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しゃべり疲れた頃、星はどこかの国へ旅立った 月という彼女を連れて

僕が20数年間生きてきて最も最悪だった日は、雪が静かに降り積もる、1月の冷たい夜だった。
青白い満月がオリオン座と一緒にキラキラしていて、夜道を歩く僕を満月は家に着くまでずっと追いかけて来ていた。
時折見える、街路樹の隙間から覗く満月は信号機の黄色い点滅と被り、不思議な風景だった。

何かが始まりそうで少しそわそわした気分。
はっきりと覚えている。

気持ちの良いひんやりした夜道を、駅から家まで歩いた。
なんだかすごく良いことがありそうな、些細な出来事が、全てグッドタイミング!に感じてしまう様な、僕にとっては、そんな夜だった。

しかし、こういう意味もなく良い気分の時に限って、いきなり突き落とされる様な猛烈なパンチを貰う事って、あるもんだ。



人生って語るほど、まどまだ全然生きていないけれど、時として、本当に突き落とされる様なことっていうのが有ると、この時僕は知った。

家に帰るまで家族は知らせてくれなかった。


今思い返してみても、この最悪な日を境に、
そう、
最も身近に居た人が、いつもあたりまえに一緒に時間を過ごして居た人が、突然いなくなってしまったこの時から

どういうわけか僕の人生は、瞬く間に上昇気流に乗り、見たことのない土地を訪れ、笑いや涙、情熱に溢れた人々と一緒に、今まで想像もしなかったような日々が始まったのだ。
それは思いもよらず、向こうから自然にやって来た。塞ぎ込んでいられないくらいに、ものすごく沢山のポジティブなものに振り回されるような、そんな感じだった。



そして今、僕は此処に居る。

あれから20年経った今、爽やかで感じの良い、非の打ち所のなさそうな俳優さんが自殺してしまったニュースが目に留まる。
僕の体験した出来事と、とても良く似ていて残された身近な人達の気持ちが読み取れた。

突然叩き出された現実を、受け入れろとは言われていないけれど
受け入れなきゃならなかった、あの時の状況が蘇る。



残された僕達が時を過ごす方法は
彼女や彼が選んだことを、受け入れることしか無いのかも知れない。


シンプルだけど、乗り越えるには受け入れるしか方法は見つからないと、あの時に何年かかけて答えを見つけた。

考えもしなかった急な悲報を受けて、残された人達の人生が思いもよらず、
瞬く間に上昇気流に乗り
一人ひとりが、いつの間にか輝いていくことを、僕は祈っている。


そして誰もが、もっと生きやすい世の中になっていく事を。


きっと月も、夜空で静かに祈っているんじゃないかな。



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