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[小児科医ママが解説] おうちで健診:股関節脱臼。①女の子②逆子③家族歴 ってどこまで脱臼のリスクになるの?


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

「先天性 股関節 脱臼」(「発育性 股関節 形成不全」とも呼ばれる)について。

前回は、健診で医師が見ているポイントや、
自宅で心配になった時に、安心できる情報を、
医学的な根拠をそえてお伝えしました。

今回は、3~4ヶ月健診のときに、(診察のほかに)小児科医が注意してチェックしている他の項目について解説します。

①女のお子さん
②骨盤位(逆子)で産まれた
③家族歴:ご家族で股関節の病気の既往がある 

「え、ウチの子、女の子で逆子だけど、脱臼なの?!」
「妊娠の最初のころ逆子だったけど、これも脱臼のリスクになるの?!」

知れば知るほど、不安になっちゃう方もいらっしゃると思います。


女の子だと、どれくらい脱臼の可能性が高くなるの?
どの時期の骨盤位がリスクなの?

など、もう少し詳しく知ることで、
もんもんとした不安を少しでも解消できたら幸いです。

今回の参考文献はこちら。

UptoDate
“Developmental dysplasia of the hip: Treatment and outcome”
“Developmental dysplasia of the hip: Clinical features and diagnosis”
“Developmental dysplasia of the hip: Epidemiology and pathogenesis”

●先天性股関節脱臼予防と早期発見の手引き
●乳児健康診査における股関節脱臼 一次健診の手引き
●乳児健康診査における股関節脱臼二次検診の手引き

「お股の開きづらさ」や「シワの左右差」がなくても、「家族歴・女の子・骨盤位(逆子)」のうち2つあてはまれば、整形外科にご紹介。


前回もお伝えしましたが、3~4ヶ月健診で、股関節の検査を目的に、整形外科にご紹介されるパターンは以下でしたね。

【3~4ヶ月健診で、整形外科へご紹介されるパターン】

●「開排(かいはい)制限=お股の開きづらさ」がある。
(開排制限がなくても)「シワの左右差・家族歴・女の子・骨盤位(逆子)」のうち2つ以上ある。


つまり、別にお股の開きづらさがなくても、シワに左右差がなくても、「女の子で&逆子で産まれました」っていうお子さんは、(基本的には)全員、整形外科にご紹介しています。

3~4ヶ月健診でいらしたお子さんの10~15%くらいが、二次検診、つまり整形外科での検査に紹介されているんです。
(小児保健研究 第75巻 第2号 2016(149-153))

でも実際に脱臼(や亜脱臼)のお子さんは、1000人に1人つまり0.1%くらいじゃない?と言われています。
見逃すよりは、積極的に検査してあげよう!っていう流れなんです。

なので、3~4ヶ月健診で「整形外科に紹介しますね~」って言われても、落ち込まないでください。
ちゃんと紹介状かいて、検査してもらえて、ラッキー♪
って思ってもらってOKです!

でも、逆子で産まれた女の子って、どれくらい脱臼のリスクが高くなるの?家族歴って具体的に何?

そんなことについて、もう少し詳しくみていきましょう。


女の子は、男の子の2~3倍リスクあり。脱臼の90%が女の子というデータも。


2013年に発表された、1000人以上の赤ちゃんを対象とした、先天性股関節脱臼のデータがあります。それによると、89%が女の子とのこと。圧倒的に、男の子よりも多いですよね。
小児保健研究 第75巻 第2号 2016(149-153)


海外のデータでも、女の子は(男の子にくらべて)2~3倍、先天性股関節脱臼のリスクがある、としています。
(Eur J Radiol. 2012 Mar;81(3):e344-51. Epub 2011 Nov 26.)

どうして女の子のほうが、脱臼リスクが高いんでしょう?
結論、まだ医学的にちゃんとした証拠・原因はわかっていません。

一説には、リラキシンというホルモンが関係しているのでは?というのがあります。
リラキシンとは、卵巣・子宮・胎盤といった、女性特有の臓器から、分泌されるホルモンです。
とくに妊娠中はリラキシンの分泌が増えることで、関節や靭帯をゆるめてくれて、赤ちゃんの成長や分娩に備えているといわれています。

産まれた赤ちゃんにもこうしたホルモンが影響するなどして、女の子のお股の関節を脱臼しやすくしているのでは?という報告は一応あるのですが(J Pediatr Orthop. 1998;18(4):535.)、
そのほかの研究では「それはあまり関係ないんじゃない?」など、まだ確かなエビデンスとして語るには乏しいデータです。

でも逆に、女の子のうち、先天性股関節脱臼があるお子さんはどれくらいでしょうか?

たしかに先天性股関節脱臼の90%が女の子、というデータでしたが、そもそも脱臼あるお子さんは、1000人に1人~3人くらいの割合でしたね。

つまり女の子として産まれても、先天性股関節脱臼と診断される割合は、そのうちの1000人に数人という割合なんです。
女の子として産まれたからって、(もちろんですが)全員が脱臼じゃないんです。

というわけで・・・

<今回の安心材料 その1>
あれ、股関節脱臼のチェックリストに「女の子」ってあるけど・・・と心配になったら・・・
女の子として産まれても、実際に先天性股関節脱臼があるお子さんは、1000人に数人という割合(少なくとも1%もない)。

②骨盤位(逆子)で産まれた


(2013年発表の日本のデータによると)先天性股関節脱臼のお子さんは、生まれる直前に骨盤位だったという割合が、15%くらいいたとのことでした。(小児保健研究 第75巻 第2号 2016(149-153))

海外の報告でも、妊娠28~40週の間に、骨盤位(逆子)のお子さんは、(逆子でないお子さんにくらべて)3.8倍、脱臼のリスクがあるとされています。(Eur J Radiol. 2012 Mar;81(3):e344-51. Epub 2011 Nov 26.)

「えーどうしよう、ウチの子で逆子で、しかも帝王切開で産まれましたけど」・・・っていうケース、結構いらっしゃると思います。


でも考えてみてください。

一般的に、妊娠37週で骨盤位のお子さんは、3~5%くらいはいると言われています。対して、先天性股関節脱臼の割合は0.1~0.3%くらい

当たり前じゃんって感じですが、「骨盤位(逆子)のお子さんが、全員、脱臼しているわけじゃない」んです。

実際に、骨盤位(逆子)で産まれた女の子のうち、先天性股関節脱臼があったのは12%・男の子の場合は3% というデータがあります。
(①Pediatrics. 2000;105(4):E57. ②Paediatr Child Health. 2019;24(2):e88. Epub 2018 Jun 27.)

また、骨盤位(逆子)といっても、実はいろんなパターンがあります。

骨盤位の種類

※画像は、「乳児股関節脱臼の診断遅延ゼロを目指そう」スライドから編集させていただきました。

このうち、上図の一番右(c)、つまり「太ももが曲がって&膝がピンとのびている」骨盤位(逆子)がとくに股関節脱臼のリスクが高いのでは?という報告が複数あります。
(①Clin Orthop Relat Res. 1976 Sep;(119):11-22. ②Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 1997;76(2):F94. ③J Bone Joint Surg Br. 2005;87(7):984.)

逆に、骨盤位(逆子)でも、お股も膝もちょこんと曲げているお子さんもいて、こうしたお子さんは、大して、脱臼のリスクは高くならないんじゃないかとも言われています。

おなじ骨盤位(逆子)でもいろんなケースがありますね。

さらにさらに、日本では基本的に、骨盤位(逆子)の場合は帝王切開になります。これは理由が色々あるため、詳細はここでは省きます。

が、「骨盤位(逆子)の場合、分娩開始の前に帝王切開をしたほうが、先天性股関節脱臼のリスクが減る」というデータがあります。

産む直前に、あらかじめ骨盤位(逆子)と分かっている場合。

①分娩開始の「前に」帝王切開をしたケースだと 3.7%。
②分娩の「途中で」帝王切開をしたケースだと 6.6%。
③経膣分娩(下から産んだ)ケースだと 8.1%。

上記の割合で、産まれたあとに赤ちゃんが先天性股関節脱臼であることが分かった。(J Bone Joint Surg Br. 2005;87(7):984.)

分娩開始の「前に」というのは、お母さんが陣痛がきたり、子宮口が開いたり、赤ちゃんの頭が下に降りてきてしまったり、といった「前に」ということです。
つまり、お母さんはまだ分娩が始まる徴候はないけど、妊娠37週もこえてきたし・赤ちゃんも順調だから、予定通り帝王切開しましょうね~っていうシチュエーションです。

分娩「途中で」というのは、日本では多くないケースですが、「逆子でも下から産みます!」というお母さんが頑張っていきんでたけど、やっぱり赤ちゃんが降りてこなかったり・赤ちゃんの心拍が苦しい状態になったりして、途中で帝王切開になりました、っていうシチュエーションです。
つまり、赤ちゃんの足が下になった状態で、途中までお母さんのお腹から降りてきていた・途中でハマりこんでいた、というケースです。


お母さんの下から産みたい!という気持ちはわからなくないですが(医学的には、下から産もうが、帝王切開で産もうが、赤ちゃんもお母さんも元気だったらどっちでもいいです)、
先天性股関節脱臼というポイントからも、産む直前に逆子だってわかってたら、予定をたてて・余裕をもった帝王切開のほうが良いんじゃない?というデータでした。

ちなみに、妊娠してから産まれるまでの間に、骨盤位(逆子)になるお子さんはいっぱいいます。

妊娠週数がすすんで、赤ちゃんが大きくなるとだんだん姿勢が決まってきて、骨盤位(逆子)のお子さんの割合も、妊娠30週ころに15%、34週くらいに10%、36週くらいに7%に減ってきます。

先ほどの研究も「妊娠28~40週の間に」逆子だったお子さんが、先天性股関節脱臼のリスクになるのでは?という研究でしたね。

「妊娠中のすべての期間中、どのくらいの期間、骨盤位(逆子)だと、先天性股関節脱臼のリスクがあがるのか」というのは、まだデータがなく、わかりません。

が、少なくとも、妊娠28週よりも前など、早い段階での骨盤位(逆子)を指摘されていたとしても、その後逆子じゃなくなった場合は、必要以上に心配することはなさそうです。


というわけで・・・

<今回の安心材料 その2>

やばい、うちの子逆子で産まれたけど、脱臼・・・?!と心配になったら・・・

●逆子で産まれる子は3~5%いる。対して、先天性股関節脱臼の割合は0.1~0.3%。逆子のうち脱臼している割合は、10%くらいしかいない。

●(お腹の中でのお子さんの姿勢が、お膝を曲げていた場合)お腹の中で、お膝を伸ばしていた赤ちゃんにくらべたら、股関節脱臼のリスクは低いはず。

●(もし予定の・分娩開始「前」の帝王切開でお生まれになった場合)緊急で帝王切開になったり、逆子だけど下から産んだり、っていうケースよりは、半分くらい、脱臼のリスクは減るはず。

(●妊娠28週前までの骨盤位(逆子)については、そもそもよくあることだし、脱臼との関連は明らかではない。)


③家族歴:ご家族で股関節の病気の既往がある 

健診でも聞かれますが、「股関節のご病気があったご家族はいらっしゃいますか?」というポイントも、この子が股関節脱臼するリスクが高いのかな~どうかな~と判断するときの一助にしています。

「股関節の病気」というのは具体的には、(今回のような)「先天性股関節脱臼」や「発育性股関節形成不全」のほかに、
「変形性股関節症」も含まれています

「変形性股関節症」は年齢にともなって、お股に痛みがでてくるのですが、実はもともと、産まれたときに股関節の脱臼や病気があったけど、それが治療しきれなかった・元気にしていたので診断されず治療もされてこなかった場合に、のちのち発症することが多いのでは?とも言われています。


つまりご家族の「股関節の病気」を聞くときは「産まれたとき」だけじゃなく、「大人になってからのお股のご様子」をチェックする必要があります。

【ご家族の、股関節の病気をうたがうエピソード】

●子どもの頃に、股関節にギプスをつけていた家族がいる
●子どもの頃に、股関節をベルトで巻いて治療していた家族がいる
●子どもの頃から、足を引きずる・歩き方が変な家族がいる
●おじいちゃん・おばあちゃんが、最近、股関節に金属を入れる手術をした

「乳児股関節脱臼の診断遅延ゼロを目指そう」スライドも参考にさせていただきました。

では実際に、ご家族に股関節の病気があるお子さんは、どれくらい先天性股関節脱臼のリスクがあるのでしょうか?

(2013年発表の日本のデータによると)先天性股関節脱臼のあったお子さんのうち、ご家族で股関節の病気の既往があったケースは、27%。
このうち69%は二親等以内(つまりお子さんからみたら、ご両親・祖父母・兄弟姉妹までの範囲)というデータです。(小児保健研究 第75巻 第2号 2016(149-153)

海外のデータでも、お子さんと血がつながった方のうち、股関節の病気の既往があるご家族がいると、(そうでないお子さんにくらべて)と139倍、先天性股関節脱臼のリスクがあがるのでは、という報告があります。(Eur J Radiol. 2012 Mar;81(3):e344-51. Epub 2011 Nov 26.)


ちなみに双子の場合も、(二卵性よりも)一卵性のほうが、先天性股関節脱臼の一致率があがるというデータがあります。
双子のうち一人が先天性股関節脱臼だった場合、もう一人も股関節脱臼があるという割合は、一卵性の場合は40%、二卵性は3%という結果です。(Pediatrics. 2016;138(6))

・・・こうしてみてみると、ご家族で股関節の病気がある場合、お子さんも先天性股関節脱臼のリスクが高くなる・・・と思って心配になっちゃいそうですよね。

でも逆に「ご家族で股関節の病気があるお子さんのうち、実際に、お子さんも先天性股関節脱臼である」という割合は、1~4%というデータがあります(Pediatrics. 2000;105(4):E57.)。

家族で股関節のご病気があったとしても、(当然ですが)そのお子さん全員が先天性股関節脱臼になるわけじゃないんですね。


ちなみに、兄弟のデータもあります。
あるお子さんの兄弟姉妹が、先天性股関節脱臼だと分かっている場合、そのお子さんもまた先天性股関節脱臼である確率は6%。
また両親のうちひとりが先天性股関節脱臼だった場合は、12%。ご両親かつご兄弟も先天性股関節脱臼がある、というお子さんの場合は36%。
という報告です。(J Bone Joint Surg Br. 1970;52(4):704.)

ご兄弟よりは、ご両親が先天性股関節脱臼、というほうが、脱臼のリスクはあがりそう、という報告です。


というわけで・・・

<今回の安心材料 その3>
「ご家族の中で、股関節の病気がある」と聞いて、ウチの子も脱臼?!と不安になったら・・・

●家族歴があっても、そのうちお子さんも股関節脱臼になるのは1~4%。

●家族歴といっても「お子さんと血縁関係にある・二親等」以内までが大事ご両親・祖父母・兄弟姉妹までの範囲ですね)。

●(先にうまれたご兄弟で、股関節の病気があるというお子さんの場合)兄弟、というよりは、両親の家族歴のほうが、先天性股関節脱臼との関係が大きそう。


いかがでしょうか。

たしかに「①女のお子さん②骨盤位(逆子)で産まれた③家族歴:ご家族で股関節の病気の既往がある」は、お子さんに先天性股関節脱臼があるかを判断する材料ではあります。

が、先天性股関節脱臼のそもそもの頻度(1000人に1~3人)を考えたり、上記の報告などを見たりすると、①や②や③にもし該当していたとしても、必ずしも脱臼している割合は高くないことがわかります。

とくに骨盤位(逆子)で産まれた女のお子さんの場合は、そこにシワの左右差もあったりすると、ご不安になる気持ちもよくわかります。

でも、健診で診てもらったり、整形外科で検査してもらったりするまでの時間、少しでも安心できる材料として、上記がお役にたてば幸いです。

(この記事は、2023年2月20日に一部改訂しました。)

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