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The Lost Universe 巨大単弓類②巨大盤竜類

地上に誕生した最初の単弓類が「盤竜類ばんりゅうるい」です。記念すべきご先祖様の出発点であり、当時の地球環境に順応した成功者です。彼らの中には、私たちがこれまでの人生で確実に一度は目にしたことのある「恐竜レベルに有名な単弓類」も存在します。
ミステリアスであり、なおかつ抜群のかっこよさを誇る盤竜類。その姿を見れば、きっと彼らを好きになると思います。


盤竜類とは?

最古にして、最も有名な単弓類

皆さんは、ディメトロドンをご存じでしょうか。
おそらく、彼らは最も名の知れたペルム紀の生物です。マイナーな生物群である単弓類ですが、ディメトロドンは大衆の前に何度も姿を見せている有名種です。
昭和世代もしくは平成初頭世代の方々。子供の頃、旅館の売店を見に行ったとき、背ビレ付きのトカゲのソフビが売られていたのを覚えていらっしゃいますでしょうか。あれこそが単弓類のディメトロドンです!

最も有名な単弓類ディメトロドン(shuttetstockのフリー素材より)。どこかでご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか? 直系祖先ではありませんが、我々のご先祖様に近い単弓類です。

昭和時代のソフビでは恐竜シリーズの中に(恐竜とは縁もゆかりもないのにも関わらず)ディメトロドンがしれっと混じっていたりしたので、彼らを恐竜だと勘違いする人が続出しました。現代においても、ディメトロドンが哺乳類の祖先に近い動物だとご存じの方は少ないと思います。

ディメトロドンが属する盤竜類。
彼らは、どこまで哺乳類に近かったのでしょうか。

盤竜類の歯の形質にはすでに哺乳類的な特徴が見られ、部位によって形状が異なっていました。ディメトロドンの場合、獲物を仕留めるための大きな牙と、肉を切り裂く歯の2タイプが認められています。植物食性の盤竜類にも歯の役割分化が確認されており、エダフォサウルス科の顎には葉っぱを噛み切る歯と、すり潰すための歯が生えていました。

ディメトロドンの頭骨(群馬県立自然史博物館にて撮影)。盤竜類の歯は、部位によって形状が異なっています。これは、後の哺乳類につながっていく形質です。

現代を生きる私たち人間の歯は、切歯・犬歯・臼歯と分かれています。盤竜類の歯の複雑化は、まさに哺乳類への第一歩だったのです。
その他の盤竜類の解剖学的な特徴については、下記をご覧ください。なるべく専門用語を使わず簡略化しております。

  • 下顎の筋肉を付着させる骨が2個ある(通常の爬虫類では1個だけ)

  • 後頭部にある穴「外側頭窓がいそくとうそう」が3個の骨に囲まれている

  • 後頭部がやや丸いなだからな形になっている(通常の爬虫類は後頭部が垂直に切り立っている)

  • 原始爬虫類より四肢が丈夫になり、筋肉の付着点が複雑になっている

これらが盤竜類の主な特徴です。ただ、四肢が頑丈になったとはいえ、まだまだ直立歩行にはほど遠く、現在のトカゲやワニと同じく肘関節が横に張り出した状態でした。

アメリカ産の小型盤竜類ラオポルスの復元模型(豊橋市自然史博物館にて撮影)。足跡の化石が残っているので、盤竜類の歩き方を知る貴重な資料となっています。トカゲのように肘を突き出し、尻尾を引きずりながら歩いていたようです。

盤竜類の特徴を踏まえたうえで、次は彼らの進化について見ていきましょう。単弓類の発展は、どんどん加速していきます。

ペルム紀前期における陸上生態系の王者

ディメトロドンは強力な肉食動物であり、体格では現生のライオンやトラを上回っていました。ですが、盤竜類は最初から大きくて強かったわけではありません。

現在知られている限り、最古の盤竜類はアルカエオシリス・フロレンシス(Archaeothyris florensis)です。カナダにある石炭紀後期の地層から出土しています。大きくても全長は1 mほどであり、見た目はトカゲのようであったと考えられます(下記リンク参照)。

ただし、アルカエオシリスが全ての盤竜類の祖先形というわけではないようです。盤竜類ーーひいては全ての単弓類の基幹となる生物は、もしかすると石炭紀前期まで遡れる可能性があります。
盤竜類は着実に勢力を拡大し、ペルム紀前期においては陸上生態系の上位種に君臨しました。ですが、盤竜類の王政はペルム紀中期には終息してしまい、多くの種類が絶滅してしまいました。

しかしながら、ただ1つ、スフェナコドン科(ディメトロドンを含むグループ)に近い系統が生き残り、私たち哺乳類への道をつなぐのです。皮肉にも、スフェナコドン科から進化した新型の単弓類に押され、最後の盤竜類であったカセア科も滅んでしまいます。ペルム紀後期以降、盤竜類の化石はまったく発見されていません。

哺乳類への進化のバトンを手渡してくれた盤竜類たち。石炭紀後期からペルム紀前期への生存競争を勝ち上がった彼らには、どんな強力な種類がいたのでしょうか。

ペルム紀の巨大盤竜類たち

ディメトロドン ~ハリウッド映画にも出演? 偉大なる単弓類の代表!~

冒頭で述べました通り、ディメトロドン属(Dimetrodon)はとっても有名な単弓類です。復元絵画やフィギュアが創られる頻度はとても高いうえに、古生物図鑑においても単弓類のページで真っ先に登場します。極めつけは、あのメガヒット映画『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』への出演であり、銀幕で見た瞬間に筆者はものすごく感動しました。

おそらく知名度のある古生物ということで起用されたのでしょう。人気作への単弓類の出演は誠に喜ばしい一方、ディメトロドンを恐竜だと勘違いする人がいそうで少々心配です。再三述べますが、ディメトロドンは恐竜とはほとんど関わりがなく、系統学的には私たち哺乳類に近い生き物なのです。

ディメトロドンは約2億9500万〜2億7200万年前(ペルム紀前期)の地上に生息していたと考えられており、北アメリカやヨーロッパから大小様々な化石が発見されています。当時において本属は極めて強力な肉食動物であり、最大種のディメトロドン・アンゲレンシス(Dimetrodon angelensis)では全長4 mクラスに達していた可能性があります。このサイズは後代の肉食性の単弓類であるイノストランケヴィアやアンテオサウルスにも負けない巨躯であり、ディメトロドンは全ての単弓類の中でも屈指の捕食者と言えます。
また、ディメトロドンは原始爬虫類よりも急速に顎を閉じることができ、肉食動物としての高いポテンシャルを秘めていたと考えられます。地上を活発に動き回り、小動物から大型両生類、他の盤竜類まで多くの生き物を捕食していたことでしょう。

そして、ディメトロドン最大の特徴ーー彼らのアイデンティティとも言うべき、背中に張り出した巨大な帆(背ビレ状の部位)。これは脊椎から上向きに伸びる突起が柱となって形成されたもので、突起の長さが部分的に1 mを超える種類もいます。

ディメトロドンの全身骨格(国立科学博物館にて撮影)。脊椎から伸びる長い突起によって、特徴的な帆が形成されています。

この帆の中には血液が走っており、暖かい太陽の光や涼しい風を帆に受けて、適温に調整された血を体内に循環させていたーーと考えられていましたが、体温調節が容易な小型盤竜類にも帆を持つ種類が確認されていることから、近年では異性へのディスプレイに帆を使用していたという説が強くなっています。

全長4 mもの巨体と摂食に適した歯を備えるディメトロドン。それほど強いのにも関わらず、彼らは絶滅の運命を辿ることになります。
一説によると、その巨大すぎる帆が絶滅要因と言われています。ディメトロドン属には、胴体と比してアンバランスなほどに帆が大型化した種類も存在し、帆の大型化のためにかなりの成長エネルギーを消費したと考えられます。極限まで特殊化しすぎたことが、新たな環境への適応を困難にしたのかもしれません。

単弓類の中では、ディメトロドンは最も研究されている種類の1つです。今後さらなる秘密が明らかとなり、彼らの生態や絶滅についての謎が解けるかもしれません。

ディメトロドンの復元図(shuttetstockのフリー素材より)。全長4 mもある強力な肉食動物。間違いなく当時の生態系の最上位に君臨していたことでしょう。

エダフォサウルス ~ディメトロドンと並ぶ知名度! 史上初の植物食の単弓類?〜

ペルム紀前期をイメージした絵画において、高確率でディメトロドンとセットで描かれる植物食性の盤竜類。それがエダフォサウルス属(Edaphosaurus)です。古生物ファンなら、図鑑などで目にした人も多いでしょう。

ディメトロドン同様、大きな帆を備えるエダフォサウルス(国立科学博物館にて撮影)。当時の盤竜類には、帆を背負った種類がたくさん見られます。

本属の化石は、北アメリカとヨーロッパの約3億〜約2億8000万年前(石炭紀後期〜ペルム紀前期)の地層から発見されています。ディメトロドンと同じく、背中に生やした帆が特徴です。ペルム紀初期において本属は大型化し、最大種エダフォサウルス・ポゴニアス(Edaphosaurus pogonias)では全長3 m以上にも成長しました。
ディメトロドンとは異なり、エダフォサウルスの帆の柱となる突起には、横側に棘が生えていました。この棘の位置は個体によって異なるので、仲間の識別に用いたという説があります。

2023年現在の古生物学の見地では、エダフォサウルスは最古の植物食性の単弓類(さらに言えば有羊膜類で最古の植物食動物)とされています。歯と顎の形状には、植物を食べるために進化した特徴が見られます。
顎に並んだ歯は釘状になっていて、植物の歯を噛み切るのに役立ちました。口の奥には小さな歯がびっしりと生えており、植物を細かくすり潰すことができました。
さらに、エダフォサウルスの顎は前後にスライド可能な構造となっていました。これによって、食べ物を効率よく噛み潰すことが可能となり、胃腸の消化を助けていたと思われます。
植物食性への高度な適応は生存競争で有利に働き、彼らの繁栄を大いに促したと考えられます。よく噛んで咀嚼する能力は後代の種属にも受け継がれ、単弓類のさらなる繁栄につながるのです。

エダフォサウルスにとって最も恐ろしい敵は、やはり肉食盤竜類ディメトロドンです。エダフォサウルスも体重200 kgほどある大型動物ですが、ディメトロドンはさらに大きく、健康な成体でもディメトロドンに狙われる危険性があったかもしれません。
熾烈な生存競争を繰り広げた盤竜類たち。ディメトロドンもエダフォサウルスも当時かなり繁栄した生物だと思われますが、両種とも子孫種を残せずに滅びています。

背中に帆をあしらう種族の時代は、ついに終わりを迎えたのです。

コティロリンクス 〜樽のような胴体に生存戦略の秘密あり〜

帆を背負ったディメトロドンやエダフォサウルスはとてもユニークですが、盤竜類には特殊化の進んだグループが他にも見られます。その1つがカセア科の仲間であり、本分類群の中にはかなり大型になるものがいました。
代表的な種類が北アメリカで発見されたコティロリンクス属(Cotylorhynchus)です。知られている限りではカセア科の盤竜類の最大種であり、約2億8000万〜約2億7000万年前(ペルム紀前期)に生存していました。

コティロリンクスの全身骨格(滝川市美術自然史館にて撮影)。小さな頭と樽のような胴体が特徴です。

コティロリンクスは小さな頭、太い胴体、長い尾を備えており、重量感あふれる体型をしています。全身骨格が復元されているコティロリンクス・ロメリ(Cotylorhynchus romeri)は全長4.5 mに成長したと考えられ、さらなる大型種のコティロリンクス・ホンコッキ(Cotylorhynchus hancocki)においては全長6 mに達した可能性があります。
彼らの主食は植物であり、背の低いシダの葉などを食べていました。その寸胴な体の中で植物体を発酵・消化し、ゆっくりと吸収していたと思われます。

四肢に比べて胴体があまりに大きいので、移動速度は緩慢だったと思われます。一方で、体の大きさは身を守るための武器となり、ディメトロドン級の肉食動物でさえ容易には手出しができなかったでしょう。
コティロリンクスの巨体には、もう1つの利点がありました。太い胴体には熱がこもりやすく、変温動物であっても体温を一定に保ちやすくなります。外気温の変化を受けにくいことは、生存競争における強みであったと思われます。

カセア科の系統はペルム紀中期まで生存していましたが、三畳紀には到達できずに滅んでしまいます。ペルム紀に隆盛を極めた盤竜類も、その繁栄に幕を下ろしたのです。
盤竜類に代わって王者となったのは、さらに哺乳類的な特徴を備える単弓類「獣弓類」たちです。彼らの中には、ディメトロドンにも負けない強大なハンターや、地球上のほとんどの陸地に生息していた成功種も確認されています。どんどん多様化する単弓類は、さらなる発展の道を進んでいくのです。

【前回の記事】

【参考文献】
Olson, E. C. (1968). "The family Caseidae". Fieldiana: Geology. 17: 225–349.
金子隆一(1998)『哺乳類型爬虫類 ヒトの知られざる祖先』朝日新聞社
Joseph L. T., et al.(2010)Positive Allometry and the Prehistory of Sexual Selection. American Naturalist 176 (2): 141–148.
Huttenlocker, A. K., et al.(2011)Comparative osteohistology of hyperelongate neural spines in the Edaphosauridae (Amniota: Synapsida)”. Palaeontology 54: 573–590
土屋健(2017)『カラー図解 古生物たちのふしぎな世界 繁栄と絶滅の古生代3億年史』講談社
土屋健(2018)『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』技術評論社
Reisz, R. R., et al. (2022)Cranial Anatomy of the Caseid Synapsid Cotylorhynchus romeri, a Large Terrestrial Herbivore From the Lower Permian of Oklahoma, U.S.A. rontiers in Earth Science 10.

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