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「水中の哲学者たち」「知ることより考えること」を読んで、潜水士と宇宙飛行士になる

はじめに

『水中の哲学者たち(永井玲衣著・晶文社)』『知ることより考えること(池田晶子著・新潮社)』を2冊同時に読んでみて、哲学とは潜水と宇宙飛行なんだと知ったので、ここに記します。

きっかけは友達

友達のまな|note さんが、「『水中の哲学者たち』の対話会に行かないか」と誘ってくださったのがこの本を読んでみようと思ってみたきっかけです。前から気にはなっていたけど、使えるお金は限られているので、またご縁があれば…と思っていた矢先でした。
それで、本を購入し著者のことを調べたところ、過去に崇拝していたけど最近は頭の片隅に追いやられていた、文筆家 池田晶子さんの記念賞「わたくし、つまり Nobody賞」を今年受賞されたということを知り、とても驚きました。と同時に、これは運命的な出会いだと勝手に舞い上がってしまいました。
永井玲衣 | 受賞者一覧 | (池田晶子記念)わたくし、つまり Nobody賞

読んでみると、池田晶子さんを柔らかく優しくしたような、でもわからないということを大切にしている点では同じなんだと感じ、池田さんにもし子どもが居たらこんな人なんじゃないか、だったら良いな~、なんて、勝手に妄想を膨らませながら一気に読み進めました。

池田晶子と出会ったのは高校時代

私が池田晶子を好きになったのは高校時代でした。
当時、勉強の内容が難しく感じ、このままでは希望する大学へ進学出来ないのではないか、と危機感を持った私は自分の限界を感じ塾へ通いたいと思いました。学校の前で配っているパンフレットや、それに付いている蛍光ペンなんかを見ながら、色々調べました。周囲では、自習室が快適であったり、先生がパリっとしたスーツで受験における最短ルート的なことを教えてくれる塾が人気がありました。ですが私は、どう考えても思想の強い塾長の思いがA4用紙びっしりと埋まっている、見やすさやかっこよさはそっちのけで、とにかく思いを詰め込んだような怪しいチラシに惹かれてしまい、そのまま門をたたいて入塾しました。塾長はたしか、いつもポロシャツにチノパン、いつもボロボロの分厚い英英辞書を小脇に抱えている不思議な人でした。

その塾長はテクニック的なことではなくとにかく大量の英文を独自のストーリーとともに読んだり書いたりさせて、受験と生活を一体化させるような、身体に染み込ませるような教え方の先生でした。その人の授業の中で、ほぼ毎回池田晶子さんのエッセイに関する話になるので、私はそこで池田晶子さんのことを知りました。あのチラシもきっと池田晶子さんに影響をうけていたのだなと分かりました。

思考停止の受験マシンになるな

塾長の話を一つひとつは覚えていないのですが、受験生に対して「分かったと思うことは、何にも分かってないんだから勘違いするな」といったお話をされていたように思います。中にはそれを聞いて「受験なんだから今は哲学の話をするなよ」と冷めた生徒もいました。私はなんだかちゃんと理解出来ないけど、小学生ぐらいからぼんやり思っていたことが言語化されて脳がすうーっと気持ちよくなったのを覚えています。受験勉強を一人でするのは私には絶対無理なのですが、この塾は自分にとって居心地よく、楽しく過ごすことが出来ました。痛快哲学エッセイを聞きながらの勉強です。英語の授業の合間に哲学授業をされて、「思考停止せず本質を観る努力をしなさいよ」と伝えてくれていたように思います。

しかし残念なことに池田晶子さんは、私が高校3年の時に47歳の若さで亡くなってしまいます。塾の先生はその日いつもの元気がなく、肩を落として登場されました。その日はところどころすすり泣きながらの授業だったような気がします。でも、授業の最後のほうには「池田晶子に『生きてても死んでてもやることは同じで考えることだけなのに何をそんなに慌てているの。』、と呆れられるだろうから、泣くのはもうやめよう。」という結論に落ち着き、私もほっとしました。そして、受験が終わったら本を買おうと心に誓いました。

頭一つあればいい

以下は、『知ることより考えること』の中で私が最も好きな部分です。いつ引いたか忘れましたが、鉛筆で線を引いてさらにしおりを挟んでいます。

外から提供される刺激のことを娯楽だと思い込んでいる現代人は、本当の娯楽を知らない。自分で楽しむということを本当は知らないのだ。だから人は病的に退屈を恐れる。強迫的に娯楽を求めるのは、退屈することが何よりも怖いからだ。何もすることがない。何もしないということは、地獄に等しい業苦に思える。
(中略)
本質的な事柄を考えるために、外的な刺激や情報は不要である。頭一つあればいい。いくらでも考えられる。自分の中からそれは出てくる。だから退屈するということがない。考えることに限らない。自分の仕事を見出している人なら知っている。何もしないということは、裏返し、するべきことだけをするということだ。飽きている暇などないのである。

知ることより考えること p.166-167

池田さんにとっては、自分の生活に必要最低限のお金を稼げば、あとは家で携帯も見ず、じーっとしているのが一番の贅沢だと考えているようです。とても共感できて憧れるのですが、私はついつい携帯を見てしまい、それで買いたいものが出来たり、行きたい場所が見つかったりしてしまいます。携帯を見なくても、周りに物があると気が散ってしまうこともあります。そんなとき、思いがけずですが家のサウナが役に立ちます。サウナ内には何も持ち込めないので、身一つで木の香りに包まれ、肌に蒸気を感じながら音を遮断し一人で過ごすことが出来ます。
池田晶子は多分、サウナなんてしょうもないもの必要ないと鼻で笑うと思いますが…。

潜水と宇宙飛行

『水中の哲学者たち』の著者永井玲衣さんはひとつのテーマについて皆が深く考える哲学対話のファシリテーターをしていらっしゃいます。池田さんが頭一つで自分の宇宙を旅する宇宙飛行士なのに対して、永井さんは皆が発する問いの海に潜ろうと提案してくれる潜水士。潜水のほうがまだ生活に近いように思うので、それでも私は初心者ですが、今週末初めて参加する対話会も恐れずに飛び込んでみたいと思っています。

おわりに

あまり本の感想になっていないですが、読んで下さりありがとうございました。平日はIT企業の協業推進と、同企業の茶道部(毎月第三木夜)を、土日祝は兵庫県西宮市の自宅にて、友人知人に対して、本と生活のある個室サウナ『SaunaKanit』を運営しています。是非お気軽にお友達になってくださいね。
Sauna Kanit – 家の中の小さなサウナ (sauna-kanit.net)


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