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【読書録】『LIFE SHIFT 2 - 100年時代の行動戦略』アンドリュー・スコット/リンダ・グラットン

以前、「人生100年時代」を説いて一世を風靡した世界的ベストセラー、『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』についての記事を書いた。

今日ご紹介するのは、その続編、『LIFE SHIFT 2 - 100年時代の行動戦略』。著者は、前作と同じ、ロンドン・ビジネス・スクールの経済学教授アンドリュー・スコット氏と、同校の経営学教授リンダ・グラットン氏

前作では、人生100年時代がすぐに到来すること、従来の3ステージの人生モデルでは破綻をきたすこと、そのために、無形資産を築き、多様な選択肢を考え、時間を有効に使って人生を充実させるとよいことなどを教えてくれた。

この本は、前作で述べた概念を、架空の人物たちのストーリーを用いて、さらに深堀りし、具体化している。特に、ヒロキとマドカという、日本人の20代のカップルが登場し、彼らの目から見た日本の社会についても多く言及されている。日本人にとって、とても身近に感じられるくだりも多い。

さらに、個人の観点のみならず、個人が幸せになるために必要となる、企業、教育、政治に求められることについても、深い考察がなされている。

以下、特に印象に残ったくだりを書き留めておく。

物語・探索・関係

(...)人は未来を見て希望と野心と夢をいだき、みずからの潜在能力を開花させたいと考える。そして、ただ経済的に豊かになるだけでなく、帰属意識と自尊心を満たすことを、要するに有意義なアイデンティティをもつことを欲する。(...)
 本書では、3つの要素に焦点を当てる。(...)

※物語 自分の人生のストーリーを紡ぎ、そのストーリーの道筋を歩むこと。それは、人生に意味を与え、人生でさまざまな選択をおこなう際の手引きになるような物語でなければならない。具体的には、以下の問いに答える必要がある。「私はどのような仕事に就くのか」「そのために、どのようなスキルが必要になるのか」「どのようなキャリアを築くのか」「老いるとはどのような経験なのか」

※探索
 学習と変身を重ねることにより、人生で避けて通れない移行のプロセスを成功させること。以下の問いに答える必要がある。「長寿化によりキャリアの選択肢が広がるなか、どのように選択肢を検討するのか」「そのために必要なスキルは、どのようにして身につけるのか」「どのような変化を試みて、これまでより多くの以降を経験する人生をどうやって歩んでいくのか」

※関係
 深い絆をはぐくみ、有意義な人間関係を構築して維持すること。以下の問いに答える必要がある。「家族のあり方が変わりつつある状況に、どのように対応するのか」「子どもの数が減り、高齢者の数が多くなる世界は、どのようなものになるのか」「世代間の調和を実現するために、私やほかの人たちには何ができるのか」(p55-57)
 複利の魔法がものを言うのは、資産運用だけではない。複利は、スキルや健康や人間関係への投資など、時間を味方につけられるタイプのほかの投資でも有効だ。(p79)
 ハーバード大学の経済学者センディル・ムッライナタンとプリンストン大学の心理学者エルダー・シャフィールが指摘しているように、重要な資源が不足していると、その不安に思考を支配されて、直近のことしか考えられなくなる場合がある。この「トンネリング」と呼ばれる現象により、人はしばしば劣悪な意思決定をくだし、将来そのツケを払わされる羽目になる。(p82-83)
 また、行動経済学で言う「ナッジ」の手法を活用するのも有効な方法だ。多くの時間と集中力をかけなくても正しい意思決定ができるように、好ましい判断を促す環境をあらかじめつくっておくのだ。たとえば、貯蓄を増やすために、家賃を支払うタイミングで貯金箱に5ドル入れるようにすると宣言したり、休憩時間を確保するために、毎週火曜の午後は会議の予定を入れないと誓ったりすればいい。(...)(p83-84)
 3ステージの人生から脱却するうえでとりわけ難しい点のひとつは、仕事と余暇のトレードオフに対処することだ。それは簡単ではないが、うまくいけば旺盛な活力が湧いてくる。3ステージの人生における第2のステージでは、仕事が最優先だった。しかし、長寿化の進展により人生の年数が増えたとき、その増えた年数を有効に生かそうと思えば、ときには仕事の時間を減らして余暇時間をもっと増やす必要がある。(p84)
 増加した余暇時間を再配分する方法は、数カ月や数年くらいのまとまった期間、仕事を離れるという形態だけではない。1日の労働時価を減らしたり、週休3日制で働いたりすることも可能になるだろう。労働時間を減らせるかもしれないという楽観的な見通しの根底には、シンプルな経済的理屈がある。テクノロジーが人間の生産性を向上させれば、1時間あたりの生産高が増加し、働き手の所得も増える。そして、人は豊かになると、あらゆるものをそれまでより多く欲しがるようになる。その点では余暇時間も例外ではないのだ。(p106)
 重要なのは、キャリアの流動性が高まる時代には、ひとりひとりが責任をもって主体的な選択をおこなう必要があるということだ。昔と違って、キャリアを築くプロセスは、あなたと雇用主の共同作業ではなくなる。雇用主があなたのスキルを向上させ、新しいステージに向けた計画を立て、未来のための資金準備をし、キャリアのさまざまな選択肢を検討してくれる時代ではなくなるのだ。こうしたことは、あなた自身の役割になる。(p113)
 ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・ディートンとダニエル・カーネマンは、アメリカ人を対象に大規模な調査をおこない、幸福と金の関係を調べた。それによると、日々の幸福感に関して言えば、年間所得が7万5000ドルを超えると、所得がそれ以上増えても幸福感は高まらないという。しかし、裕福な人ほど概して生き甲斐を感じていることがわかった。ディートンとカーネマンはこう結論づけている。「所得が高いと、人生の充実感は高まるが、日々の幸福感は高まらない。一方、所得が低い人は、人生の充実感が低く、情緒的な幸福感も低い。」つまり金があれば幸せになれるとは限らないが、金はよい人生の重要な柱だと言えそうだ。(p116)
 しかし、人生全体を通じた幸福感と満足感を調査した研究の結果を見ると、金以外のもうひとつの重要な要素が浮かび上がってくる。その研究とは、ハーバード大学医学大学院でおこなわれた「グラント研究」だ。(...)人生への満足感を最も左右する要素は「温かい人間関係」だというのだ。この研究を指揮した研究者のジョージ・ヴァイラントはこう述べている。「幸福とは愛である。それ以上でもそれ以下でもない」。ほかの人とつながることは、よい人生を送り、人生で直面する試練に対処するための土台になるようだ。(p116-117)
(...)最近の研究によれば、人の頭脳は年齢を重ねても、アリストテレスが考えていたよりはるかに強い可塑性を維持し続けるらしい。人は何歳になっても学ぶことができるのだ。(...)(p134)
 マドカとヒロキは、「キャリア+キャリア」のモデルを試す社会的開拓者といえる。このような生き方を選ぶ人たちについて研究しているINSEADのジェニファー・ペトリグリエリが指摘するように、2人がじっくり話し合い、互いに対する責任を引き受ける関係には、双方が自己意識とアイデンティティを広げ、深められるという利点がある。両者とも充実したキャリアをもつことができるため、2人が互いにサポートし合えるし、職業上のアイデンティティも強化される。こうして安定した基盤が築かれることにより、2人は支え合い、励まし合って生きていける。(p189)
(...)社会起業家マーク・フリードマンが言うように、「高齢者は、いまの世界で唯一増加している天然資源」なのだ。(p212)

企業の課題

(...)企業がエイジとステージの結びつきを断ち切る必要がある。具体的には、2つの行動を取るべきだ。ひとつは、入社年齢を多様にすること。そうすれば、人々は人生の段階によって、仕事につぎ込む時間とエネルギーを増やしたり、減らしたりしやすくなる。もうひとつは、引退と生産性に関する考え方を変えることだ。(p226)
(...)ジョシュア・ゴッドバウムとブルース・ウルフの表現を借りれば、「ほとんどの人は、温かい風呂に浸かるように引退生活に移行したいと思っている。そのプロセスがゆっくりと、少しずつ進むことを望んでいるのだ」。ところが、「いきなり冷たいシャワーを浴びせられて」いるのが現実だ。(...)(p231)
 職業人生を長く延ばすことの大きな妨げになっているのは、年齢(エイジ)と賃金(ウェイジ)を結びつける暗黙の常識だ。多くの業種の企業では、在職年数が長くなるにつれて給料も上がっていく。その結果として、高齢の社員は高給取りになり、景気が悪くなると真っ先に解雇されやすい。
 この問題を解決するためには、真の社会的発明が必要だ。ひとつの方法としては、給与体系と勤務体系を柔軟化することが考えられる。さまざまな研究によると、60歳超の働き手の多くは仕事を続けたいと思っている反面、フルタイムで働くことはたいてい望んでいない。(p232-233)
 ベルトラン(注:シカゴ大学スクール・オブ・ビジネスのマリアンヌ・ベルトラン氏)の研究では、仕事の世界における不平等の本質は家庭における不平等だと結論づけている。女性たちは家族の世話に時間を費やしているために、職場で不利な扱いを受けているが、男性が家族の世話をすることへの支援はほとんどなされていない。その結果として、キャリアを追求する女性には、男性よりも重い負担がのしかかっている。
 家族の関係を強化し、家族が過酷な経験を乗り越える力を高めるためには、父親が家族と過ごす時間を増やすことが有効な出発点になる。(p236)
(...)ひとつのシンプルな解決策は、政策を変更するというものだ。スウェーデン、ノルウェー、カナダのケベック州など、「父親クオータ」とでも呼ぶべき制度を採用している政府も多い。子どもの両親が2人で取得できる合計の育児休業期間のうち、片方の親の取得日数が一定の基準を下回ってはならないとする制度だ。もし父親の取得期間がその最低基準に達しなければ、夫婦はその分の育児休業期間の権利を失うことになる。
 このような政策には、男性の育児休業取得を促す経済的なインセンティブをつくり出す効果に加えて、もうひとつの手ごわい問題、すなわち男性が育児で担う役割についての社会的規範を変える効果も期待できる。(p238)
 今後は、高齢の親族を介護するために仕事の時間を減らしたり、柔軟な働き方をしたりすることを望む人が増えるだろう。育児休業の場合と同様、その希望に応えるためには政府と企業の行動が不可欠だ。政府は、育児休業制度にならって介護休業制度を法制化してもいい。ただし、その場合は、女性の介護負担ばかりが重くならないように配慮が必要だ。世界全体で見ると、女性は男性に比べて、無給の介護労働に携わる時間が2~8倍も多いという。育児休業における「父親クオータ」のように、介護休業にもいわば「息子クオータ」を導入すべきなのかもしれない。(p240)
 このように柔軟な働き方を望む人が増えれば、柔軟性の乏しい働き方をいとわない人は減りはじめる。柔軟な働き方を提供しない企業は、採用できる働き手の候補が大幅に減ることになる。働き手の多くがフルタイムの雇用を望んだ時代には、企業が柔軟な働き方を提供することには多大なコストが伴った。しかし、誰もが柔軟な働き方を望む時代になれば、そのような働き方に対応することが各段に容易になる。
 ジレンマの解消を期待させるもうひとつの要因は、新しいテクノロジーが登場して生産性が向上することにより、やがて週休3日制が普及すると予想されることだ。1週間の勤務日が4日だけになれば、社員が家族のために時間を割き、柔軟な働き方を実践するための選択肢が大幅に拡大するだろう。(p241-242)
(...)高齢の人たちが働きやすいように仕事を設計し直すという選択肢もある。たとえば、年齢を重ねるにつれて、1日の体調のリズムが変わるという点に着目してもいいだろう。(中略:マクドナルドが朝食の時間に働くスタッフとして高齢者を採用した例。)
 高齢の人たちが働きやすくするためには、肉体の衰えが生産性に及ぼす影響を和らげる工夫をすることも必要だ。(中略:BMWの工場で、椅子に座って作業できるようにしたり、組み立てラインの作業スピードを遅くした例。)
 あるいは、高齢の働き手のために新しい役割をつくってもいい。(中略:エアビーアンドビーでの「現代の長老」とでも呼ぶべき役割の例。)(p252-253)
 高齢の働き手が職場に加わることにより、スキルの多様性がもたらされる可能性を検討した研究に、ロンドン・ビジネス・スクールのジュリアン・バーキンショーらがおこなったものがある。(...)全般的に言って、年長のマネージャーほど協働志向が強く見られた。メンバーと緊密な関係をはぐくみ、みずからの方針を支持してくれる人たちの連合体を築き、起こりうる問題とメンバーの懸念を予期することを重んじていたのだ。
 注目すべきなのは、概して年長の働き手のほうが、テクノロジーの変かにより労働市場で重要性を増す人間的スキルを備えているという点だ。高齢の人たちに担わせる役割を見直して、そのような働き手が強みを生かせるようにすることは、人々が長く働き続けることを可能にするだけでなく、企業の業績を高めるうえでも大きな意味をもつのだ。(p253-254)
(...)平均寿命が延び、年金の受給期間が長くなるにつれて、企業にとって金銭的な年金を支給し続けることの負担が重くなってきた。その結果、企業年金制度を設けない企業が増えはじめている。
 では、その代わりに企業が提供できるものはないのか。マルチステージの人生では、社員は老後の生活費だけでなく、健康、スキル、移行の能力など、さまざまな無形資産を築くことにも関心をもつ。そこで、企業は「年金」の概念を広げ、無形資産の構築を支援して、マルチステージの人生を生きるのに役立つキャリアの道筋を提供することも「年金」の一種と位置付けてはどうだろう。キャリアの途中で休業できるようにしたり、社外の研修を受講する費用を会社で負担したり、仕事に注ぐエネルギーを時期によって増減できるようにしたり。こうしたことも、広い意味の「年金」の一部と考えるべきなのかもしれない。(p256)
(...)これから労働市場に加わる人よりも、労働市場から出ていく人のほうが多い。豊富な経験と結晶性知識をもつ働き手がごっそりいなくなるのだ。しかも、今後は、世界で移民の移動が減りはじめる可能性が高い。そこで、企業は採用対象に関する考え方を変更し、これまでより幅広い層の働き手を採用する必要がある。そうしなければ、人手不足により人件費が上昇したり、スキルをもった人材を十分に確保できなくなったりしかねない。(...)(p258-259)

教育機関の課題

(...)人生のあり方が変わり、仕事の世界も変わりつつある。既存の教育システムのままでは、人生と仕事への準備が十分とは言えなくなる。そこで、教育のあり方を大きく変えるべきだ。平均寿命が延び、職業人生も長くなれば、人生で必要とされる教育の量は多くなる。しかも、人生の序盤にすべての教育を済ませるのではなく、人生のさまざまな段階で学ぶことが望ましい。(p261)
(...)私たちは、知識の獲得を目指す「生徒」から、スキルとそれを実地に適用する能力の獲得を目指す「学習者」へと転換しなくてはならない。(...)これからの教育に求められるのは、子どものうちから、必要な情報を見つけ、曖昧で不確実な状況に対処し、発見したことを分析・評価して問題を解決する力をはぐくむことだ。(p262)
(...)以前、グーグルが1万人のトップマネージャーたちの成果についてデータを調べたことがある。(...)とくに大きな成果を挙げているマネジャーは、よきコーチであること、ほかの人たちの力を引き出すのが上手なこと、チーム全体の心身の状態に関心を払えること、コミュニケーションに長け、聞き上手であること、明確なビジョンと戦略をもっていることなどの人間的スキルをもっていることがわかった。(p264)
(...)マルチステージの人生の核をなすのは、しっかりした自己認識をもち、みずからの価値観と目的と意欲を折に触れて見直すことだ。私たちは、子ども時代や思春期に学校や大学で人格を形成されてきた。教育の場で生涯の友人と出会い、性格や価値観が形づくられたのだ。長寿化の時代には、大人になってから再び人格形成の機会を得ることが重要な意味を持つ。
 教育が20代の若者に人生の推進力と方向性を与えられるのなら、40代や50代、さらには60代の人たちにも同様の経験を提供できるのではないか。(p268)
 私たちは、知らないことを学ぶために教育を受ける。しかし、ここでひとつの問題が持ち上がる。あるテーマについてまだ知らない人は、そのテーマについて提供されている教育の質が高いかどうかの判断がつかないのだ。(...)
 取るべき対策は明白だ。金融サービスが厳しい規制の対象にされているのと同じように、教育ビジネスに対しても規制を強化する必要があるのだ。(...)具体的には、教育業界が業界団体を発足させて基準をつくり、学習者が教育の質について安心できるようにすべきだろう。(p274-275)
(...)教育機関で教育を受けたか、仕事の経験を通じて学んだかを問わず、個人が習得したことすべてについて、これまでよりも優れたスキル証明の仕組みをつくるべきなのだ。(...)(p277)

政府の課題

(...)テクノロジーの変化が起きても雇用を維持したいと考えるなら、政府は雇用の破壊を阻止することよりも、雇用の創出を促すために手を尽くすべきなのだ。
 このような考え方は、デンマーク政府の労働市場政策である「フレキシキュリティ」モデルでも協調されている(...)。このモデルでは、採用も解雇も同じくらい簡単におこなえる。しかし、失業した人には、手厚い失業手当に加えて、教育の機会が用意されて再就職が後押しされるようになっている。ひとことで言えば、職ではなく人を守ろうとしているのだ。(p292)
 近年注目を集めている政策のひとつがユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)だ。(...)純然たるUBIは、年齢や資産の多寡、職の有無などに関係なく、すべての人に一定額を給付する制度である。給付金の用途に制約を設けず、職に就かなくても生活できるくらいの金額を給付すべきだとされる。(p293)
 社会保障制度は、新しい職に移行しようとする人を支援すると同時に、新たな雇用の創出を後押しするものでなくてはならない。(p295)
 人生における不健康期間を減らし、人生の終盤に不健康な状態で生きる年数を短縮することは、政府が優先的に取り組むべき課題のひとつだ。(...)
(...)差し当たり最も効果が期待できる対策は、医療システムの主眼を治療から予防へ転換し、人々の健康寿命を延ばすというものだ。(...)
(...)要するに、病気(イルネス)の治療よりも健康(ウェルネス)の維持に力を入れるべきなのである。(p303-305)
 政府が健康的な長寿を促すことに成功すればするほど、いわゆる「長寿経済」を築くことの重要性が高まる。長寿化により、経済が縮小するのではなく、拡大するようにする必要があるのだ。そのためには、制度や政策を抜本的に見直し、人々がただ長く生きるだけでなく、長く生産性を保ち続けられるようにしなくてはならない。(p311)
 長寿経済の恩恵に浴するためには、政府があらゆる手段を講じて、人々が高齢になるまで働くよう促し、それを支援しなくてはならない。(p314)
 65歳以上の就労を支援する政策に対しては、若者から職を奪うのではないかという反対意見がしばしば聞かれる。一見するともっともな指摘に思えるかもしれないが、現実は違う。(...)
 働く女性が増えても男性の雇用に悪影響が及ばないくらい、新たにたくさんの雇用が生まれたのだ。なぜ、そのような現象が起きたのか。職をもつ女性が増えたことで世帯所得が高まり、消費が押し上げられた結果、経済生産が増加し、労働力需要も増加したのである。65歳超で職をもつ人が増えた場合も、同様のサイクルが生まれるかもしれない。高齢者の所得が増えて消費が活発になれば、景気が刺激されるだろう。決まった数の雇用を若者と高齢者で奪い合うわけではないので、この面で世代間対立が生じることは必然ではない。(...)(p315-316)
 テクノロジーの進化は、「労働」や「資本」といった概念を根本から変えつつある。それに伴い、政府は、課税、再分配、規制を行う新たな方法を見いだす必要に迫られている。(p320)
 こうした変化は、政治にも影響を及ぼしている。既存の政党の性格づけは、旧来の労働や資本の概念を土台にしてきた。しかし、これまでの労働や資本の概念では現実をうまく説明できなくなり、既存の政党は今日的な課題に対応する能力を失いはじめている。その結果として、まったく新しいタイプの政党やリーダーが台頭し、政治に激変が起きている。(p321)
(...)社会がこれまでより長い未来に向けて準備するうえでは、高齢者の声が強まりすぎることを避けるために、若い世代の意見をもっと重視するべきなのだろうか。ケンブリッジ大学のディヴィッド・ランシマンはそう考えている。具体的には、6歳以上の人すべてに選挙の投票権を与えるべきだというのだ。(...)
(...)ランシマンの主張には一理ある。テクノロジーの進化と長寿化の進展に対処するために変革が求められる時代に、世代間の公平を重んじる姿勢は間違っていない。いま必要とされている変化の恩恵を受ける機関は、高齢者よりも若者のほうが各段に長い。だから、若い世代の声に耳を傾けるべきなのだ。(p321-322)

感想

前作に負けず劣らず、読み応えのある本だった。

まず、人生100年時代を生き抜くための、個人に求められる考え方や行動が、前作をベースに、詳しく示された。マルチステージを成功させるための「物語」「探索」「関係」について、常に好奇心をもって考え、分析し、判断し、行動していかなければならない、ということがより具体的に理解できた。

そのために鍵となる要素がたくさん紹介された。余暇時間、健康、お金、キャリアの選択、温かい人間関係。これらは、誰かが与えてくれるものではなく、主体的に築いていかなければならないものだ。

さらに、この本は、個人のあり方のみならず、企業、教育、政治に対する課題についても、かなり踏み込んでいる。前作においても、これらについては「終章」で少し触れられてはいたが、本作では、前作よりもずいぶん多くのページ数を割いている。

人々がそれぞれの選択を行い、無形資産を築き、マルチステージを幸せに歩むためには、個人でできることには限りがある。企業、教育機関、政治も、テクノロジーの進化と長寿化に起因する問題意識を共有し、迅速に探索して行動することが求められる。

企業、教育機関、政治が検討できる取り組みについて、海外の制度や研究データなどが多く紹介されていて、イメージが持ちやすかった。

たとえば、育児休業の「父親クオータ」。それから、雇用の維持は、解雇の阻止ではなくて、雇用の創出で実現すべきだというくだり。これらを読みながら、拍手喝采を送った。これらのほかにも、共感できるくだりはたくさんあった。

企業や教育機関の運営にかかわるリーダーや、政治家のみなさんには、本書で提案されているようなアイデアを、ぜひ検討してもらいたいと願う。

私は、日本の企業、日本の教育機関、日本の政治について、世の中の動きに応じた改革を行うスピードが、とてつもなく遅いと感じている。正直に言って、あまり期待していない。

それよりも、私たちが、草の根的に行動していくことが現実的だろう。私たち一人ひとりが、伝統的な3ステージの考え方から脱却し、多様なマルチステージの生き方を追求する。そうした例を増やし、新しいニーズを発信し、お互い支え合うことで、企業や、教育機関や、政治がそれに対応せざるをえなくなるようにする。そういった、一人ひとりの行動変容が大事なのではないか。

前作以上に、これからの自分の人生や社会の在り方について、深く考えさせられる本だった。

ぜひ一人でも多くの方に、特に、これから長い人生を送る若い人たちに、読んでいただきたいと思う。

ご参考になれば幸いです!

『LIFE SHIFT』前作をまだお読みでない方は、まずこちらからどうぞ。

『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』についての過去の記事はこちら。

『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』をまんがで分かりやすく書いた本『まんがでわかるLIFE SHIFT』についての、過去の記事はこちら。

過去の読書録へは、以下のリンク集からどうぞ!


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