東京に行きたしと思えども

東京とは、かくも恐ろしいところである。

好きなジュエリーデザイナーの自宅兼アトリエで開催された、ブレスレットを作るワークショップに参加した。いま住んでいる街では祭りが開催されていたが、このチャンスを逃してはなるまいと、その二日目を蹴って二時間ほどかけて東京の街にやってきた。下町?の奥の方にあるちいさなアパート。

参加人数は4人。自分以外全員、東京の人だった。

デザイナーの知り合いの女性。はつらつとした雰囲気で、こういう機会がない限り話すこともないであろうタイプの人だ。かっこいい。意味はよく知らないが「ロハス」という言葉が似合いそう。ピオーネを持ってきてくれていた。

正直、よくわからないがファンクラブの運営サポート?をしている女性。東京にはいろんな仕事がある。美術館に住んでいるらしい。オシャレすぎる。東京にはいろんな生き方がある。現代アート関係に最近ハマったらしい。初動が早い。

ツインテールの男性。おしゃべり好きで、話題に事欠かず、世界各国を旅したり経験が豊富そう。しかもその話どれもがおもしろく難しくためになる。間違いなく変な人。いい意味で。

そして群馬県出身のオレ。二時間かけてこの日のためにノコノコやってきた。去年ブラック企業を辞め、いまはフリーター。

ワークショップは終始和気あいあいとした雰囲気で、本当に楽しかった。
ツインテールの男性は30代ほどであったが、なんにでもすぐに興味を持ち、あたらしいことに発展できそうな感じの話をする。話題の中心はこの人だった。かっこいいぜ。
デザイナー本人が集めてきた廃材やビーズを好きに選んで組み合わせる。子供の頃に戻ったような、ミッケ!のような感覚。楽しい。超楽しい。

聞くところによると、彼は普段はサラリーマンとして働きつつ「ここのがっこう」という学校に通っているそうだ。そしてデザイナーの方も、「ここのがっこう」で学んでいたそうだ。そこでは今日のようなワークショップのような形式の講義も多く、ファッションにとどまらず現代アートや情報やビジネス、様々な文脈で考えることができる…もし、そこに行ったら絶対楽しいだろう。毎日が刺激的だろう。人生が変わりそうだと思った。


東京でここのワークショップに来るような人はやはりアンテナが高く、趣味も似通っている気がした。

「〇〇さんが〜」「あ〜そうそう!」「この間荻窪のほうで展覧会が…」「それ行きました!」
「〇〇の文脈で…」「それ〇〇さんの展示で…」

これだ。これが東京だわ。世間の狭い感じ。高水準のサブカルチャーの話。
専門学校にいた頃の、みんなで何かを作ったりして楽しかったあの感じを思い出した。しかしこれはもっと高度で、自由で、なんというか 解放されていた。

怖かった。「ここのがっこう」に行こう!と思ってしまったら。東京に住んで、彼らの仲間になりたい!ともっと本気で思ってしまったら。今こうやってNOTEを書いている部屋も、外に停まっているオレンジの車も、明日10時から行くバイトも、昨日花火をみた友達も、すべてを捨て去ることになる。

人生が変わるってのはそういうことなんじゃないか。少なくともいまは、そうしなければ東京での生活なんてできないだろうと、そう思っている。
井の中の蛙が大海を知ったら、きっとこういう気持ちなのかもしれない。行きたいけど海水に順応しなければならない。井戸を捨てなければならない。
夢を叶えようと思ったら、それ以外のものを失うことを覚悟しないとならない。

くそう。怖いぜ。おれはしょぼい群馬のコミュニティしか知らない。

オレは仕事を辞める時、崖に立つと、海が見えるって感じです と話したが

何より、飛び込むことそのものがこんなに怖いとはな。

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ちなみに帰りにそのブレスレットの紐が切れてしまった。傑作だったのにな。オレは東京にはなれねぇ。その暗示かと思って、効いた。

でも今日は楽しかった。なんとかして直します。

その辺に咲いた花の方が、どんな写真の花よりもどんな絵画の花よりも綺麗だと心から思うんだ
だけど、その辺に咲いた花にも規則性はあって、そこに数列や科学で証明できる理由があって、必然的に存在しているんだと思うと、やりきれない気持ちになる。

さらば東京。ピース。


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