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ありがとう。それだけ言えたら良かったのに。①

『会う気分じゃない。
また、いつかどこかで。』 

そう言われ、

『わかった。今までありがとう』

そう、言って永遠の別れだと悟って受け止められる女性ってどれくらいいるんだろう。 

彼は、私のどんなめちゃくちゃな部分も受け止めてくれる人だった。
どんなに酔っ払って迷惑をかけても拒否をする事は一度もなかった。
だから、
『会う気分じゃない。またいつかどこかで』
それが、あの時の私には、永遠の別れを突きつけられた瞬間だった。

彼は、行きつけのbarで知り合った5つ年上の飲み仲間。
初めて彼を見た時、私はこの人の事、絶対好きにならないだろうな。
なぜか、そう思ったのを覚えている。
というか、それしか印象がない。
なぜ、その事だけを意識したのかも解らない。

当時よく飲んでた飲み仲間の1人が彼を気に入っていて、時々、2人でご飯にいったりする仲だったから、友達の好きな人。
そういう認識でしかなかった。

今からちょうど、3年前。

彼と出会って、1年がたとうとした頃、私は、その当時の失恋の傷が癒えないのと自分の心の中にある空虚感を埋める為に、とにかく、お酒を飲んでは楽しくありたい。
そんな、飲み方をして、いつも酔っ払っていた。
それでも、終電で帰るという自分ルールだけは、ちゃんと守っていた。
そんなある日、彼と他愛のない話で盛り上がっていて、気がつけば終電10分前。
急いで店を出てとにかく走った。
走って、走って、走った。
なぜか彼も一緒に走った。
階段を降りて、改札に差し掛かった瞬間、バツマークのジェスチャーをする駅員さん。
。。逃した。

あーぁー。

彼も、あーぁー。

目を合わせ、笑いあい、こーなったら、もう一件行きますかっ!

そういって、2人で初めて、いつものバーとは違う場所に飲みにいった。

私は、どこか崩れてる人が好きだ。
なのに、彼は、シュッとしてる。
スーツをうまく着こなして、顔も男前だし、スタイルもいい。大手に勤めてて、対応もスマートで色んなことが完璧だ。

心が見えなくて、一番苦手とするタイプ。

“この人の事は、絶対好きにならない。”

そう思ってるはずなのに、なぜか、居心地が抜群に良くて色んなことを躊躇せずに話せた。

お店をやってた時の話、
頑張ってたんだよ。
頑張ってたんだけどねぇー。。。
そう、言いながら、私はわざと泣いた。

ずっとずっと誰かの前でこうやって泣いてみたかった。
無条件で優しくされたかった。
出来れば恋人が良かったけど、前回の失恋の件もあり、もう、限界だった。
1人で泣くのはもう嫌だった。
好きにならないって思っている彼の前では泣いてもいいんじゃないかと思った。
少し、フェイントであったとしても。

彼は、黙って話を聞いてくれた。
時々涙を拭いながら微笑えむ彼に、
もう溢れ始めていた心の水を少し救ってもらった気分だった。
それから、しばらくして、お店を出てタクシーが捕まるところまで2人で歩いた。
その間は、お互いの恋愛話になり、少しケタケタ笑いながら歩いた。

そして、タクシーを止め、乗り込もうとした瞬間、彼は、私の手を引きキスをした。
私は、とにかく、ビックリして、タクシーに乗り込もうとした。
すると、グッと腕を掴み、
“もう一回”
そう言われ、今度は私から彼にキスをした。

かなりお酒も入っていたので、何も考えられず、家に着くなりシャワーを浴びて眠り込んだ。

翌日、二日酔いの中、曖昧な彼との会話の断片をパズルのように組み立てていると、抜けてるピースがある事にかなり時間が経ってから気づいた。
タクシーに乗る直前の出来事。。。

そのピースを見つけた瞬間、私は、友人に対して、とんでもない事をしてしまったと思って、頭を抱えた。

すぐに、彼に連絡をして、
『昨日はごめんなさい。酔ってたとはいえ、私、とんでもない事した。なかったことにしてもらえないかな、、本当に、ごめんなさい。』

そう、一方的に言った。
彼も、友人が自分の事を好きなのは知っている事なので、その気まずさを気遣ってくれたのか、

『昨日、まあみちゃん、終電に間に合って帰ったんだよ。』

そう、返事が来た。
どこまでスマートなんだ、、この人は。。

『そか!そうだったね、ごめん、ありがとう』

それだけ言って、会話を終わらせた。

友人を出し抜き彼とキスをした事、甘えようとした事に罪悪感を感じながらも、
私は、自分の心が少し軽くなっている事に微笑んだ。

つづく→毛玉取りの距離②


この記事、最後まで書ききる事が出来るのかな。。

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