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酔いどれ雑記 36 Walk of Lifeーアッシジで涙

アッシジの話をしようと思うのですが、ヘッダー画像はヴァチカンです。アッシジでは写真を一枚も撮っていないので......。すみませぬ。でもね、アッシジに行ったことのある方なら、町の入り口の広場がこんな感じで柱に囲まれているのをご存知かと思います(こんなに広くないですけどね)。

もう10数年前の話です。どこの街からアッシジに向かったのか覚えていないのですが、タクシーで行きました。そしてなぜだか全く分からないのですが、だんだん町が見えてくると涙があふれて止まらなくなったのです。そんなことは私の旅行中で初めてでした。直前に何か悲しいこと嫌なことがあったわけでもありません。本当に理由が全く分かりませんでした。アッシジといえば聖サンフランチェスコがあまりにも有名ですが、それとは関係がなさそうです。感極まって涙が出てきたのではなく、自然に流れ出してきたという感じでした。

そしてタクシーが広場に停まったとき、ラジオからは懐かしい曲が流れてきましたーー大分経ってからその曲はDire StraitsのWalk Of Lifeだと知ることになるのですが、曲自体は10代の終わりから知っていて、ずっとあれはなんて曲だったんだろう?と気になっていたんです。一番最初に聴いた記憶は、当時交際していた外国人男性の家でです。MTVの80年代特集みたいな番組を録画したビデオを見ていたのですが、いい曲だなぁ、けどアメフトとか出てきて変なPVだなぁと思いつつアーティスト名も曲名も特に気にしないでいて。Dire Straitsの曲の話は今回の話とずれてしまいますけれど、初めて聴いた時から20年後くらいに曲名を知ったんですね。80年代の曲だろうってことは予想がついていましたので(ビデオでは前後にJoan Jettの曲がかかっていましたし)、片っ端から80年代のヒット曲を集めた動画を聴きまくり、探しまくりました。数か月かかりましたが「あ!これだ!」って見つけた時の感動ったらなかったです。やはりあれは名曲ですねぇ。好きな曲100選に入ると思います、多分。

涙が止まらないままアッシジの町を歩きました。ホテルはフランチェスコ教会のそばにあるこじんまりとしたところで、荷ほどきしてすぐに教会に行き、これまた有名すぎる、聖フランチェスコの生涯を描いたジョットのフレスコ画を観ました。

さてここでまたバック・トゥーthe80年代です。私と同世代の方ならご存知に違いない、ある有名な日本のドラマがここで撮影されましたがお分かりでしょうか?ドラマの最終回、教官と婚約者......が結婚式を挙げようとするシーンです......。「教官」でピンときましたかね?『スチュワーデス物語』です。実際、あそこで結婚式って挙げられるもんなんでしょうか?という疑問はおいときましょう。私はリアルタイムで見たわけではなく小学生の頃に再放送で見たのが初めで、さらに中学生、10代の終わり、そしてもっと大人になってからも見ました。いや~、あれ、大映ドラマなだけに脚本やキャラがぶっ飛んでますけれど、かなりの名作だと思いますよ。まず海外のシーン。あれを見てスチュワーデス(あえて当時の呼び名をします)になりたいと思った方も多いと思いますが、海外旅行に行きたいと思った方もかなりいるのではないでしょうか。私もその一人ですが。子供の頃は「パリって素敵だな~、イタリアかぁ~いいなぁ」くらいに思っていましたが、私が特にあのドラマの海外のシーンで好きなのは、千秋が教官をフランスまで追いかけて、2人がマルセイユの港で手をつないで歩くシーン。あれを見ると毎回泣いてしまいます。教官には真理子という婚約者がいるから諦めなくてはいけないのは分かってる、けどせめて一時だけでも一緒にいたくて「お願いがあるんです......私と手をつないで歩いてくださいませんか?」と教官にお願いする千秋が純粋で、ひたむきで切ないことこの上ありません。「いいよ」と優しくこたえる教官も素敵です。あとはエクサン・プロヴァンスのアルベルタ広場でショパンの木枯らしを流したラジカセを持った女性が「真理子はパリにいる......あなたと真理子は一生一緒にいる運命よ」と真理子を追ってやって来た浩(教官)に告げるシーンも印象的です。

子供の頃はどんなに教官を想っても恋が実らない千秋がかわいそうだと思っていましたが、10代終わりに見た時には真理子もかわいそうだと思うようになりました。天才ピアニストとして世界で認められようとする矢先に浩と行ったスキーでの事故で手を失くしてしまって人生が狂ってしまい、パーソナリティー障害としか思えない行動をとって浩や周りを困らせて......。尤も、母親がいなくて大金持ちの父親に甘やかされ我儘に育ったお嬢様という、機能不全家族ですからそれも原因なのでしょうし、真理子がああなってもおかしくないと思います。突っ込みどころは色々あるんですけども。将来を約束されたピアニストがスキーをしたらまずいですよね?怪我をしたらどうなるか分からないわけじゃなかろうに。

私がもし、自分にも責任があったとはいえ交際相手も関わっていた事故等で自分の人生が取り返しのつかないことになってしまって、相手に逃げられたり無下な扱いをされたら精神がズタボロになると思います。けれど......責任を取ると言ってくれた方がむしろ重たい気もします。罪悪感、やりきれない思い、愛を疑い、怒り、悲しみを一生持ち続けそうですから。単純に誰かを憎める方がきっと楽でしょうーーアッシジで流した涙のわけは、未だに分かりません。多分、一生分からないと思います。


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