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【読書録】『selfish』トマス・J・レナード / バイロン・ローソン

最近よく売れた自己啓発系の書籍、『selfish』。副題は『真の「自分本位」を知れば、人生のあらゆる成功が手に入る』。 翻訳は、糟野桃代氏、監修は 秦卓民氏。 

こちらが出版されたのは2019年だが、これは、1989年に出版された、パーソナル・コーチングの父、トマス・レナード氏による世界的ベストセラー、『THE PORTABLE COACH』の完全日本語訳だ。英語の副題は『28 Surefire Strategies for Business and Personal Success』。("Surefire"は、あまり聞きなれない単語だが、「成功間違いなしの、確かな」という意味だ。)

この本は、自己啓発本としてラベリングするのは少々憚られるほど、大変クオリティの高い本だと思った。小手先のノウハウを伝授する類のものではなくて、自ら自分の人生を考え、自分らしく生きていくための道しるべや手がかりを教えてくれるもの。原題の『THE PORTABLE COACH』、つまり、持ち運べる「コーチ」、というタイトルが、私には、とてもしっくりくる。

この本の記録として、まず、目次の項目を列挙する。ステップ1からステップ28までの項目がある。これらの項目を眺めるだけでも、ポジティブになれる。それに続いて、特に印象に残った表現や、この本を読んで考えたことなどを書き留めておこうと思う。

目次

1. 信じられないくらいセルフィッシュになれ!
2. 未来というコンセプトを捨てる
3. あらゆることに根本的に対応する
4. あらゆる領域で「スーパーリザーブ」を構築する
5. 自らの喜びを追求することで価値を与える
6. 周りに絶大な影響を与える
7. 自分の才能を堂々と売り出す
8. 圧倒的な魅力を自分に感じる
9. 他人に感銘を与えるための「ライフスタイル」ではなく、自分が喜びに満ち溢れるための「人生」を
10. 控えめに約束し、期待以上の成果をもたらす
11. 真空状態を創り、引き寄せる力を産む
12. 遅れを一切排除する
13. これを最後に自分のニーズを完全に満たし切る
14. 細部にこだわりつくす
15. いっさい大目に見ない
16. 自分の喜ばせ方を周りに示す
17. 自分の最大の弱点を肯定する
18. 自分の感受性を高める
19. 自分の環境を完璧に整える
20. 徹底的に人格を磨く
21. 「現在は真に完璧だ」と心得る
22. どんな状況においても建設的な人になる
23. 自分の価値観を道しるべにする
24. あらゆるものをシンプルにする
25. 自分の技能を極める
26. 真実を認め、真実を伝える
27. ビジョンを持つ
28. ありのまま、人間らしくいる

以下、この本から私が受け取ったメッセージを、再構成してみる。

自分の喜びを追求して、やりたいことをやれば、すべてうまく行く!

1.信じられないくらいセルフィッシュになれ!
5.自らの喜びを追求することで価値を与える
9.他人に感銘を与えるための「ライフスタイル」ではなく、自分が喜びに満ち溢れるための『人生』を
16.自分の喜ばせ方を周りに示す

まずは、和訳版のタイトルにもなっている「selfish」「セルフィッシュ」、つまり、自分本位になれ、というメッセージについて、強烈に印象付けてくる。人生を幸福に生きるためには、自分の喜びを追求して、やりたいことをやりなさい。他人のことを気にしすぎず、自分の心の声に耳を傾けて、自分本位に生きてみればよい。全体として、そのようなメッセージと受け止めた。

こう言ってしまうと、何のことはない、当たり前じゃん、というように聞こえるかもしれないが、私のようなアラフィフ世代以上の日本人には、ちょっとハードルが高いのではないかと思う。

少なくとも、私は、和を重んぜよ、出る杭は打たれる、沈黙は金、苦労は買ってでしろ…などという言葉に象徴されるような、周りの人と同じような生き方をすることが是とされるような環境で育った。「自分の喜びをとことん追求してよい」と言われると、何だか、しがらみから解放される気分になる。

そして、セルフィッシュになることで、実は、自分が無理をしない範囲で、気持ちよく他の人を助けられることになるし、思いきりセルフィッシュになりながらも、自己中心的にも無神経にもならずにいることは可能だ、と説く。目から鱗、だった。

そのために、自信を持つ。

7.自分の才能を堂々と売り出す
8.圧倒的な魅力を自分に感じる
17.自分の最大の弱点を肯定する

誰にも、その人なりの強み、才能、魅力といったものがあるはず。それに目を向け、自分で受け入れて、自信をもって、高めていく。弱点は、強みに転換できる。自分を一番よく知るのは、自分自身。自分を肯定できなければ、他者から肯定してもらうことなどは期待できないと思う。

そのために、余裕を持つ。

4.あらゆる領域で「スーパーリザーブ」を構築する
10.控えめに約束し、期待以上の成果をもたらす
24.あらゆるものをシンプルにする

自分の喜びや大切なことを追求するには、余計なことをする時間も資源もない。徹底して、無駄は省く。断捨離する。嫌いな仕事、無駄な用事にアップアップしているようでは、本当に大事なことに力を注げない。余裕や、余力を持っておく。そうすれば、その余力の中に、チャンスを引き寄せることができるのだ。そのために、家事や事務のアウトソースをするなど、実践的なアドバイスもある。

そして、大切なことに資源を集中させる。

10.控えめに約束し、期待以上の成果をもたらす
12.遅れを一切排除する
14.細部にこだわりつくす
15.いっさい大目に見ない
18.自分の感受性を高める
19.自分の環境を完璧に整える
20.徹底的に人格を磨く
22.どんな状況においても建設的な人になる
25.自分の技能を極める

これらの項目だけを読むと、うんざりするほどハードルが高そうに思える。しかし、ひとつ上の項目で、断捨離をし、不要なことや無駄なことを排除して、余力を蓄えている状況であれば、やるべきことに集中すれば、できる気がしてくる。

そして、「10.控えめに約束し、期待以上の成果をもたらす」とあるが、コミットすべきことを厳選して絞り、それに資源を「全集中」させれば、期待以上の成果が生まれる、というのは腹落ちする。

(ところで、この項目で、「お客様が期待するものだけでなく、ちょっと工夫したものも提供する」というくだりがあるのだが、そこで、「クライアントが期待するものにちょっとひねりを効かせたり、付加的な要素を足したりすること」を例えて、「リンゴ10個のところをオマケして11個にするのではなく、11個目をオレンジにするということだ」(p218-219)という表現をしていた。このたとえが個人的には印象に残った。)

自分の喜ばせ方を他人に示す

28の項目のなかで、特に印象に残った項目のひとつは、「16.自分の喜ばせ方を周りに示す」だ。自分の喜びを追求しつつ、他者にも分かってもらい、他者とWin-winの関係を築くには、自分がこうすれば嬉しいということを、普段からコミュニケーションしておく、というのだ。これも目から鱗だった。そして、より具体的に、「自分の喜ばせ方を周りに示す」方法が列挙されている。

1. 自分にとって抵抗がない触れ合いのレベルを示す
2. 話を聞いてもらうために、あらかじめすり合わせをする
3. どういう気持ちの表わし方をしてもらえたら嬉しいか、人に伝えておく
4. どういう反応を返してほしいか人に伝える
5. 自分が求めるものは、きちんと人に伝える
6. 自分が一番受け入れやすい対話のスタイルをあらかじめ相手に伝えておく
7. 取引先には、どういうアプローチをされたら買いたくなるかを示しておく
8. 自分が他の人にもおススメしたいとい思うサービスのレベルを示す
9. こうしてもらえれば好きになる、ということを相手に伝える
10. 関係構築の基盤となる考え方に変化が必要であれば、そう伝える

このようなアプローチは、世代を問わず、日本人のメンタリティからは、出てきにくい発想ではないだろうか。

ふと、会社で、私の周りの人の言動を思い返してみた。確かに、成功しているビジネスパーソンほど、こういう行動を取っている。自分の求めるものや、心地よいスタイルはこうだ、ということを、実に、嫌味なく、さらっとスマートに、でも明確に、他人に伝えているのだ。

私も、これから、この点を意識して、自分の希望や要望をうまくコミュニケーションできるようになりたいと思った。

勤務先との関係

「19.自分の環境を完璧に整える」というセクションでは、次のような表現に出会って、衝撃を受けた。

雇用主と従業員との関係は、多くの点で恋愛関係に似ている。もし、困難に直面する場面が多いにもかかわらず、いつかもっと自分の価値が認められて道が開け、風向きが変わるのではないかという思いを捨てられずにいるとしたら、その期待は無駄になる可能性が高い。どういうわけいか、このことに気付くまでに時間がかかればかかるほど、怒りに満ちた、苦い別れに終わってしまうものだ。だから、このままでいるか、それとも次へ進むか、頭で考えて最終結論が出るまで待つ必要はない。自分の心と身体に聞いてみよう。・・・(中略)・・・答えは感覚が教えてくれる。(p380-381)

私は、今まで何度も転職をしていたが、転職するかしないか、あるいは、転職先をどの会社にするかについては、プロコン表などを作って比較をしたり、他人の意見を聞いたりして、慎重に検討していた。

でも、最後の決め手は、いつも、結局、「エイヤッ」っという、感覚だったような気がする。まさに、「答えは感覚が教えてくれる」ということだったのだ。これを読んで腑に落ちた。

実は、今現在、勤めている会社について、必ずしも愉快ではないことが、少しずつ増えてきている。そのため、ここのところ、少し、心がざわざわしている。もしかすると、今勤めている会社との恋愛関係を見直す、あるいは、思い切って、終了すべき時期に来ているのかもしれない…。そんなことが、この箇所を読んでいて頭をよぎった。

どんな状況においても建設的に

「22. どんな状況においても建設的な人になる」という項目は、難しいコミュニケーションをするときにも、建設的であれというメッセージだ。これは、私が、普段からそうありたいと特に気にかけていることなので、背中を押してもらい、励ましてもらったような、嬉しい気持ちになった。

この項目で、衝撃を受けたのは以下の記述だ。

自分の言動の中に、両親から受けた影響があることに気付く(…中略…)両親と同じ言動パターンは、ストレスがかかるなどして「今ここ」から自分の意識が離れてしまったときに表れやすい。(…中略…)子どもの頃から触れてきたであろう両親の声かけは、言った本人からすると褒め言葉や励ましのつもりでも、実はどんな状況においても建設的とはいえないものではることがほとんどだからである。(…中略…)でもあなたは、もっと進歩したコミュニケーションの仕方を選ぶことができる。あらかじめ埋め込まれたパターンに逆戻りするのではなく、どんな状況においても建設的であることを意識的に選択しよう。(p438-439)

私は、幼少期、地方の田舎で、ネガティブ思考の人たちに囲まれて育った。閉鎖的な田舎カルチャーのせいかもしれないし、大正時代生まれの祖父母や親戚など、古い世代の人々が周りにいたせいかもしれない。家庭でも、地域でも、学校でも、他人と比べて、劣っているところを指摘される、減点方式思考の人が多かったように思う。

叱咤して成長させようという、善意や愛情によるものだとは分かっているのだが、「あのとき、勉強していればよかったのに」「お隣のA子ちゃんはあんなにピアノを練習しているのに、あんたは全然できない…」などと言われることが多かった。「~すればいいのに。」「~ならよかったのに。」という否定の言葉を向けられることがとても多かった。しても仕方のない比較や後悔や反省を強いられた。

(私は、この「~のに。」という言葉が大嫌いだ。極めつけは、親からよく言われた、「あんたが、男に生まれればよかったのに。」という言葉だ。こういう、本人の努力ではいかんともしがたいことを否定的に言うのは、人を傷つけるばかりでなんのメリットもない。本当にやめてほしい。)

子どもの頃は、それが、変なのだ、という疑問を抱かなかった。ただ、頑張っても頑張っても、いつまでたっても認めてもらえなくて、つらいなあ、と思っていただけだった。

それが、大学進学で交友関係が広がり、社会人になって色々な会社に勤め、結婚して婚家と親戚付き合いをするようになり、世の中には、そのようなネガティブ思考の人ばかりではないと知った。いつも気持ちよいコミュニケーションをしてくれる人も、沢山いるのだと分かった。本当にびっくりした。天国のように思えた。

できないことを嘆いたり、他人より劣っていることを指摘したり、嫌々ながら欠点を克服する努力を強いるよりも、好きなこと、できることや強みを伸ばすほうが、本人も周りも幸せだ。また、仮に失敗があったとしても、それを非難しても何の得にもならないし、単なる時間の無駄だ。次回への教訓や、学びが得られた、貴重な経験ができた、と捉えればよいのだ。気持ちをポジティブに切り替えて、「はい、次!」と、次に進むほうがどれだけ良いか。

私の田舎の人々に限らず、東京でも、大阪でも、外国でも、時々、ネガティブタイプの人々と、交流せざるをえないときがある。そんな人から負のエネルギーを受けると、自分が、気持ちの上でのダメージや、ネガティブなインパクトを受けて、嫌だなぁ、と思うとともに、ネガティブな発想に凝り固まっている相手のことを、かわいそうだなとも思う。少なくとも私自身は、常に、建設的でポジティブな考え方をし、周りに対してもできるだけポジティブな影響を与える人でありたいと思っている。

おわりに

私の記事で何度も書いていることだが、本は、読む人や、読むときの状況によって、響く箇所、受け取るメッセージが異なる。この本は、531ページにわたる大作で、著者の熱いメッセージやアドバイスが、幅広く、かつ、ぎっしりと濃く詰まっているので、読む人や読むタイミングによって、学びは千差万別になるだろう。私も、残りの半生において、何度も読み返してみたいと思う。

みなさんも、この素晴らしい「コーチ」を手元に置いて、困ったときの相談相手にされるとよいのではないかと思う。


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