1-3 プルースト、登場。そしてひげに思いを馳せる。
大手日系メーカー、ベンチャー企業、と2社を経て、やりたいことがよくわからなくなってとりあえず仕事を辞めてみた29歳、独身、男。仕事について、人生について、考えたり、サボったりするリアルな様を、自伝エッセイ風小説にしています。最後、現状の自分に追いつけるような予定です。ぜひお付き合い頂ければ幸いです。
僕は、読書をすべきだと思った。
そうだ、仕事を辞める前に読んでいた本があったんだ。
19-20世紀の激動期、フランスの小説家マルセル・プルーストによって書かれた、超長編小説。
僕がこの小説にまず思うのは、プルーストのひげだ。
マルセル・プルーストとそのひげ
画像引用 : wikipedia
ダリみたいにとんがってもいなくて、ビスマルクほど男らしくもない。
サルバドール・ダリとそのひげ
オットー・フォン・ビスマルクとそのひげ
画像引用 : wikipedia
プルーストのひげが、とても中性的だと思った。
ひげに中性的もクソもないのだが、まあとにかくそう思ったんだ。
このインスピレーションは小説を読み進めるに従い、あながち間違ったものでもないことがわかっていく。
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僕はこのアホ長い小説を読みたかった。
なぜだかわからない。
仕事を辞めた言い訳が欲しかったのかもしれない。
有り余る時間の言い訳が欲しかったのかもしれない。
でも、この時は不思議と惹かれてしまったんだ。
それに冷静に考えて今しかないと思う。
おじいちゃんになったらこんなに長い小説を読んでるうちに死んでしまうかもしれないから。
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長編の書物を読もうと思えるタイミングは、人生でそう多くはない。
僕はこの小説には大学では2度挑戦して、2度とも挫折。
でも「挫折」という表現は正しくなくて、興味が合わなかったというか、プルーストが語りたいことと、自分の興味があまりにもずれていたんだと思う。
その頃の僕は、部活と哲学科での勉強に若い情熱の火を燃やしていた。
この時は、『失われた時を求めて』を読むことが、真理の追求への遠回りのように思えた。
生き急いでいたともいえる。
自分が知りたいと思うことは哲学的なトピックであって、こんなにまどろっこしい文章に身を浸すことではないと思っていた。
体育会での部活は、レギュラー争い、公式戦での勝利、そして日々強くなること。
そのことだけに興味が注がれていた。
何より、勉強も部活も、結果が欲しかったんだ。
自分が真理に一直線に向かっているという実感に飢えていた。
自分が自分でいるために、正しいことをしているんだ、という。
アイデンティティを強くすることに心血を注いでいたともいえる。
結局、自信が無かったんだと思う。
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でも、今なら読み通せる気がする。
なんでだろう。
時間に、本に、自分に、優しい気持ちで、ゆっくりと文章と対峙しながた自分と語り合える気がした。
仕事を辞めたから? さあ?
そうして僕は、リビングの白い本棚から、筑摩書房版の第一巻 『スワン家のほうへ』を手に取った。
文庫とは思えない重量。
手に収まる重みに身震いする。
武者震い。
映画『ハリーポッター』で何度か出現する「憂いの篩」のシーンを覚えているだろうか。
あのシーンのダンブルドアのように、僕はゆっくりと文章の泉に沈殿していった。
うん、僕の人生も沈殿気味だ。
to be continued……
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