以下のような話です。

・シラクサが古代ローマ軍に包囲された時、アルキメデスが発明した、さまざまな新兵器が何度もシラクサ側のピンチを救った
・その中には、海上のローマ軍の戦艦を釣り上げて破壊する巨大な鉤爪の手があった(ロボットアーム?!
・セットした複数の石を連射できる自動投石機もあった(マシンガン?!
・太陽光線を一点に集めて敵の軍艦焼き尽くす鏡を応用した装置もあった(擬似レーザー光線?!

これらについては「いくらアルキメデスでもこれは伝説だろう?!」「いやアルキメデスなら本当にこれくらいの兵器は作っていたかもしれない!!」の論争が昔から絶えませんが、 

「このアルキメデス伝説がすべて本当だとして、シラクサ戦争での活躍をリアルに再現してみよう」というのが、この漫画『エウレーカ』のコンセプトです。

そしてここは、『寄生獣』や『七夕の国』といった残酷描写のキツいSFでキャリアを積んできた岩明先生の手腕のこと、

アルキメデスの珍兵器を前に、古代ローマ兵たちがズギャボバブチュベチャ、百人千人万人単位で、凄惨な死に様を遂げていきますw。

悲惨なのはローマ側だけではなく、アルキメデスにも、その家族にも、そして物語の語り手である主人公の男女二人にも過酷な運命が待っているのですが、

目の前で数万人単位が死体になっても、そのときは「ウエー」というものの次のエピソードでは爽やか前向きになっている主人公たちが凄くいい!

これは岩明先生の古代人像というよりは、単に岩明先生の作風なのかもしれませんが、、、。

しかし私が本作を読んだときは、「ひょっとしたら、実際に古代ギリシア・ローマの人たちというのは、こんなふうに死体とか戦場とかについては淡々としていたのではなかろうか」と解釈し、その古代人像に強い説得力を感じてしまったのでした。

実際、本作の「残酷さを前にしても心くじけない」古代人たちは、ちょうど前回とりあげた安彦和良先生の「陰湿でペシミスティックな古代人」像と対極になっており、同じ古代の残酷な戦場を描いていても作者によってここまで雰囲気が変わるのかという面白さもあります。

どちらの「古代人像」によりリアリティを感じるかは、どちらが正解という確証もない古代の話ゆえ、完全に読者側の自由です!

もっとも、そのような難しい話にせずとも、やはり岩明均先生の漫画は物語としてめちゃくちゃ面白い

実を言うと、古代中世マニアの私の目から見ると『エウレーカ』には時代考証と歴史背景の厳密さという点でやや不満な点があるのですが、岩明先生は古代史にめちゃくちゃ詳しい方なので、SFっぽい雰囲気にするためにワザと時代考証に凝りすぎていないのでしょう

時代考証と面白さのバランスというのはそもそも悩ましい問題ですが、この点で岩明先生のバランス感覚は冴えている上に、次回作にあたる『ヒストリエ』ではさらにこのバランス感覚が洗練されてくることになるのでした!

子供の時の私を夜な夜な悩ませてくれた、、、しかし、今は大事な「自分の精神世界の仲間達」となった、夢日記の登場キャラクター達と一緒に、日々、文章の腕、イラストの腕を磨いていきます!ちょっと特異な気質を持ってるらしい私の人生経験が、誰かの人生の励みや参考になれば嬉しいです!