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巣ごもり2DK─2020年5月18日~5月19日

2020年5月18日
 新型コロナウイルス感染症を巡り様々なデマが拡散している。それがどのような内容で、いかなる実害をもたらしているかをメディアも何度となく報じている。中には、心理医学の専門家による拡散に背景の分析や個人として加担しないための対策法を加えている場合もある。

 赤田康和記者は、『朝日新聞』2020年5月18日 5時00分更新「コロナで拡散するデマ 不安が土壌に、鍵は情報公開」において、行政や安倍晋三首相の情報発信の問題点を次のように指摘している。

 なぜ人は不確かな情報を広めてしまうのか。新型コロナウイルスの感染拡大と共にデマが拡散した「インフォデミック」。対策を考えたい。
 3月下旬、長野県飯田市で東京から帰省中の男性の感染が確認され、男性の立ち寄り先をめぐるデマが流れた。ネット掲示板「爆サイ」には、居酒屋や焼き肉店、ボウリング場など8店舗の名が挙げられ、「最新の情報、この方は帰省後、かなり出歩いているようです」と投稿された。だが、実際に男性が訪ねたのは1店舗のみだった。
 そもそも8店舗も行くかと疑う投稿もあったが、「このリストのは確実に行ってるとこ」と断定する投稿で打ち消された。どこかの会社の社内でリストを貼り出して注意喚起している写真も、8店舗の一つには届いた。「口コミ」でもデマは拡散した。
 心理学の定説では「問題の重要性」と「情報のあいまいさ」の積に流言の量は比例する。飯田市で初の感染者とあって、立ち寄り先は市民には重大な関心事だった。だが、県の発表は男性の帰省から入院まで約1週間の行動歴を「調査中」とするにとどめた。東京女子大の橋元良明教授は「投稿者には県に代わってあいまいさを解消する正義感や自らの情報を誇示する欲があったのでは」とみる。
 コロナ関連のデマは「トイレットペーパーがなくなる」「○○社の社長が感染者」など多数あり、実害も生じた。
 どうすればデマを防げるのか。法による規制には限界があるが、デマ投稿者が個人情報をさらされるなど制裁を受ける事例もある。投稿のリスクを伝える啓発も必要だ。
 行政には、不安や疑念を減らすべく情報をできる限り公開する責任がある。飯田市のケースでは、デマが流れた時点で、県が「7店舗は無関係。○○には立ち寄ったが、クラスター(感染者集団)発生など感染拡大の恐れはない」と事実を公表し、沈静化をめざすべきだった。
 県の担当者は「詳細を公表しすぎると、感染者がプライバシーの暴露を恐れ、調査に協力しなくなる恐れがある」と話した。だが、飯田市ではデマ拡散と共に不安や怒りが高まり、感染した男性の個人情報まで暴露された。情報の非開示でプライバシーを守れるとは限らない。これは貴重な教訓だ。

 ■不信の連鎖に加担する首相
 そもそもデマの土壌となる不安の解消という意味では、政府や専門家が主導する「コロナ対策」が信頼を得られていないのが問題だ。千葉大の神里達博教授(科学技術社会論)は「専門家や行政が正しい判断をしているのか、よくわからないという状況では個々人が様々な臆測をし、偏見が拡大する」と指摘する。
 橋元教授の約3千人対象の調査では「全面的に信頼している」を100点としたときの安倍晋三首相の会見の信頼度は28・5点で、「知り合いからのLINE情報」の22・8点と大差がなかった。未知のウイルスとの闘いは首相の対話能力の水準を白日の下にさらしている。不信の連鎖に加担している責任は大きい。

 記者はコミュニケーションからデマ問題を捉え、行政や安倍首相がそれが不十分だと指摘する。この場合は「クライシス・コミュニケーション(Crisis Communication9」に当たる。これは緊急事態が発生した際の組織がとる対外的コミュニケーションによる危機管理対応である。このコミュニケーションの対象はステークホルダーやメディアなどだ。

 危機の際の行政や専門家によるコミュニケーションは四層構造をしている。これは、デイリー・コミュニケーションが土台となる最下層として、その上にそれぞれサイエンス・コミュニケーション、リスク・コミュニケーション、クライシス・コミュニケーションという階層で構成されている。行政や専門家と市民の間でデイリー・コミュニケーションが行われ、信頼関係が構築されていなければ、クライシス・コミュニケーションは成立し得ない。

 行政や首相がクライシスを率直に明示し、市民がそれを踏まえた上で、今後を考える。政府や総理が正確な情報を発信せず、自身への信頼や社会の安心を訴えるのはPRというものだ。デイリー・コミュニケーションもサイエンス・コミュニケーションも普段はおろそかにしていて、当然、それがうまくいくはずがない。

 今回のような科学に関連する事態では、行政や首相、専門家と市民のコミュニケーションで重要なのは、前者による後者への正確な情報の伝達だけではない。市民は正確な情報を聞くのみならず、それに関して話し合うことを望んでいる。どんなに正しくても、専門家の話を聞いているだけでは嫌なのであって、自分たちにも言わせろというわけだ。市民は、横や双方向を含めた多様なコミュニケーションを通じて、抱いている不安や意見を相互に交感し、その情報の妥当性を吟味し、納得して判断した行動をしたい。そういう機会が閉ざされていれば、「正義の人」(森毅)が暴走しかねない。特に、安倍首相は普段から国会答弁や記者会見のいずれでも誠実に答えず、政府も彼に忖度してか都合の悪い情報を改竄・隠蔽していると見られている。デマがはびこる土壌を用意していると言わざるを得ない。

 夕食には、ハンバーグビーフカレー、野菜サラダ、セロリなどのピクルス、モズクスープ、食後にコーヒー。屋内ウォーキングは10181歩。都内の新規陽性者数は10人、死亡者数4人。

参照文献
武田譲、『新訂バイオテクノロジーと社会』、放送大学教育振興会、2009年
赤田康和、「(記者解説)コロナで拡散するデマ 不安が土壌に、鍵は情報公開 東京社会部・赤田康和」、『朝日新聞』、2020年5月18日 5時00分更新
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14479366.html?iref=pc_ss_date


2020年5月19日
 この2010年代、日本の「右傾化」がメディア上で指摘されてきたが、実際にはパターナリズム化である。従来沈黙していた人たちが政治発言をすると始まるバッシングはそれをよく示している。『朝日新聞』が口を開いた有名人をめぐる痔記事を掲載している。2020年5月18日11時30分更新の有名人の政治発言、米国では普通 攻撃多い日本との違い」並びに2020年5月19日12時00分更新「『黙れブス』物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS」がそれだ。前者は竹花徹朗記者による町山智弘へのインタビュー、後者は伊藤恵里奈の署名記事である。

 検察庁法の改正を始め政治的・社会的問題に対する意見を主張したら、その有名人への罵詈雑言がSNS上で広がる。特に、女性に対して激しい。日本お有名人は、従来、そうした態度表明をしないことがほとんどだったが、パンデミック下で知れが変わりつつある。ところが、そのアンガージュマンを黙らせようとする動きがSNS上で始まる。他方、米国の有名人が政治発言をすることはよくある。もちろん、それに対する非難もあるが、支持の声も広がる。

 もっとも、アメリカでも1960年代に入るまでは有名人が政治発言をすることは稀である。エルヴィス・プレスリーは、異議を申し立てることなく、招集令状に従い入隊している。それが60年代に入ると変わる。公民権運動やベトナム反戦運動など少数派や若者を中心に社会的異議申し立ての声が大きなうねりになると、有名人もそれに加わる。モハメド・アリは入隊を拒否、刑務所に送られる。60年代以降、有名人は自身の活動が社会の中にあることを自覚、社会的責任を果たすための行動をとるようになっていく。

 日本の有名人が政治発言を避けてきたというのは正確ではない。パターナリズムの声高な主張をスポーツ紙などが好意的に取り上げることも少なくない。おまけに、所属事務所がその行為を必ずしも咎めない。そうしたタレントの名を何人も挙げることができる。自由主義的な政治発言を有名人が黙り、表明すると、バッシングが始まる。

 特に、自由主義的な政治発言をする女性に対するバッシングが汚い。それはフェミニズムとパターナリズムを比べると、わかりやすくなる。

 フェミニズムは近代本流思想のリベラリズムの一種である。それは近代の最も基礎的な原理の公私分離を私の側から再検討する。家事や育児、介護などの分担は私的領域に属し、各家庭の選択に本来委ねられている。だが、実際には、そうした私的領域に公的な関係や構造が影響を及ぼしている。近代の原則を実現するために、社会的認識を改め、権利を保障するための法制度を制定する必要がある。

 一方、家父長主義とも訳されるパターナリズムは関係を上下で認知し、下の同意を得ぬまま相手の利益になるとして上が干渉する思想である。上は下に対して裁量権を持っている。それを下のために行使しているのだから、上は尊敬されねばならない。温情主義やおまかせ主義であり、自由で平等、自立した個人という近代の原則を許容しない。当然、公私分離も守らない。近代の原理を足場にしていないので、その主張はしばしば合理性を欠く。だから、批判に対しては往々にして感情的な罵詈雑言しか口にできない。

 政治発言を避けることはリベラリズムを抑圧、パターナリズムを増長させるという政治性がある。それは政治的中立ではなく、反近代的政治への退行にすぎない。

 ネット上の誹謗中傷は日本だけでなく、「『黙れブス』物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS」が述べる通り、世界的な問題である。だからこそ、リベラリズムに対するパターナリズムから捉える必要もある。

 こう考えてくると、世界的に女性首脳の国や地域がパンデミック対応に比較的成功している理由も理解できる。

 沢田千秋記者は、『東京新聞』2020年5月9日更新「<新型コロナ>女性首脳、際立つ存在感 台湾、NZ、ノルウェー…封鎖、検査を徹底」において、女性首脳の活躍について次のように伝えている。

 テレグラフによると、女性首脳の国では、百万人当たりの死者数が少なく、積極的に検査することで陽性者一人当たりの検査数が多い傾向にあった。なかでも台湾とアイスランドの死者はいずれも十人以下、ドイツは同規模の感染者数がいる欧州諸国と比べ死者数は四分の一程度にとどまる。
 英メディアが「最も成功した首脳」と評するのは台湾の蔡英文(さいえいぶん)総統だ。新型コロナが「世界を破壊し、健康と経済に危害を加えている」と強い態度で臨み、素早い対応と情報公開を徹底させた。アイスランドのヤコブスドッティル首相は、症状がない人にも無料でウイルス検査を実施した。
 ニュージーランドのアーダン首相は、真摯(しんし)な語り口が国民に弱者を思いやる精神を植え付けたと評判。「多くの人が直面する困難を痛感する」と、いち早く自らと閣僚の報酬を半年にわたり二割カットに踏み切った。三十四歳で最年少の現職首相となったフィンランドのマリン氏も会見を続ける姿が好感を呼んだ。
 一方、ノルウェーのソールバルグ首相は子ども専用会見を開き、友達とハグができないつらさを共有。デンマークのフレデリクセン首相が、自宅で皿洗いしながら往年のヒット曲を歌った動画や、科学者であるドイツのメルケル首相が、冷静に封鎖理由と出口戦略を説明する動画は、国民の間で人気を博した。
 テレグラフは「経済への打撃を承知で迅速に封鎖できるかが命運を分けた」として「女性首脳は普段から批判に慣れ、直面した時の対応力があった」と分析。英紙ガーディアンは「そもそも女性首脳は、政府への信頼が厚く、男女の格差が少ない国で生まれがち」として、厳しい封鎖に対しても国民の理解を得やすい素地があったと指摘した。
 英クランフィールド大のディアドリ・アンダーソン上級講師(組織心理学)は「男性なら主張が強いと評価される態度が、女性なら攻撃的と批判される。女性はより振る舞いに注意する必要があり、そこから多くを学んできた」と分析。「コロナ対策での活躍は、普段からリスク回避のため男性よりも客観的データに基づく決断を重視してきた成果だ」と話している。

 これらの国・地域は人間開発指数や民主主義指数などで従来より世界的に概して高く、リベラルデモクラシーが進展していることで知られている。そうした政治文化が女性首脳を生み出している。それは、素早く情報を公開、市民からの信頼を元にコンセンサスを形成して政策を実施していくことを重視する。こうした自由主義的民主主義の姿勢で女性首脳はパンデミック対応に臨み、成果を上げている。逆に、往々にして非自由主義的男性首脳が対策に失敗、感染拡大を招いている。パターナリズムはウイルスに効かない。

 もちろ、そうした国・地域にもパターナリズムによる女性への非難はある。ただ、そういった環境の中で活動してきたので、彼女たちは男性首脳よりも精神的にタフ、でコミュニケーション力も高い。他方、パターナリズムが強いところでは、成功するために女性もその虚偽意識にとらわれることが少なくない。これではタフで教官能力のある女性首脳が育たない。

 夕食には、ハンバーグビーフカレー、ゆで卵、野菜サラダ、ワカメのナムル、セロリとパプリカのピクルス、食後は玄米茶。屋内ウォーキング10157歩。都内の新規陽性者数は5人。

参照文献
沢田千秋、「<新型コロナ>女性首脳、際立つ存在感 台湾、NZ、ノルウェー…封鎖、検査を徹底」、『東京新聞』、2020年5月9日更新
https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202005/CK2020050902100016.html
「有名人の政治発言、米国では普通 攻撃多い日本との違い」、『朝日新聞』、2020年5月18日 11時30分更新
https://www.asahi.com/articles/ASN5K7GC1N5KUHBI025.html
伊藤恵里奈、「『黙れブス』物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS」、『朝日新聞』、2020年5月19日12時00分更新
https://www.asahi.com/articles/ASN5M351PN5JUTIL01C.html


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