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さやか星小学校の教育の特色<スクールワイドPBSとは?>

問題行動をやめさせる教育ではなく、望ましい行動を獲得する教育へ。
「スクールワイドPBS」を導入します。


さやか星小学校では、前の記事で「いじめ防止3R」プログラムを導入することを紹介しました。今回は、スクールワイドPBSについてです。
 
さやか星小学校は、個性をのばし、お互いをリスペクトしながら共存できる学校を目指しています。
 
世の中には「個性を尊重する」という趣旨の看板を掲げる学校は、増えてきました。むしろ、今の時代はこのような看板を掲げないと親が選んでくれないかもしれないので、どの学校も同じように「個性重視」を掲げていると思います。
 
ところが、どうも多くの学校ではこれが単なるスローガン、看板だけになってしまう傾向があるように感じています。なぜなら、いまだに多くの学校から「行動コンサルタント」の私に依頼があるのは、「こんな逸脱行動を何とかして減らしたいので、ご助言をお願いします」というものばかりだからです。数えてみますと、実に相談の9割9分が「逸脱行動を減らしたい」「問題行動を減らしたい」というものでした。
 
学校だけではありません。保護者からの直接の相談内容も、半分以上が問題行動を減らしたいというものです。「あれやっちゃダメ」「これやっちゃダメ」という考えに基づく子育てが、あちこちで展開されています
 
確かに、親や教師にとって「目障りな行動」を何とかしたい、と切実に思うのは当然です。普通の大人なら「目に見えている行動」は、目に見えているだけに分かりやすく、「これを減らしたい」と思うものです。
 
本当に大事なことは、実は「まだ目の前には現れていない行動」に着目し、それを教えようとすることです。「目の前に現れていない行動に着目せよ」とは、かなり無理難題とは思いませんか? 「見えないものを見ろ」と言っているようなものですから。つまり、想像力が求められているのです。
 
行動分析学では、PBS(positive behavioral support)の考え方と方法が、この問題への解決の鍵となっていると言えるでしょう。
 

獲得すべき行動を創出して、それを形成する


「問題行動を減らしたい」ではなく、「望ましい行動を増やしたい(身につけてもらいたい)」という発想の転換。この発想転換に徹底することで、そのことは単に発達障害の子どものための良き支援だけでなく、定型発達の子どもの子育てや教育、スポーツコーチング、ダンスや音楽などの活動、リハビリテーションを含む医療関係、会社で求められるパフォーマンス、さらには近所付き合いや夫婦関係などにまで、非常に大きな好循環と結果を生み出す可能性を高めます。
 
先日、面白い出来事がありました。お土産屋で新作の「食べるピーナッツバター」の販売店員さんが試食として1つ下さいました。1粒1粒が個包装に入っている状態です。その個包装から直接、口にこの粒を運ぶ際、店員さんは私に「口で取ろうとしたらダメですよ」と助言されました。どういう助言か理解できず、私は普通に個包装からこの粒を口の中に入れる際、軽く唇で粒を挟んで口に入れようとしました。その瞬間、このお菓子は袋の中で半分ほど粉々になってしまいました。店員さんは「あらー、言ったのにー」と苦笑い。
 
そのお土産を買うことにした私ですが、旅先でこのお土産を渡しながらこんなエピソードがあったと話しました。そこで、そこにおられた10人ほどの方々と、これを一緒に食べてみようということになりました。

私のアドバイスは、こうでした。「袋を開けたら、粉薬を飲むように口を開けたまま、粒を口の中に落としてください」。その結果、袋の中半分で粉々にしてしまうという失敗は誰一人せず、見事に綺麗に食べることができたのです。逆に誰一人失敗しなかったものですから、失敗するとどのようになるか分からないままで、何人かはポカンとしているようにも見えました。私は一言、「これもPBSなんやで」と。
 
もちろん、通常は発達障害の事例でお話をしてもよかったのですが、こんな身近な実生活ですら、PBSに基づいたアドバイスの方がエラーは少なくなるのです。簡単に言えば「●●するな」というスタンスではなく、「○○しよう」というスタンスです。
 
でも、せっかくなので発達障害の事例からもいくつかお話をしておきましょう。ピーナッツバターだけでは、「それがどうした」となるかもしれませんので。
 
図書館で大きな声を出してしまうADHDの児童がいました。先生や親は「静かにしなさい」と注意を与えるばかりでした。私がやったことは、廊下で大きな声で話してみること。そして、図書館では私の真似、ささやき声を出してみること。これを交互に練習しました。その結果、この児童は10分もかからないうちに図書館でのささやき声ができるようになりました。他にも、「廊下を走らない」ではなく「廊下を少し早めで歩く」を練習するような発想も同じです。
 
もっと、難しそうな例を挙げましょう。自分の首筋を掻いてしまう重症のアトピー性皮膚炎の子どもがいました。最初は、親は何も考えずに、掻く行動をブロックしてみたり、注意を与えてみたり、ときには掻こうとする手をつねったり叩いたりしたこともあるとのことでした。そうすると、余計にこうした掻破行動はひどくなるばかりで、余計に痒みが増してしまってさらに掻破し、傷も大きくなっていくという悪循環が続いていました。医師ですら「掻かせないで」というアドバイスを送るのみで、まったくこの悪循環を断ち切ることができませんでした。
 
PBSの発想では、どうでしょうか。「●●するな」というスタンスではないわけです。するどい読者はもうお分かりかと思います。「掻く行動」の代わりに、「病院でもらった保湿クリームを塗る行動」を積極的に教えたのです。すると、「保湿クリームを塗る行動」がどんどん増えていきました。同時に、減らしたかった「掻く行動」は何の罰も与えなくても相対的にどんどん減っていきました。傷跡もどんどん小さくなったのです。
 
どうですか? PBSって最強だと思いませんか? 行動分析学が少しずつ世間にも知られるようになり、そのおかげでPBSを導入し始めた学校や自治体も徐々に増えつつあります。
 
さやか星小学校では、児童の学びについて教科的なものだけではなく、人間関係みたいな社会的なものについても、自分自身で考えて調べて発表するような活動についても、あらゆるところでこのPBSを当たり前のように導入します。学校全体で取り組むPBSのことを、「スクールワイドPBS」と呼んでいます。
 
この方法は、かなりの好循環を生み出します。ポジティブな方法なので、児童の学習成績もそれぞれが持っている力を発揮して、大きく向上していくことも明らかになっています。他者を思いやることも、望ましくない言動を単にとがめて終わりではなく、どのようなスキルを身につけることが望ましいか、子どもらとともに考えて、練習しながら身につけていきます。
 
こうしたスクールワイドPBSが、家庭の中でも、そして地域全体(コミュニティーワイドPBS)にまで、拡大していきたいです。

さやか星小学校クラウドファンディングは、12月13日までです。引き続き、ご支援をいただければ幸いです。

クラウドファンディングサイトはこちら

https://camp-fire.jp/projects/view/596161?list=projects_fresh

公式サイト:
さやか星小学校公式サイト

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【推薦図書】
『スクールワイドPBS:学校全体で取り組むポジティブな行動支援』 クローン & ホーナー(著), 野呂文行・大久保賢一・佐藤美幸・三田地真実(訳),二瓶社.2013年.
『行動分析学研究:第34巻第2号(特集号「学校場面におけるPBSの最前線」)』. 2020年.