研究者がデザイン思考を学んでどう変化したのか

僕は今、色々な企業のお手伝いをしながら、学校でも教えています。
元々は経営経済学、交通経済学が専門でしたが、デザインの世界と深く関わるようになり、デザイン学校でも教えるようになって5年になります。

この約5年ほどは、デザイン思考についてもかなり勉強しました。

デザインの考え方や方法、そしてデザイン思考を学んだことは、今思えばとても大きな変化をもたらしてくれました。

そこで今回は、全く違う分野の研究者が、デザイン思考を学んだことでどのように変化したのか、自分なりに振り返りながら説明してみます。

・研究者の目的と考え方
そもそも、研究者の目的は、おそらく一般の方が考えているものとはかなり異なります。これは大学という「職場」に由来するものです。
大学で「学者」という職に就いていると、仕事の評価は、基本的に研究成果、つまり論文です。書籍も含まれますが、いわゆるビジネス書のようなものは、基本的には評価されません。
あまりビジネス書ばかり書いていると、「あいつは研究ができない」なんて言われたりもします。

ちなみにですが、一般的にテレビなどで有名な先生と、学問で評価の高い先生は全く別です。

例えば学問で、かなり評価の高い、トップクラスの先生だけが、例えば経営学や経営学では、日経などから本を出しますが、それでもいわゆるビジネス書は、そうした先生方の執筆の中では、ほんの一部です。

このように書くと疑問に感じる方もおられるかも、しれません。
例えばポーター氏などの有名な本は、ビジネススクールのテキストとして書かれたものですから、学術書ではありません。

ちなみに、、、一応僕もテキストは書きました。

こうしたことから「普段の」学者の目的は、それぞれの研究分野の探求、そして社会全体の幸福です。ただし、「普段の」としたのは、例えば学識経験者として招かれた場合、専門の知識を以て、個々の問題解決に取り組みます。

・大学から民間へ
大学を辞した後、健康を害したという理由だったため、次の職を決めていませんでした。そうした折、知人から会社の経営を診てほしいとか、セミナーの講師の依頼を受けました。ここから民間でのキャリアが始まります。

民間では、必ず「顧客」が存在し、「利益」を得る必要があります。直接こうしたことに目を向けるのは、研究者になってからは初めてのことでしたが、それほど苦労はありませんでした。なぜなら「誰のため」とか「何のため」という、根本的な問題に目を向けることに慣れていたからです。

しかし一方で、学問研究は続けていますから、どうしても顧客の望みを、社会全体幸福と結びつけてしまう癖が抜けませんでした。
この癖は、特定の業種というよりは、経営者の方との相性があります。将来的なことを考えれば、僕の視点も必要なのかもしれませんが、必ずしも求められているとは限りません。

そういう意味では、僕は今開催している勉強会でも、「○○で儲かる!」という話は絶対にしません。あくまでも参加者それぞれの要望に合わせながら、経営学をベースにした内容ですので、なかなか人気セミナーにはなりません。

実は僕が今の形で独立するとき、尊敬する経営者の方から「君は‘100億’の売上を作ることはできても、目の前の人に‘100円’のものを買ってもらう力がない。でも焦ってはいけない。」と言われたことがあります。
僕が仕事をする上での相性にも、同じことが言えたのだと思います。

この後、とあるデザイン会社の方と一緒に仕事をすることになりましたが、僕に人を見る目がなかったのか、これもまたうまくいきませんでした。

しかし悪いことばかりではありません。この間に本格的に「デザイン」の世界に関わるようになります。そしてこのことが、僕に、これまでにない視点を与えてくれました。

・デザイン思考との出会いと変化
デザイン思考については、実は2000年以前から言葉としては知っていました。経営学分野では大きな研究テーマである、「意思決定」で取り上げられていたからです。しかしこの分野について、僕はあまり掘り下げていなかったので、それほど興味を持っていませんでした。
しかしデザインと深く関わったことで、僕の中でのデザイン思考の位置づけが急速に重要度を増します。会員になったデザイン協会の方に相談し、デザインがっかにも入会、本格的に勉強を始めました。

ところで、デザインという視点からデザイン思考を見ると意思決定論とはかなり違ったものとして見えます。なかなか明確な定義や理論を見つけられなかったので、理論的な勉強は自分で、デザインの視点からは、デザインという「行為」そのものや、デザイナーの方々の「思想」に目を向けて考えました。

さて最後に。
何だか僕のデザインについての勉強の変遷のようになってしまいましたが、僕がデザイン思考を学んだことで得たのは、マーケティングの視点を超えた「顧客視点」なのだと思います。
例えば「顧客志向」は、今の僕の見解では、あくまでも顧客を中心とした「企業の考え」です。
しかしデザイン思考では、顧客の問題や価値観を、文字通り「共感」することから始まりますから、製品やサービスの提供者でありながら、自分の考えを捨てて、顧客に「なりきる」ことから始まります。

これは明らかに、「社会全体」という研究者の視点から最も遠い視点を与えてくれたことと言えるでしょう。

だからこそ、今僕は最初に、「デザイン思考」とは、「顧客になりきることから始まる考え方」と説明しています。

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