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川辺のケアル 第3章 ニャンコの夜明け

〜この物語は、あるニャンコとの生活に戦いを挑んだ熱血国際中医師の記録である〜

ニャンコ界においてまったく無名の弱体国際中医師が
荒廃した天候の中で出会ったニャンコと共に健全な精神を培い
わずか数日でニャンコスターとなった奇跡を通じて、
その原動力となった「信頼と愛」を余すところなくドラマ化したものである〜

☆前回までのあらすじ

第1章『顕れるニャンコ』は下記より御覧ください。

https://note.com/sawataya/n/nce91abb956f1

第2章『遷ろうニャンコ』は下記より御覧ください。

https://note.com/sawataya/n/nf12522fc24da


第3章〜ニャンコの夜明け〜

『やれやれ・・・』

僕はネスカフェゴールドブレンドをやや濃い目に作り、それをすすりながら、職場の休憩室の椅子に座っていた。

まさか今朝起きたときは今日がこんな一日になるとは考えてもいなかった。

台風が日本列島に近づきつつある朝、僕は近所の河川敷で一匹のニャンコに出会った。

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蛇口が壊れて調節が効かないシャワーのような雨が降りしきる中

僕と妻はニャンコを抱えて自宅に戻り、小さなダンボール、

それは猫の家と言うにはあまりにも小さすぎるものであるが、

にニャンコをそっと入れて職場へと向かい、午前中の仕事を済ませたあと、僕とニャンコは動物病院に行って今戻ってきたところだった。

動物病院という僕にとってはいささか不釣り合いな場所に初めて行った影響でちょっとした疲労感を感じていた。

やっと冷めてきたネスカフェゴールドブレンドを一口飲みながら、これから僕がやるべきことをRHODIAのメモパッドに注意深く書き出した。

・餌

・ケージ

・トイレ

・水飲み

これからニャンコにとって必要な物をとりあえず揃えないといけない。

男子校に女子トイレが無いように、僕の家にも猫に必要な資材などほとんど無いのだ。

『ペットショップ・・・・』

僕はうつむき加減にその言葉を口から出してみた。

そう、僕はペットショップなど行ったことが無いのだ。

ペットショップはネイルサロンと同じぐらい今までの僕にとっては必要のない場所だったので、当然どこにあるのか?どうすればよいのか見当もつかない。

しかしペットショップは僕とニャンコにとって何かしらのメタファーであり、僕とニャンコにとっては『おそらく』避けられない場所なのだろう。

『僕はペットショップに行くべきなのだ』

仕事を手伝ってくれている母親に出かけることを告げると、まるで残り一つの唐揚げを兄に食べられた弟のような瞳をしたニャンコに

『行ってくるよ』

と伝えて僕は再び車のハンドルを握った。

当然仕事中なので長い時間の外出はできない。

僕にも一応仕事という物があるのだ。

それにこれからニャンコのための食事代も稼がねばならない。

僕は色々と考えた挙げ句、一番近くのホームセンターに行くことにした。

僕にしては悪くない選択だ。

日頃から買い物に行くホームセンターではあるが、ニャンコのための買い物のために来たかと思うと僕の心を多少ではあるが動揺させた。

今までは必要のなかったペット用品コーナーではあるが、僕にはそれがホームセンターのどこにあるのかわかるのだ。

そう、僕にはわかるのだ。

店舗の一番奥、そこに『それは』あった。

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僕は思い出した。このホームセンターにはペットショップが入っていたのだ。

僕は忙しそうに他の客の対応をしているお店のスタッフの中から感じの良さそうな若い女性スタッフに声をかけた。

『あの、子猫を買うことになって必要なものを揃えたいんだけど』

と、まるで彼女とのデート中に下着売り場につきあわされている男性のような落ち着きの無さで僕は声をかけた。

そんな僕の姿をみて哀れに思ったのだろうか?

彼女はマスク越しにニコリとほほえみ『はい、子猫ですね。何ヶ月ぐらいですか?』と僕に問いかけてきた。

『生後1ヶ月半ぐらいです。』

そう、あの時の僕とは違うのだ。

動物病院に初めて行き、オスかメスかの違いもわからず、生後何ヶ月なのかまったくわからなかった僕とは違うのだ。

そう答えると彼女はテキパキと手際よく僕にトイレが必要なこと、まだ小さいのでゲージが必要なこと。餌入れと水飲みが必要な事を教えてくれた。

『あの、もしよかったら貴方のおすすめのもので良いので、そろえてもらって良いですか?』

と彼女に伝えた。

僕は猫については素人なのだ。素人が中途半端な知識で自己判断することの危険性は薬屋という仕事上十分理解している。

一般の方が自分の症状にどんな薬が良いのかわからないのとおなじぐらい、僕はニャンコにとって何が必要なのかわからないのだ。

そんな僕をみて彼女は、このお店には『ニャンコ・スターターセット』というものがあり、それを購入すればゲージ、トイレ、トイレの砂、水飲み、ある程度必要な物が揃うということであった。

僕はそのセットの購入を決めると『フゥ・・・・』と大きく息を吐いた。

まだ何も始まってはいない。始まっていなのだ。

これからニャンコの食事を選ばなければいけないのだ。

まず先に黄色いシリコン製の食事を食べる器の購入を決めると(何故か僕は迷わずそれを選ぶことが出来た)

彼女に『エサもおまかせするので、おすすめのものを選んでください』と伝えた。

彼女は猫用のエサが並んている棚から手際よく、まるで料理人が手際よく魚を三枚におろす用にエサを一つ選んでくれた。

『これでしたら子猫用なので、安心してあげられると思います。』とレトルトパウチされた物を僕に紹介してくれた。

僕は彼女の勧めてくれたものを3つほど購入し、買い物かごに入れてレジに並んだ。

会計を済ませると僕は彼女に簡単なお礼を言い、ホームセンターの中のペットショップを後にした。

『やれやれ、僕がペットショップに行くようになるとは・・・』

そう苦笑いを浮かべながら大型のゲージ(セットのゲージは2階建ての立派な代物だった)と猫用トイレなどを車のトランクに入れ僕はニャンコの待つ職場へと車を飛ばした。

職場の休憩室に戻ると僕はまずニャンコに食事をあげてみることにした。

猫に食事を与えるのは初めてである。果たして食べてくれるのか?僕を受け入れてくれるのだろうか?

レトルトパウチをあけて黄色のシリコン製の器に少し中身を入れるとなんとも言えない独特の匂いが部屋に立ち込めた。

僕はニャンコのいる小さなダンボールの中に食事の入った器を入れてみた。

台風で肌寒いはずの部屋の中で、僕は冷たい汗が自分の背中を流れるのを感じた。

ニャンコは用心深く器の中の物の匂いを確認すると、鼻先を器から離した。

『ダメか・・・』

そう僕がつぶやきそうになったその瞬間、ニャンコは食べ始めた。

ニャンコはエサを食べたのだ。

一度食べ始めると、何かを思い出したように無我夢中でニャンコはエサを食べ始めた。。。

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小さな背中を丸めて、必死に食事を食べているニャンコの姿に僕はうかつにも涙が出そうになってしまった。

どれだけ空腹だったのだろう。

どれだけ寂しかったのだろう。

どれだけ怖かったのだろう。



ニャンコも安心したのか?食事を取り終えるとスヤスヤとダンボールの中で寝始めた・・・・・



僕も心地よい疲労感を感じながら、仕事に戻ることにした。

仕事の合間にニャンコの様子を見に行くと、ダンボールの中から僕を見上げて何か言いたそうな眼をしている。

僕はニャンコの頭をそっと撫でると職場に戻り、残りの仕事を仕上げにかかった。


エピローグ

仕事も終盤の午後の6時過ぎ、妻がニャンコの様子を見に来た。

LINEで状況は伝えていたものの、妻も不安だったのだろう。空になった食事の器を見て安堵し、朝に比べるとかなりダンボールの中を動いたり、毛繕いをするニャンコの姿を見て、徐々に妻にも笑顔が浮かんできていた。

妻がダンボールからそっとニャンコを抱きかかえると、ニャンコが妻の顔を見上げて微笑んでいるように僕には見えた。

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これから始まるのだ。

そう、僕とこの名前もまだないニャンコとの生活はこれから始まるのだ。

不意に僕の頭にはこの言葉がよぎった。

『選ばれし者の恍惚と不安、二つ我にあり』

今日が旗揚げなのだ。今日からスタートなのだ。

まだ旗揚げ戦のメインイベントを戦い終えただけの僕にとってこれから起こるニャンコ大戦争は10年後の未来と同じぐらい予想もできない事だらけなのだろう。

雨がすっかり上がり、少し星空が見え始めた夜の街を、僕とニャンコを乗せた車はゆっくりと自宅に向かって台風の雨で湿った道を走って行った。

〜コータのニャンコ三部作・第一部 川辺のケアル 完〜


※次回作『猫団長殺し(仮)』近日執筆予定



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