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【読書録】『80歳の壁』和田秀樹
今日ご紹介するのは、和田秀樹氏の「80歳の壁」(幻冬舎新書、2022年)。
今年3月に発売されたばかりの本で、テレビなどのメディアでも大きく取り上げられ、現在大ブレイク中の本だ。
内容を一言でまとめると、精神科医である著者が、人生100年時代の超高齢化社会において、「80歳の壁」を超えて幸せに生きる秘訣を伝授してくれる本だ。全般的にやさしくシンプルな語り口で書かれており、とても読みやすい。
例えば、以下のようなメッセージだ。80歳を超えたら、食べたいものは食べていい。お酒も飲んでいい。煙草すら我慢しなくていい。健診は受けなくてもよい。ガンの手術はしなくてよい。血圧、血糖値、コレステロール値を下げなくてもよい。おむつを味方にせよ。ボケることは怖くない。そういったことを心配するよりも、自分のしたいことをして日々幸せを感じながら生きるほうがよほど健康で長生きできる。
これらは、医療業界の「中の人」であり、臨床経験が豊富な著者が、たくさんの高齢者と接するなかで得た結論だ。日本の高齢者医療の現状について著者が抱いている疑問や懸念についても、赤裸々に語っている。
おそらく、医療業界には、高齢者医療について、著者とは異なる立場の考えを持つ方も多くいると思う。しかし、この本は、高齢者一人ひとりに寄り添い、人生の幸せな終え方について考えさせてくれるものであり、高齢者の父母を持つ子として、そして、自身もそう遠くない将来に高齢者の仲間入りをする身として、大いに共感できた。
以下、特に覚えておきたいくだりについて、引用させていただく。
80歳からの人生は、70代とはまるで違ってきます。
80歳を超えた人は高齢者ではなく「幸齢者」
80歳を過ぎたら我慢をしない
代わり映えのしないつまらない生活をしていると、脳の働きは鈍ります。また、ストレスの多い生活によっても脳はダメージを受けます。
反対に、新しいことや好きなことをすると、脳は刺激を受け、活性化します。これによって、認知症の発症を遅らせることは可能だと考えられます。
おびえたって、避けたって、なるときにはなる。ならば、そのリスクにおびえて世界を小さくして生きるよりは、悠然と自分のしたいことをして日々を過ごす。そして、本当にそうなってしまったら「ああ、きたか」と腹をくくって対処する。
そういう生き方のほうが、毎日を楽しく、穏やかに生きられると思うのですが、みなさんはどう思うでしょう。
生きがいは、あったほうがいいのでしょうか?
私は、あってもなくても、どちらでもいいと思います。
なぜなら、生きがいは主観的に感じるもので、無理やりつくるものではないからです。「生きがいをつくらなきゃ」と焦ってもみつかるものではありませんし、焦ればつらくなります。
ですから、「生きがいは見つかったらラッキー」くらいに、気楽に考えるのがよいと思います。数打てば当たる的なものだと思うのです。
過去の悪い感情に囚われている人は、「忘れよう」という思いが強いため、かえってそこに意識が向き、どんどんつらくなってしまいます。
こんなときの対処としては、忘れようとするのではなく「ほかのことに目を向ける」というのが正しい方法です。つまり、記憶を消そうとするのではなく、新しいことを上書きするのです。
ノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンという人がいます。行動経済学の学者ですが、この人は次のように述べています。
人間は、富の絶対値に反応するのではなく、富の差に反応する―。(中略)
つまり、人間は、「何円損をしたか」とか「何円得をしたか」という絶対的な金額よりも、「無くなった」とか「増えた」という差に反応するという考え方です。(中略)
つまり、いまを幸せと感じるか、不幸と感じるかは、過去との差をどう考えるかによって違ってくる、というわけです。(中略)
なくなったことではなく、増えたことに目をむける、というのが私の提案です。
この世の中には、何が幸せで、何が不幸せなのか、という正解はないのです。
ちょっとした考え方や物の見方によって、幸せと不幸せは変わってきます。
昨日言ったことを今日ひっくり返してもいい。いままでの持論を曲げてもいい。生き方だって変えていいのです。
「朝令暮改」や「変節」などと言われてもいいじゃないですか。風見鶏も大いに結構。むしろそういう人のほうが、柳に風のしなやかな生き方ができるでしょう。
人からそれを揶揄されたのなら「あれ、そうだった?」と、すっとぼける。ボケたのかな、と相手に思わせる芸当ができるのも、人生が厚い幸齢者の強みです。
人間が80歳、90歳まで当たり前に生きる時代なんて、これまで誰も経験してこなかったのですから、幸齢者の生き方に正解などあるはずがないのです。
「動けなくなったらどうしよう」と考えて生きれば、寂しくなります。
そういう日はやがてくると腹をくくり、それまでは、生きている日を大事にする。
そんなふうに考えて生きるほうが、じつは健康にもいいのです。
衰えを受け入れつつ、残存機能で勝負するー。
82~83歳で急激に衰える人が目立ちますが、その人たちは、大概、80歳になったのを機に、いろいろなことをやめてしまう人です。
病気やケガなど、やむを得ぬ理由でやめてしまう人もいますが、なんとなく家に引きこもっているうちに動けなくなってしまう人も結構多いのです。
できることを自ら放棄し、何もできない体になってしまう。これって本当にもったいないことだと思いませんか?
「幸せとは何か」の答えは人それぞれでしょうが、究極的な幸せは、やっぱり楽しむ力なのだと私は思っています。
楽しんでこその「人生100年」です。80歳の壁を越え、あと20年、新たに挑戦する日々を楽しみましょう。
これらのくだりを読んで、以下のようなことを感じた。
まず、高齢者を「幸齢者」と表現しているのが、とてもポジティブで好感が持てた。高齢であることを負い目に感じてしまいがちな方々にとって、大いに救いとなると思う。
また、生き方や幸せの考え方についてのくだりは、「幸齢者」に限らず、すべての世代の人にとっても、心の処方箋となるように感じた。
生き方や幸せに、正解がないこと。過去や常識などにとらわれる必要はないこと。幸せは主観的なものであること。増えたことを喜べばよいこと。病気になるリスクを過度におそれるのではなく、それまでの人生を楽しむべし、ということ。
これらは、現在アラフィフの私にとっても、大いに参考になり、かつ、気持ちを楽にさせてくれる言葉たちだ。これから、人生において悩んだり迷ったりしたときには、こういった言葉を思い出すようにしたい。
この本は、私にとって、これから自分が歳を重ねるにつれて、時々読み返したい本でもあり、かつ、これからまさに「80歳の壁」に突入しようとしている私の両親にも薦めたい本だ。
これからのご自分の老後について不安をお持ちの方や、高齢の親御さんたちのサポートについて考えていらっしゃる方などには、是非、余裕のある時期に読んでおかれることをおすすめしたい。
ご参考になれば幸いです!
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