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ビル・エヴァンス 音楽は三者三様 その3 ピアノ曲

ビル・エヴァンスのアルバム『ワルツ・フォー・デビイ』とアルバム『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』には名曲「ワルツ・フォー・デビイ」が収録されています。
ビル・エヴァンスはアメリカニュージャージー州生まれのジャズピアニスト(1929ー1980)です。

アルバム『ワルツ』の方のワルツ・フォー・デビイ

アルバム『ニュー』のワルツ・フォー・デビイ

アルバム『ワルツ・フォー・デビイ』はピアノトリオ編成での演奏です。ピアノトリオとは楽器がピアノとベース、ドラムから構成される演奏形態です。このアルバムの評価を識者はこのように書きます。

初めてジャズのアルバムを買おうという人には、迷わずエバンスの『ワルツ・フォー・デビイ』を薦めることにしている。このアルバムは彼の代表作であり、ジャズ・ピアノの名演のうちにも必ず挙げられる決定盤だ。よく世間で名が通りすぎているものに、聴いてがっかりみたいな作品があるが、このアルバムに限ってそういう心配はいらない。
引用先 後藤雅洋『ジャズの名演・名盤』講談社現代新書、1990年

がっかりの恐れなし心配なしと太鼓判が押されている。だからこのアルバムを買おうと思った。ではレコードやCD、配信コンテンツなどなど、どのようなフォーマットで買えば良いのだろうか。ある識者はこう書きます。

アルバム『ワルツ・フォー・デビー』はCDではなく、やはり昔ながらに体を使ってLPで聴くのが好きだ。このアルバムは片面三曲でひと区切りをつけて、針をあげて、物理的にほっとひとつ息をついて、それで本来の『ワルツ・フォー・デビー』という作品になるのだと僕は考えている。
引用先 村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』新潮文庫、2004年

レコードを買って、レコードプレイヤーで聴く、A面とB面の交換にブレイクをいれるのがこの作品の鑑賞だと書きます。両識者にとって『ワルツ・フォー・デビイ』は買って良し、聴き方にこだわるとさらに良しと絶賛されます。

最高のアルバム『ワルツ・フォー・デビイ』から一曲を聞くならば何か、と問われるとアルバムと同じ名前の曲「ワルツ・フォー・デビイ」が良いと思います。加えてビル・エヴァンスの別のアルバム『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』にも「ワルツ・フォー・デビイ」が収録されており、両曲の聞き比べをするとさらに良さが増します。

ビル・エヴァンスはピアノトリオについて、こう述べています。

トリオが結成されつつある頃、エバンスはトリオに対する抱負を次のように語っている、「一人が出て吹き終わって、また一人が出て吹くみたいなものよりも、同時進行的な即興の方向が成長していけたらと思うんだ。例えばベース奏者が、あるアイディアが自分の中に湧いてきた時に、どうして黙って4ビートのバックグラウンドを奏で続けていかなければならないか」
引用先 ジャズ批評別冊『ビル・エヴァンス』ジャズ批評社、1991年

 この「同時進行的な即興の成長」はアルバム『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』とアルバム『ワルツ・フォー・デビイ』に収録された「ワルツ・フォー・デビイ」を、『ニュー・ジャズ』から『ワルツ・フォー』という順番で聞き比べるとエヴァンスの言っていることがわかります。

ジャズの曲はテーマと即興から構成されます。即興がジャズをジャズたらしめます。

『ニュー・ジャズ』の「ワルツ・フォー・デビイ」はスタジオでピアノで約1分程度、テーマのみを演奏します。

『ワルツ・フォー』のそれはお客さんがいるジャズクラブでピアノトリオで約7分程度、テーマの演奏と即興が奏でられます。

『ニュー・ジャズ』は数年後に演奏される即興パートを待つかのように、そこが演奏されません。『ワルツ・フォー』は、歌うベースに加えて躍動するドラムからなる即興パートが続く演奏です。

エヴァンスの演奏はリリシズムというようなことが指摘されますが、演奏はピアノ単独ではなく、ピアノ・トリオの形態ですので名曲「ワルツ・フォー・デビイ」を聞くことで「同時進行的な即興の方向が成長」しているさまを感じ聞く、それがアルバム『ワルツ・フォー・デビイ』の収録曲すべてを聞いても感じるという楽しみ方もあるのでは、と考える今日この頃です。

音楽は三者三様

音楽の良さは一人一人の心に宿る。宿り方はさまざまです。絶対的な好悪が特徴だと思います。

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