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ヴィクトルとの初対面(フランス恋物語㉓)

憧れだった人

4月3日。

私は今夜、2年前に憧れていた人と初めて会う。

彼の名はヴィクトルで、パリ在住のフランス人。

ヴィクトルとの出会いは、咲紀ちゃんの結婚式のアルバムの彼に私が一目惚れし、咲紀ちゃんと夫・ジャンの協力でメル友になれたのが始まり。

その後色々あって、メールのやりとりはフェイドアウトし、彼への恋心も消失していたのだが・・・。

やはり「渡仏のきっかけになった彼には会っておきたい」と思った私は、久しぶりに連絡を取り、今夜の約束に至ったわけである。

Muséeの胸像

4月1日からパリ生活をスタートさせた私だが、まだ仕事は決まっていないので、時間はありあまるほどある。

今日はいよいよ、ヴィクトルと会う4月3日。

昨日は日用品の買い物に奔走したがそれもだいふ落ち着いてきた。

ヴィクトルとの約束は夜なので、昼間はそろそろ美術館でも行ってみようかなという気になった。


パリのガイドブックを見たら、近くに”Musée national Picasso-Paris”国立ピカソ美術館があるのを知り、あまりピカソの絵は好きじゃないが行ってみることにした。

ピカソ美術館(Musée Picasso)は、画家パブロ・ピカソの膨大なコレクションを展示するパリ国立美術館。青の時代、バラの時代、キュビスム、新古典主義、シュルレアリスムと年代順に展示されており、バラエティに富んだコレクションはどれも見応えがある。また、ピカソ美術館の建物は、17世紀に塩税の徴収官であったピエール・オベールによって建てられた邸宅であったことから、「オテル・サレ(塩の館)」と呼ばれ、現在は歴史的建造物になっている。

ピカソ美術館を回った感想。

「う~ん、やっぱりピカソの絵は好きじゃない。 」

正統派な絵の「青の時代」の頃なんかはまだいいが、キュービズム以降の良さはまったくわからない。

もっと美術の知識を身に付けて人生経験を重ねたら、この絵の良さがわかってくるのだろうか!?

・・・多分変わらなさそうである。


その後、歩いて5分くらいの所にあるMusée Camavalet”(カルナヴァレ博物館)が無料だというので、入ってみた。

カルナヴァレ博物館は、パリの歴史資料を収蔵・展示している市立博物館である。この博物館は、カルナヴァレ館とル・プルティエ・ド・サン=ファルジョー館という2つの歴史的な建物で構成されている。博物館の収蔵品は約60万点に達し、絵画、彫刻、模型、家具、調度品、版画、ポスターなど様々な分野に及んでいる 。また、歴史資料を年代順に展示し、古代から現代に至るまでのパリの歴史を紹介している。

フランス革命に関する展示品が見られ、現地の博物館でその歴史を見るというのは、ここでしか感じられないリアルさがあった。

2階から見下ろせる丹念に手入れされた幾何学模様の中庭は、小さいながらも見応えがある。

元・貴族の城館という優美な建物は私をロマンチックな気持ちにさせ、この博物館がお気に入りになった。


そんな中、私はある一つの彫刻に目が留まった。

それは美しい男性の胸像で、今夜会うヴィクトルに瓜二つだった。

その胸像を見た瞬間、忘れかけていたヴィクトルへの情熱が再燃した。

二十歳のラファエルにはない、大人の色気を湛えた男らしいヴィクトル・・・。

もし今夜ヴィクトルと会って、また好きになってしまったらどうしよう!?

私にはトゥールに”ラファエル”という天使のような彼氏がいるのに。


2年前に失礼な質問をした私を、ヴィクトルが好きになることは100%ないので、何も心配することはないのだが・・・。

私は、今夜憧れの人に会える楽しみと、不毛な恋に落ちるかもしれない不安を抱えながら、カルナヴァレ博物館を後にしたのであった。

初対面

その夜、遂に約束の時が来た。

私たちは、お互いの自宅の中間地点にある、マレ地区のカフェで待ち合わせすることになっていた。

4月の夜は肌寒かったが、わかりやすいようにテラス席で待つ。

アジア人は目立つし事前に写真も送ったから、きっとヴィクトルが私を見付けて声をかけてくるだろう。

私は、その人がやってくるのを待った。

5分くらい待ったところ・・・。

「Bonsoir. C'est Reiko?」

私ははやる気持ちを抑えて、その声のする方を見た。


「Bonsoir. C'est Victor?」

ヴィクトルを初めて生で見た感想は・・・

思ったより老けていた。(涙)

眼窩は深く落ち窪み、その口元にはほうれい線が刻まれている。

写真の時のような筋肉隆々な体でないことは服の上からでもわかり、心なしかやつれているようにも見えた。

まだ28歳のはずなのに・・・。

なぜだ、おかしい。

2年前に見た写真はあんなに若々しかったではないか!?

私が恋焦がれた2年前から今日までの間に、一体何があったのか!?

私は白人の老ける速さに驚愕した。

そして、勝手に一目惚れして、勝手に幻滅している、失礼すぎる自分を激しく憎悪した。

ヴィクトル、ごめんなさい。

・・・でも、好きにならなくて良かった。

感慨

良いのか悪いのか、ヴィクトルに惚れ直さなかったおかげで、私は緊張せず普通に話すことができた。

もしかしたらまだ彼は私に不信感を持っているかもしれない。

でも、そんなことはまったく見せることなく、気さくに優しく接してくれた。

そして、私のフランス語を「ちゃんと話せているじゃないか!」と褒めてくれたのもすごく嬉しかった。

「あぁ、私はこの人とフランス語で会話したいという目的でフランス語始めたんだよなぁ。今一応ちゃんと話せてるし、願いは叶ったのか・・・。」

 そう思うと、今までの長い道のりと、一応目的が達成された気持ちで感慨深いものがあった。 

・・・2年間熟成させてから会って、ある意味良かったのかもしれない。

ちなみに、話した感じを見ると彼はゲイではなさそうだった。

彼女がいるかどうかまでは聞けなかったが、そういう話題にはならなかったから、意外と今もいないのかもしれない。


その後、私たちは何度か連絡を取り合ったが、結局ヴィクトルに会うことはなかった。

彼との出会いで学習したことは、性的志向に関することは本人が言うまで聞いてはいけないこと、そして、ルックスばかりに目を取られる自分をなんとかしなければならない・・・ということだった。

 Un mensonge

その夜も、ラファエルから電話がかかってきた。

「今日はどんなことをして過ごしたの?」

「昼は2ケ所Muséeに行って、夜は”Une amie”に会ってきたの。」

とっさに”Une amie”(女友達)と答えてしまっている自分がいた。


4月はなかなか仕事が決まらないので、ひたすらパリ中のMusée巡りをしていた。

そこでまた私は、予想外の出会いを経験することになるのである・・・。


ーフランス恋物語㉔に続く-

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