村上春樹『パン屋再襲撃』②入門の一冊になりそうな気分
こんにちは、これは記事の後編になります。
ほとんど内容に触れてない前編もぜひご覧ください!
題名についての考察は中々いいこと言ってると思いますよ!
そして、サムネイルでネタバレをしていくのは、新しい
今回は、文学考察初心者の私が感じた、この作品のポイントの整理と、私が小説を読む際に必ずと言っていいほど行っている「物語の境界」の線引きについて述べてまいります。
深い考察は知識が足りてませんので
あくまで考察ポイントとなりそうな点を挙げていきます。
すでに作品を読んでいるものとして話を進めていきます。
まだ読んでいないという方は、村上春樹の中でも特にポップで短い作品ですので、ぜひ、一読後にこの記事を読んでいただきたいです
頭のおかしな登場人物
この作品において大多数を占めるのが頭のおかしな人物です。
むしろ、正常なのは主人公の男一人のみだった。
読み終えて感じる世の中の不条理さのようなものがありました。
この感覚の所以となる変な登場人物についてまとめます。
主人公
一度目の襲撃では、生活の困窮からくる苦肉の策として行った。
行動には、一定の合理性が認められる。
作品に登場する人物の中で一番まとも
かつての黒歴史を妻に告げたことから、よりクレイジーな出来事の扉を開けてしまう。
ほかのクレイジーな人々に紛れてしまってもはや常識人とさえ思える。
パン屋の店主
一度目のパン屋襲撃の際に襲撃した先の店主。
パンをもっていっていいから、ワーグナーを聴けと交渉を持ち掛ける。
そもそも、夜遅くにパン屋を開いているのが変。
ワーグナーを聴く人(ワグネリアン)は思想が強いのでは?
反ユダヤ的な思想?
小さな街のパン屋にくすぶる静かなバイオレンスを感じる
妻
特殊な空腹を満たすために結局外へ出て相当の時間を費やしている人
(その前に、空腹を満たすために外へ出かけるのは嫌だと言っているのに、元カノとの襲撃話を聞いて腹の虫がおさまらなくなった。)
散弾銃にスキーマスクを当たり前のように持っている
手際のよい襲撃の段取り
襲撃目標のビックマックにはお金を払わないのに、コーラにはきっちり支払いを行っている
主人公が昔の黒歴史を話すもんだから、必要のない妻の側面を知ることとなった。
店長
マクドナルドの店長
自分の店が襲撃されているのに妙に冷静
現代におけるマクドナルド自体を表したかのような人格。
商業主義、薄利多売のファストフードに毒された人間の末路。
もはや生きるゾンビ
学生風のカップル
襲撃先のマクドナルドにいた唯一の客
ただし深い眠りについていて、事件現場の目の前にいながら事件の現場を全く見ていない
一体何が楽しくて深夜のマクドナルドで周りの状況に気づかないほどに眠る必要があるのか。
もしかしたら死んだふりなのか
とにかく登場人物でありながら何ら物語に関与しない
物語の境界
小説を読む際に私は必ずと言っていいほど行っていることがあります
それが異界への入り口と出口を探すことです。
わかりやすく実例を挙げて説明しますと、
ジブリの『千と千尋の神隠し』で言えば、草木の生えた荒れ道を進みトンネルを抜けると不思議なことが起こりだした。
そして、また、トンネルを抜けてもとに戻るという
物理的にわかりやすい描写だといえましょう。
宮部みゆきの『ブレイブストーリー』や『ハリーポッター』などSFはよく物理的な扉をきっかけにされます。
モノとしてきっかけがなくとも異世界へのきっかけはいろんなところにあります。
では、『パン屋再襲撃』における物語の境界はどこにあるでしょうか。
私は、この場面だと思います。
主人公が「パン屋再襲撃の時だ」とつぶやいたタイミング(P16)
ここを境に妻の言動がおかしくなります
冒頭でもあるように
それが正しいことだかわからないが言ってしまったことは撤回できないし、その結果がどうなるかなんてわからない不条理さがあるのだ。
逆に言えば、物語の展開のためには、主人公はこのことを言わなければならなったとも考えられる。
決定的な妻の言動としては
発言以前は空腹を満たすために外へ出かけることを否定する古風な女性だったのに
発言後は特殊な空腹を満たすために率先して外へ出かけて、マクドナルドという現代的な施設を襲撃する。
特殊な空腹について
ただおなかがすいたという言葉では片づけられない特殊な事情を抱えた空腹
心理的な空腹といえるものは最後に満たされたのでしょうか。
この特殊な空腹はいわゆる呪いということなのでしょうか。
妻の旦那の元カノへの嫉妬が怖いです。
まとめ
現代社会に潜む狂気について、日常を取り戻していた主人公の発言をきっかけに主人公は異世界へ引き込まれます。
日常と非日常の近さ
不条理さ
現代の問題が見えてない(見ようとしていない)現代人
湖のそこがどうなっているのか。
見る必要はないが、見ようと思っても見えない
急に透明になって海底火山が現れるかもしれない
そういう世界を村上春樹は描きたかったのではないか。
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