マネジメントとデザイン思考の共通点 有名な理論が実践できない理由

企業やビジネスなどにつて、世の中にはたくさんの有名な理論や考え方があります。ドラッカー、コトラー、ポーターなどなど、、、多くの人が、色々な形で勉強していますが、実際に実践するとなると、なかなか難しいようです。

僕も経営学やマーケティングなどの講義を行ってきましたが、企業のお手伝いをさせて頂くなかで、やはりなかなか理解してもらえないジレンマを感じることが少なくありません。

そこで今回は、多くの方が学んでいる、ドラッカーの「マネジメント」と近年注目を集める「デザイン思考」を事例に、実践に少しでも近づけられるよう、考えてみたいと思います。

・デザイン思考の成り立ち
デザイン思考という言葉を、最初に用いたのは、経営学の、意思決定論で有名なハーバート・サイモンだと言われています。
サイモンは、人がどのようにして物事を決定するか(意思決定)の仕組みについて研究しました。
その中で、科学者とデザイナー(建築家)の問題解決の思考過程の違いについて研究し、デザイナーの思考過程をデザイン思考としました。
この考え方を基に、様々な理論や実践方法が研究されており、現在では、スタンフォード大学のDスクールなどを中心に、デザイン思考の考え方が研究・実践されています。

・デザイン思考に必要な視点
デザイン思考を実践するためには、優れたデザイン思考の実践者、つまり優秀なデザイナーが何を見ているのかを理解する必要があります。
言い換えれば、僕は、デザイナーでも、見ている範囲によって、デザイン思考を実践できる範囲が異なると考えています。

20世紀を代表するデザイナーにフィンランドのアルヴァ・アアルトという人物がいます。アアルトは、建築や都市計画、家具、食器など、人の生活に関わるあらゆる物のデザインを行いました。
サイモンのデザイン思考が、研究者と建築家の思考過程の違いを考えたことから、このアアルトという人物を考察します。

20世紀初頭の、知識人の多くが社会主義に傾倒したように、アアルトも社会主義者でした。
少し説明しますが、社会主義は、独占資本(大企業)による、労働者からの搾取と支配を否定し、平等な社会を実現しようとする、経済システムの考え方です。

つまり、歴史的な背景やフィンランドの状況などから、人(労働者)の暮らしの在り方を考えていました。

こうした点から、優れたデザイナー(建築家)は、例えば公園をデザインするとき、人はその公園へどのような気持ちでおとずれ、何をし、どのような気持ちになるのか、つまり人の営みを考え、どのような価値観や思想を与えるのかといった問題意識に基づいているものと考えます。
これは、人と社会の在り方を考える社会科学者の視点と酷似しているのではないでしょうか。

もちろん、それぞれのデザイナーの方によって問題意識は違いますが、例えばデザインの範囲が狭くなるほど、この視点も狭くなると思われます。
例えば、プロダクトデザイナーであれば、デザインに携わってきた「物」を通じた範囲で、グラフィックデザイナーであれば、携わってきた広告物などの範囲といったように、それぞれ、「デザイン思考」を実践できる範囲が異なると考えます。

※意思決定の過程の違い
研究者(科学者)は、基本的に極めて演繹的で、その問題がどのような理論に基づいて発生しているのかを考え、解決方法を導き出します。一方、デザイナーは、問題が発生している状態を観察し、その問題の本質的な発生源を特定し、解決に導きます。
研究者は、その問題の普遍性を、普遍的な理論の発見によって、恒久的な解決(発生をなくす)を目指すのに対して、デザイナーは、1つ1つの問題を直接解決に導きます。

こうした点から考えると、優れたデザイナーは、社会学者や社会思想家の視点を持っているのだと思います。

・マネジメントに必要な視点
ドラッカーは、について説明は必要ないでしょう。「マネジメントの父」と呼ばれる経営学者ですが、本来は法学出身であり、自身は「社会生態学者」を名乗っています。
ドラッカーは、企業を人が直接関わる、最も大きな組織と捉え、人の営みの在り方と企業の在り方を考えました。
つまりドラッカーには、企業は国や世界といった、1つの「社会」に見えていたことになります。ドラッカーがV字回復させた組織は、企業の個別の問題ではなく、マネジメントを通じて、その「社会」の根本的な問題に取り組んだ結果と言えるのではないでしょうか。

・視点の違いを考える
ここで思い出して頂きたいことがあります。ドラッカー、コトラー、ポーターにせよ、デザイン思考にせよ、その著書や考え方に「儲かる」という言葉は、全く使われていません。そもそも経営学で、「儲ける」方法を研究している人はいません。
この点で言うと、例えば松下幸之助など、優れた経営者と呼ばれる人たちも、「こうしたら儲かる」などとは言っていないはずです。
僕は、優れた経営者として評価されている人は、志を貫く達人だと思っています。例えば松下幸之助が政治家だったら、「政治の神様」と呼ばれていたのではないでしょうか。

多くの理論や考え方も、こうした「視点」の違いが結果に繋がらないのだと考えます。

理論を学ぶときは、その理論の背景となる視点、強いては「思想」を学ぶことが、不可欠なのではないでしょうか。

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