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ホロクラシー実践記:リアルな現場で起きたこととその学びについて

私は過去、15名程度の組織でヒエラルキーからホロクラシーへの移行というものに取組みました。
その会社はすでに退職をしてしまい、このホロクラシーへの移行がその後の組織にどのような影響を与えたのか、長期的に見ることはできていません。
ただ少なくとも短期的には変化(良いものも悪いものも)が見られましたし、その過程には大きな学びがありました。
そこで本記事では、ホロクラシー組織に興味のある方に向けて、理論的な話ではなく、実際の組織の構造を変えるという現実的な話や、私がもし移行開始時に戻れるなら何をどう進めるかということをまとめたいと思います。

ホロクラシー組織については有名な書籍もありますし、色々な理論があると思います。
私も多少勉強しましたが、理論よりも実際にやってみることが重要だろうと思い、実行したという過去があります。
もちろん理論を勉強することはとても大事です。ただ実際やってみると理論が通じないことは往々にしてあります。
この記事を読んで、組織構造の変革というなかなか荷が重いプロジェクトをスタートする方の背中を少しでも押すことができたら、と思います。

組織変革をすることの理由としては、ビジネスへの良いインパクトを与えたい、というものが基本だと思います。その答えから言うと、実際にホロクラシーへの移行前後で業績は上がりました。でもそれはこの組織変革によってもたらされたものとは言えないと思っています。
ホロクラシー組織への移行は、どちらかというと理想の価値観を追求するための手段ではないか、というのが実践してみての感想です。

自律分散型組織を目指すにはどうしたらいいか?という課題から始まった

当時私たちの組織は15名程度で、事業責任者が1人、その下にマネージャーがいるような組織でした。
コロナによる打撃を受け、売上は半分以下に落ち込み、なんとか立て直さないといけない状況でした。
一緒に働くメンバーは皆、人としてとてもできた人が集まっていましたが、にも関わらずチームとして機能していない、ポテンシャルが開放されていないように感じていました。
つまり、このメンバー個々人がもっと力を発揮できる組織なら、チームとしてより高いパフォーマンスを上げられるのではないか?というのが当時の仮説(だと認識していた)でした。
そこで出てきたのが「自律分散型組織」という考え方です。
自律分散型組織とは、従来の中央集権型の組織構造とは異なり、権限や意思決定が個々のメンバーやチームに分散された組織のことを言います。各メンバーやチームは自律的に行動し、情報やリソースを共有しながら連携します。自律分散型組織は、柔軟性が高く、変化に適応しやすいとされています。
上記の説明を読むと、ある種の理想論というか、こんな組織にできたらそれは良いだろうと思うのではないでしょうか?
この組織を実現するのは簡単じゃないとは思いつつ、目指してみようと一歩踏み出してみることにしました。そこには、自分自身もその組織の方が良いと思ったし、トップもその組織を望んでいたためだと思います。

いきなり自律分散型と言われても、何をどうすれば良いのかピンと来ません。ティール組織の本も読みましたが難しい。
自律分散型組織の考え方を具体化した組織構造は何か?と考えた時にあったのがホロクラシー組織でした。
ホロクラシー組織とは、特定の個人が権限を持つのではなく、明確な役割と責任をもつ「サークル」(チームや部門のような単位)が権限と意思決定を分散させる形式です。
このホロクラシーを現在の組織に実装することに取り組むことになりました。

ホロクラシーへの移行のために何をやったのか?

ホロクラシーへの移行に伴い、実際に行ったことは以下の通りです。

  • ホロクラシー組織に関する啓蒙

  • サークル(チーム)を作る

  • 各メンバーの役割を決める

  • OKRの導入

  • 情報共有の仕組み化

  • 会議の再構成

理論をきちんと勉強したわけではないので、これで正しかったとは言えないと思います。
ただそれでも実際にどのように行い、どんなことが起きたのかをお伝えすることは、誰かの何かに役に立つのではないかと思うので、失敗も含めて書きたいと思います。

ホロクラシー組織に関する啓蒙

何よりもまず大事なのは、組織構造の変革という非常に大きな変化を、全メンバーに受け入れてもらうためにはどうすれば良いか、ということでした。
これは始まる前から大事だとわかっていたものの、実際には全然足りなかったと思います。おそらくどれだけ丁寧に説明しても、それだけでは足りないのだと思います。(詳しくは後述します。)
実際どんなことをしたかというと、なぜホロクラシーを目指すのかということと、ホロクラシーとは何なのかということを説明しました。
場合によっては1to1で説明することもありましたが、基本的には1toNで説明するのが基本でした。

サークル(チーム)を作る

元々は営業しかいない組織でしたが、ホロクラシーへの移行前からマーケティングとインサイドセールスがそれぞれ2〜4人(兼任含む)いるような組織になっていました。
また新たに横串で生産性向上に向けた動きをするようなプロジェクトも始動しており、これをきちんとサークルとして分け、可視化するということをしました。

各メンバーの役割を決める

サークルを分けた後、そのサークル内のメンバーの役割を定義していきました。
サークル内でどのような役割を果たしてもらいたいのかを明確にすることは、具体的な役割を理解してもらうためです。
ただ具体的な役割だけだとあまり腹落ち感がないという問題がありました。
そこでもう少し抽象的な役割(私たちの場合はスポーツのポジションで表しました)を各メンバーに伝え、自分がチームの中でどのような立ち回り(を求められている)なのか理解してもらいました。

OKRの導入

OKRの導入については、メンバーの1人が提案してくれました。
実はホロクラシーとOKRは非常に相性が良く、取り入れてみようということになりました。
なぜ相性が良いのかというと、以下のような理由が挙げられます。

  1. 目標設定の透明性: ホロクラシーは情報の透明性と共有を重視します。OKRも同様に、組織全体やチーム、個人の目標が明確で透明な形で共有されることを重視しています。これにより、全体の目標に対する関与感や責任感を高めることができます。

  2. 自律的な意思決定: ホロクラシーでは、サークルが自律的に意思決定を行い、柔軟な組織運営が可能です。OKRも個々の目標設定に対して自律性を重視し、各チームや個人が自らの役割や責任を認識しながら目標に取り組むことができます。

  3. アラインメント: ホロクラシーでは、サークル間の連携や協力が重要です。OKRは、組織全体の目標に対して、チームや個人の目標が整合性を持って設定されることを目指しています。これにより、組織全体としての一体感や、異なるサークルが協力して目標達成を目指すことが容易になります。

  4. 達成度の測定: OKRは、定量的な指標(Key Results)を用いて目標達成度を測定することができます。ホロクラシー組織でも、サークルごとの役割や責任を明確にし、達成度を測定することで、組織の効率性や改善点を把握しやすくなります。

ただOKRの導入も一筋縄にはいきませんでした。ホロクラシーと同様に、その必要性やそもそも何かということをメンバーに伝える必要があったし、誰も実際にOKRを使ったことがあるメンバーもおらず、手探りの中で作った感じでした。
詳しくは以下の記事に譲りたいと思います。


情報共有の仕組み化

個人がどれだけ主体的に動くことができるかは、どれだけの情報にアクセスできるかが鍵になります。
主体性がかなり高い人は自ら情報を取りに行くことができますが、全員がそうではないため、情報共有の仕組みをしっかり整えることが重要になります。
また意思決定を各サークル内で行うためには、自分のサークルとそれ以外のサークルも含め、正しい情報がないとできません。そのためにも仕組み化は大事です。

これまでSlackを使っていましたが、いくらチャンネルで分けられるとはいえ、情報の蓄積にはあまりマッチしないツールと感じていました。
そこで導入したのがAsanaです。詳しくは以下の記事が参考になればと思いますが、Asanaを各サークル毎に分け、その中で密に情報共有をしつつ、他のサークルの情報にもアクセスできるようにしました。


会議の再構成

各サークル内で意思決定を進められる体制にするには、会議のあり方も大事ではないかということに気がつき始めました。
特にコロナ禍でリモートワークが主体だったので、同期的なコミュニケーションは必要でありつつ、以下に効率的に行うかという問題もありました。
そこで会議を目的毎に分割(情報伝達、情報共有、意思決定、ブレストの4つ)しつつ、どのような内容で何分で回していくかを整理しました。

実際やってみてどうだったのか?

結論からお話しすると、「ホロクラシーっぽくはなった」と言えると思います。
実際に組織は事業責任者やマネージャーというポジションはなくなり、各サークルのリーダーがいて横串でマネジメントするような人(監督的な人)という体制になりました。

ではホロクラシーっぽくなったことで、ビジネスとしてのパフォーマンスは上がったのか?
これが皆さんの気になるところではないかと思います。
実際移行にはかれこれ1年弱かかり、その間売上は着実に上がりました。
ただこれはそもそもコロナで打撃を受けていたところからの回復でしたし、売上の増加がホロクラシーに起因していると言うことはそもそもできません。売上増加の要因は非常に複雑です。ただ言えるのは、今回のケースではホロクラシー移行の工数が複数人においてかかっているにせよ、売上は下がることはなかった、ということだと思います。

売上という目に見えるものはこのような結果でしたが、目に見えないチームの雰囲気的なものはどうだったのか。
これについては、全メンバーからフィードバックをもらったわけではないし、それぞれ個人の感じ方は異なるのでなんとも言えないのが正直なところです。
ですので私の完全な個人的な感想だけここに書きたいと思います。
ホロクラシーっぽい組織になり、以前はあまりチーム運営に関わっていなかったメンバーも関わる割合が増えたように思いました。(会議の再構築等で、中ば無理矢理参画してもらったところはありますが。)
またOKRの効果もあり、個々人が何を目指しているのか、どういう役割を担っているのかが前よりもわかるようになったことから、チーム内のコミュニケーションは増えたのではないかと思います。
一方、ホロクラシーへの移行に完全に賛成していたメンバーばかりではなかったのも事実です。そのようなメンバーからの反発や疑念はチーム全体にも伝わっていたと思います。

もう一度やり直せるなら?

では何が失敗だったのか?またゼロからホロクラシーへの移行をすることになったら、次はどのように進めるのか?
正直正解は分かりませんが、もしもう一度チャンスがあるなら、次は限られたメンバーではなくできる限り多くのメンバーが主体となって変革を一緒に起こすことにチャレンジしたいです。

今回私が感じた問題は、ホロクラシーにする意味やOKRを導入する意義を全ての人に腹落ちさせることはできず、結果として劇的な変革はもたらされなかったことだと思っています。
人間は変化を怖がり、できれば避けようとする生き物です。それは当然の反応ですが、それを乗り越えて変革できれば、大きなインパクトがもたらされたと思います。
変革をリードする人は確かに必要です。しかし少数だけで変革を推し進めても、本当の意味での変革は起きない。このプロセスにきっちり関与することによって人の思考や行動はガラッと変わるんだと思います。そしてそのプロセスを経たメンバーそれぞれの心の動きをしっかりと理解し、それに合わせたコミュニケーションを取ることができると、本当の変革がもたらされるのではないかと思います。

もう一つ、もっと良くできたと思うのは情報共有の仕組み化です。この情報共有は思いの外強い力を持っているんだと思います。各メンバーが必要な情報を正しくインプットし情報の格差をなくすこそ、変革に最重要と言えるのかもしれません。
今回はAsanaというツールを使うことを決め、どのように情報を蓄積させるのかある程度の方針は出しました。そのときはそれで十分かと思っていたのですが、結果として何が起こったかというと、期待以上には情報にアクセスする人が少なかったと感じています。
それはAsanaというこれまで使ったことのないツールを丁寧に説明せず導入してしまったからかもしれないし、そもそも情報へアクセスすることの意義を伝えられてなかったからかもしれません。
いずれにせよ、情報共有の仕組み化はもっと丁寧に、設計だけではなく運用も踏まえて検討すべきだったと思います。

結局ホロクラシー組織とは何なのか?そして良いものなのか?

結局のところホロクラシー組織は、パフォーマンスを上げるためのものというより価値観的なものなのではないかと思っています。
上から指示されて仕事をするより、自分たちであーでもないこーでもないと模索し意思決定していく。そんな組織を目指したいというアイデンティティやイデオロギー的なものに近いのではないかと思います。
私はこのホロクラシー組織が好きですし、個人的にはやりやすさも感じています。

フリーランスでいくつかの組織に参画しているからなのか、ありがたいことにこれに近い組織で働かせてもらえることが多いです。
でもやはり情報共有の問題はそのような組織の中でも起きていることが見受けられます。私は現実世界の整理整頓は苦手ですが、情報を構造化して格納するのはそこまで苦手ではないようなので、これからも気がついたらやっていこうと思います。

もしホロクラシー組織への移行に興味がある方はぜひお話しさせてください!

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