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掌編小説

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140字から始まる超短編小説です
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#あこがれ

あこがれに似て、恋に似て【掌編小説】

あこがれに似て、恋に似て【掌編小説】

彼女は明るくやさしい。
誰にでも。
こんな地味な私にも。

(もっと私としゃべって。笑顔ももっと。どこにも行かないで。他の人としゃべらないで──)
蜘蛛の糸のような思い。ずっと自分のそばにいてほしいと願う。他の人をすべて排除したいという思い。

これは嫉妬だ。友情ではなく。
自分を恥じた。

都会への大学進学を機に、引っ越しをすることに決めた。

「行かないで」
駅のホームで涙ぐむ彼女。
「またね

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気後れ【掌編小説】

気後れ【掌編小説】

母のタンスに、ウールのロングコートがある。真っ白で、ギャザーとリボンがついてる可愛いものだ。
でも着たのを見たことがない。着ればいいのにとうながすと、綺麗すぎてもったいないと逃げる。
それが数年続いた。

今年、季節の衣替えでタンスの中身の入れ替えをする時、あのコートがないなと思ってたずねると、母は「処分した」と答えた。
「どうして? 気に入ってたんでしょう」
「……」

実は一度着たという。それ

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