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【読書録】『Die革命』奥真也

今日ご紹介する本は、奥真也(おく・しんや)氏のご著書、『Die革命』(2019年、大和書房)。副題は『医療完成時代の生き方』

著者の奥氏は、医師であり、製薬会社勤務のご経験もある、医療専門家。この本は、そんな著者が書く、最近の医療技術の進歩と、それに伴って転換を迫られる私たち人間の生き方についての示唆をまとめたものだ。

もうお分かりだろうが、『Die革命』というタイトルは、「大革命」という単語と同じ音で、掛け言葉になっている。「大革命」といってもおかしくないくらい、最近の医療技術の進歩は、本当に著しいのだ。

帯に書かれている「『死』は死語になる。」というキャッチコピーも、センスが良く、目を引く。そして、本当に、死なない社会、いや、簡単には死ねない社会になるというのだ。

私は医学については全くの素人だが、そんな素人にも読みやすく、分かりやすく、最近の医療技術について解説してくれる。そして、その内容は、驚くものばかりだ。

そして、著者の考える健康維持の秘訣のみならず、処世訓も織り交ぜられている。身体だけでなく、心の持ち方についても考えさせられる本だ。

印象に残った箇所の要約

以下、印象に残った箇所を要約する。

まず、繰り返し、人が死なない「不死時代」の到来について、驚きの事実をわかりやすく述べてくれる。

病気では人が死なない時代、「不死時代」がやってこうようとしている。(p32)
現在は医療がロケット級の進歩を遂げつつある。(p36)
がんを完封する時代がやってくる。(p41)
すべての病気を克服してしまうのが「医療の完成」だとするならば、現在は9合目まできている。(p57)

次に、不死時代を可能にする、医療にかかわる様々な最新のテクノロジーについて紹介している。医療にもテクノロジーにも疎い私だが、それぞれの技術がイメージできるように、分かりやすく説明してくれている。

AI、ブロックチェーン、代替臓器、手術ロボット、iPS技術、ゲノム配列の解析、ビッグデータ、ウェアラブル…などなど。

さらに、不死時代になった場合に、人間が直面する危機「リビングデッド」と、それに対する心構えや対策などを述べている

不死時代では「生きる」ことについて新たな危機が生じる。それは、「リビングデッド(living dead)」の状態になること=「本来ならいきいきと活躍できるはずの人が、人生で自己実現を果たせなくなった状態で延々と生き続けること」(p208)
不死時代の恩恵を享受するためのゴールデンチケット
1.死なない意思(死にたくない理由)があること
2.死なないための十分な健康に気配り(不死時代へ入場する努力)をすること
3.不死時代の恩恵が得られない例外的疾患にかからないこと(運)(p210)
できること:定期的な診察、歯磨き、適切な体系、水分の接種、バランスのよい食事、ほどほどの運動、人とかかわり続けること...などなど。
折に触れて病院に行くことや、生涯薬を飲み続けることを後ろ向きにとらえるのではなく、「普通のこと」「よいこと」として受け止め、受け入れるという、気持ちのパラダイムシフトが必要。(p232)

最後に、「利己的な自分」からの解放、について、著者の考えが述べられる。この部分は、著者のお人柄が現れており、私はとても共感しながら読んだ。

「健康であることだけ」に対する満足感や達成感は減少するだろう。そのような世界においては、「健康であること」以外の持続的な充足感や生きがいの形成、アイデンティティの再構築が必要になってくる。(p249)
いろいろな心の悩みや社会課題の根源は何なのか。それは「利己的な自分」への違和感ではないか。(p252)
人間本来のあるべき姿に立ち戻り、利己的自己から利他的自己の優先、というシフトができれば、それは健康寿命につながると考えられる。またその利他化が人生を豊かにし、それが健康寿命を延ばし……という正のスパイラルが始まる。(p262)

新たな気づき

ところで、私がこの本を入手したのは、発売されてすぐの2019年3月頃のことだったが、最近になって読み直してみて、以下の気づきがあった。

ひとつめは、次の記述に関してである。

歴史的に、猛威をふるっていたある病気が制圧されると、なぜか次の克服困難な病気が出現してきた。(中略)しかし、人類はいまや、新しい敵となる病気をたちどころに調べ、対策を立て、それもまた倒す、というノウハウを獲得するまでの存在となっている。(p96)

というくだり。昨年から、新しい、克服困難な感染症である新型コロナが出現した。そして、今、人類は、それを素早くワクチンや治療薬を開発して対処しようとしている。この本が出版されたのはコロナ前の2019年のことだが、著者のこの記述が、まさに、予言のように見事に的中している。

2つ目は、次の記述に関してだ。

認知症の特効薬は2019年1月現在まだめどが見えていない。(p184)

先月(2021年6月)、認知症の特効薬が米国で承認されたというニュースが飛び込んできた。

この本が出てからたった2年超の間に、認知症と戦うための薬が、実際に、世に出てきたのだ。この、スピード感。まさに、あらゆる病気が、新しいテクノロジーによってどんどん克服されているのを、肌で感じる。

おわりに

とても読み応えがある一冊だった。文系人間の私でも、サイエンスが人間にもたらす恩恵の素晴らしさを垣間見ることができた。それと同時に、不死による長寿のもたらす危機と、長い老後をどのように生きるべきかを深く考えさせられた。

医療テクノロジーの進化についての情報を得たい方にはもちろん、これからの人生100年時代をどう生きようか、と考えている方にも、強くオススメしたい。

ご参考になれば幸いです!


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