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『はじまりはいつもガラス色』

「はじまりはいつもガラス色」
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私は魔法が使えるの

あなたが信じてくれたなら私はきっとなんだって
叶えることができる魔法を・・・
‐‐‐‐‐‐‐‐

ヴゥゥゥウ、ヴゥゥゥウ・・・・

机に響く耳障りなバイブレーションに、我に返る。

「進捗いかがでしょうか?」という、画面のメッセージを見て、
端末を床に投げつけそうになる衝動を押さえつけ

ため息をひとつ

パソコンの画面には数分前と変わらない光景無機質なメッセージに苛立ちながら
結局は自分の所為なのでなんとも言えない

私は絶賛スランプ中である、 ものがたりを書くようになってはじめて、筆が止まった。

ああ、効率が悪い 憂鬱が加速していく

すこし、眠ようかな、
でも、信じて待っている人たちがいるでも、適当なものなんかつくれない でも、レスポンスもしなきゃ、
でも、締め切りも近いしでも、正直疲れているし
でも、でも、でも、でも、、、、、、

言い訳ばかりが頭を埋め尽くす。

ベットに寝そべり、脱力

前はこんなことはなかった
ただ、夢を見るように物語が私の指を動かした

たしかに魔法が使えた
こころに魔法使いが住んでいた

でも、最近はきっと呪文を忘れてしまったのだろう
ぴったり、こころには風が吹かなくなってしまったのだ。

天井を見上げる、
寝返りを打つと本棚が見えて、
初めて出版した作品に目が留まった粗削りだったなぁ、でも、
誰かの魔法になれる物語だった
あたたかい色の表紙が今も気に入っている

手に取って、ペラペラとめくる気まぐれに声に出して読む
「ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・」
すこし意識が遠のいて、うとうとしているとふいに
ガタン、ガタンと窓を揺らす風。

目が冴えて、
モヤモヤを抱えながら窓に向うと見慣れたはずの景色が
木漏れ日に揺れて美しくみえた

思わず、窓をあける
滞っていた空気が流れ出す世界の明度がすこし上がる

忘れていた呪文を思い出したように私の心に風が吹く

こんな近くにも、ものがたりはあった私が瞼をとじていただけで
こんなにも近くに…

ガラス色の空気、
乱反射する、四季をめぐる日の光

どの色を切り取ろうどの色を重ねよう

息が詰まりそうなとき すこし歩みだせないとき

そっと誰かの背中を押せるように

この景色を、この魔法を届けられるように
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
私は、担当者にメッセージを送り
パソコン画面に向かい執筆を再開した。

メッセージには、
「今夜には送ります。信じて待っていてください。」と書いた。
******

私は魔法が使えるの
あなたが信じてくれたなら

私はきっとなんだって
叶えることができる魔法を・・・

ものがたりという呪文
みつけることができたなら

きっとあなたも使えるの 

ガラス色したはじまりに

重ねる色を探しに行こう

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2019.0511
カフェあめだま@ルナラパン演劇部 
企画展示「actぷらす。#1」
朗読イベント 上演。 

大切なお時間をありがとうございます! 少しでも、心に何かを残せたなら幸いです。 少しでも良いと思って頂けたら他作品や、イベント、カフェあめだまをチェックやスキやサポート頂けたら嬉しいです(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 全て活動に還元し、また何か作品をお届け致します。