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京都の陶芸家による、お茶碗の原型とろくろでの手作業、波佐見焼きでの絵付け SKÅL4

※この記事は、2018年に開催された文化イベントについて紹介しています。SKÅL/スコールとは、スウェーデン語で「乾杯」と「器」という意味があります。

恩師でもある陶芸家の松井利夫先生に、北欧と日本の架け橋となるような抹茶茶碗が作りたい、という相談をしたところ、原型デザインを引き受けてくださることになりました。北欧パターンが引き立つシンプルな形にしたい、という大まかなプランしかお伝えしなかったのですが、先生は高台の高さや胴の形を変えた三つの案を考えて、素焼きのお茶碗を焼いてくださいました。

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素焼きのお茶碗は、どっしりと肉厚で、実際には磁器として焼き上がる本番のイメージをつかむのが難しかったのですが、手に持ってみると、形の違いをはっきりと感じることができました。 専門的なことはさておき、少し外に広がっている、二つ目のお茶碗の口縁が、人差し指にフィットする感じが心地よいと感じました。仮のデザインを貼ってみると、デザインの見え方もこれが一番良かったので、これで進めることにしました。

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松井利夫先生による素焼きの原型は世の中に一つしかないものでしたが、これを型に抜くのではなく、一つひとつ手ろくろで仕上げたいと思いました。引き受けてくださったのは、京都の若手陶芸家の小坂大毅さんです。胴の部分は厚めにして手に熱が伝わりすぎないように、縁の部分は薄くして口触りがいいように、見えないところにまで細心の注意をはらって、心のこもった素焼きのお茶碗が100個仕上がりました。土は天草の土を使いました。

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京都で素焼きになった100個のお茶碗は、丁寧に梱包されて長崎の波佐見に送られました。そして、波佐見産地のデザイナーさんたちのご協力によって、手描きで絵付けが施されました。北欧デザイナーたちがデザインにこめた思いが、産地のデザイナーさんたちの丁寧な絵付けによって、作品となって仕上がりました。

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よく質問を受けます。「なぜ、わざわざ京都で形を作り、長崎県の波佐見に持って行って仕上げたのですか?」と。

それには理由があります。まず、京都はお茶の文化の中心であること。私たちのイメージしている抹茶茶碗を、イメージだけではなく、ほんとうに使いやすい形に仕上げていくには、京都が最適だと思いました。そして、波佐見焼は、400年の歴史を持つ磁器産地で、美しい白磁と染付のブルーが特徴的です。北欧デザインが美しく映える生地だと思いました。もうひとつ、私たちが波佐見にこだわったのは、波佐見が日用の食器を中心とした歴史ある産地であり、人々の暮らしにたくさんの美しい器をもたらしてきたからです。抹茶茶碗の美しさ、お茶を飲むことの楽しさを日常に、という想いをこめて企画をしてきた私たちにとって、この非効率な作り方こそがぴったりだったのです。

by S

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