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「享保の暗闘~吉宗と宗春」6

第6景
 
宗春一人にサスが当たる。
 
宗春  「・・・」
 
奥に吉宗が来る。
 
吉宗  「この世は修行の場だ。辛く悲しいことばかり起こる」
宗春  「・・・」
吉宗  「将軍のわしがそう思うのだ。あながち間違ってはいまい」
宗春  「・・・」
吉宗  「我が子を失い、愛する女を失った気分はどうだ」
宗春  「・・・」
吉宗  「辛いだろう。悲しいだろう。それが人生の本質だ」
宗春  「某は自分の人生を悲しんでいるのではありません。万五郎のため、春日井のために悲しんでいるのです。自分のために泣くのは恥ずべきと考えます」
吉宗  「もし今のお前と将軍職を争っていたら、わしは将軍ではなかったかもしれぬ」
宗春  「・・・」
吉宗  「お前の気持ちは分かる。だが政は民を守ることだけでは済まぬ。国の屋台骨である徳川が崩れたら、この国はどうなる」
宗春  「・・・」
吉宗  「民を守るためにも幕府が倒れるわけにはいかぬのだ」
宗春  「この改革には血が通っておりませぬ。神尾も乗邑も、彼らには民の顔が見えておりませぬ」
吉宗  「お前には顔が見えていると申すか」
宗春  「吉宗様にも見えているはずです」
吉宗  「乗邑も神尾もあいつらなりにこの国を、そして幕府の行く末を憂いておる」
宗春  「民のために幕府が倒れるわけには行かないと」
吉宗  「ああ」
宗春  「某はそうは思いません。万が一幕府が倒れても、民は自らこの国を立て直す力を持っております」
吉宗  「幕府などなくとも民は生きていけると」
宗春  「人は苦しむために生まれて来たのではなく、楽しむために生まれて来た。そのためなら何でもできるのが民だと、私は信じます」
吉宗  「お前らしい考え方だ」
 
吉宗、消えていく。
 
宗春  「・・・」
 
尾張藩邸で物思いにふけっていた宗春。
星野出て来る。
 
星野  「殿」
宗春  「どうした」
星野  「闇森(くらがりのもり)にて心中事件でございます」
宗春  「心中?死んだのか」
星野  「いえ、二人とも一命は取りとめました」
宗春  「そうか、それはよかった」
星野  「男は畳職人の喜八という男、女は西小路の小さんという遊女です」
宗春  「小さん?あの小さんか」
星野  「そのようです」
宗春  「小さんが心中か・・・」
星野  「この二人の処遇についてですが」
宗春  「諸藩に倣えば極刑だな」
星野  「はい。幕府も心中に対して厳しい処罰を求めております」
宗春  「少し考えさせてくれ」
星野  「畏まりました」
 
星野、去る。
宗春、場所を移動すると、千早と朝雲が来る。
西小路の遊郭になる

    稽古風景

千早  「お待たせしました」
朝雲  「あ!春さん!」
宗春  「久しぶりだな。どうだい景気は」
朝雲  「まあまあって感じですかね」
宗春  「まあまあ?」
千早  「前みたいじゃなくなってきたかなー」
朝雲  「ちょっと前に比べたら勢いがなくなってきた感じですね」
宗春  「勢いねえ」
千早  「春さん、正直に言っていいかい」
宗春  「もちろん」
千早  「名古屋は楽しいんだけど、遊びが下手な人が多いかもしれないね」
宗春  「そうか?」
朝雲  「春さんは吉原仕込みだからそんなことないんだけどね。なんて言うか、悪い意味で本気になっちまうんだよね」
千早  「人がいいってことなんだけど」
宗春  「まあ遊びは教えてもらうもんじゃないからな」
朝雲  「でも春さんが来てくれて嬉しい」
千早  「今日はパーッと行きましょう」
 
ガラリと入って来る六道屋。
 
六道屋 「悪かったなパーッと行かなくて」
千早  「六さん。帰ったのかと思った」
六道屋 「帰りがけに(春さん)見かけたからよ。戻ってきた。おい。献杯するぞ献杯」
朝雲  「もう、なんだいいきなり献杯って」
六道屋 「いいから」
 
盃を出し
 
六道屋 「春日井に」
宗春  「・・・(飲んで)」
朝雲  「春日井って誰です?」
千早  「春さんのいい仲だったの?」
六道屋 「いいんだよ、そんなことは」
宗春  「春日井は昔のなじみだ」
朝雲  「ふーん」
六道屋 「あっしも好きでしたよ。春日井さん」
宗春  「そうか」
千早  「春日井さんモテモテだったんですね」
宗春  「ところで小さんに何があった?」
千早朝雲「・・・」
六道屋 「ほら、春さんが心配してくれてんだ。知ってること教えてやんなよ。心中未遂したんだろ。あのさえない畳屋と」
千早  「うん。私もまさかって思ったんだけど」
宗春  「六さん、喜八を知ってるのか」
六道屋 「どうしても小さんに会いたいっていうから一度だけ同席したんですよ。野暮ったい男でね」
朝雲  「いつだったか朝っぱらに、喜八さんがここの楼主さんに会いに来たんだ。姐さんを身請けしたいって」
六道屋 「え?本当に?」
千早  「うん」
六道屋 「身の程知らずもそこまで行くとすげえな」
朝雲  「でも金額が折り合わなくて」
六道屋 「そりゃそうなるわ」
千早  「でも姐さんは喜八が本気なんだって思っちゃったんだね」
朝雲  「実際本気だったし」
千早  「逆にそれから姐さんのほうが本気になっちゃって。それでとうとう足抜けしちまって」
六道屋 「忘八たちにさんざん追われてな。あの世で幸せになろうって二人で手首を掻っ切ったって。まったく近松の影響受けすぎだっつーの」
宗春  「それで結局死に切れず、捕らえられたってわけか」
六道屋 「そういうこと」
千早  「六さん詳しい」
六道屋 「当たり前だろ。こう見えても瓦版売ってんだぜ」
朝雲  「そうなんだ」
六道屋 「知らなかったのかよ」
千早朝雲「全然」
宗春  「好きあってたんだな・・・」
朝雲  「好きあってたも何も。二人とも本気の恋」
千早  「だから遊びの下手な男は困るんだけどね」
宗春  「そうか・・・」
 
宗春、去っていく。
ドンドンドン・チョーン
 
名古屋城内・御白州
町衆たちが物珍しさに集まって来る。

    稽古風景

ふくとひでも来ている。
千早と朝雲、六道屋、町衆に紛れて様子を見ている。
 
新八  「どけどけ!どかぬか!」
 
そこに新八と堅物が手鎖の喜八と小さんを連れてくる。
 
喜八  「・・・」
小さん 「・・・」
堅物  「そこに座んな」
ふく  「喜八っちゃん!何してんだい!」
ひで  「・・・」
ふく  「あんたも何か言ってやんなよ!もう!」
ひで  「仕方ないよ。これが恋だもの」
ふく  「恋だか何だか知らないけど死んだら元の木阿弥じゃないか」
町衆  「三日間さらし者のあとで殺されるんだってよ」
町衆  「なんだか不憫だねえ」
町衆  「将軍様が心中は絶対許さないって言ってるんだって」
町衆  「心中じゃないよ。今じゃ相対死(あいたいじに)って言うんだって」
町衆  「相対死?ダサくない?」
朝雲  「姐さん!姐さん!」
六道屋 「・・・」
 
ドンドン!
静まる町衆たち。
そこに現れ、座る竹腰志摩守と星野。
星野は罪状を持っている。
 
竹腰  「日置の畳職人喜八」
喜八  「へい」
竹腰  「飴屋町花村屋の遊女小さん」
小さん 「はい」
竹腰  「両名、相対死を目論み未遂になったというのはまことだな」
喜八  「いえ!俺が無理矢理やったことなんです。小さんは悪くねえんです」
小さん 「違います。私が誘ったらこの人が勝手に」
竹腰  「ええい黙れ黙れ!心中はご法度!そなたらも存じておろうが」
喜八  「だからあっしが無理矢理やったんで」
竹腰  「黙れと申すに!」
喜八  「でも」
星野  「竹腰様」
 
書状を渡す。
 
竹腰  「尾張藩主・徳川宗春公より沙汰が届いておる。神妙に聞くがよい」
喜八  「・・・」
竹腰  「(書状を開き)両名、三日間の晒しと処す・・・ん?但し、着衣のまま、辱めは受けぬよう取り計らう・・・ん?これだけか?」
星野  「それだけでございます」
 
喜八と小さん、ぽかんとしている。
 
竹腰  「どういうことだ。心中は公方様直々に厳しく処罰するよう言い渡されていたはず。これだけとはおかしいではないか」
星野  「あ、申し訳ござらぬ。もう一通あり申した」
竹腰  「お渡しくだされ」
星野  「いえ、これは私から伝えるよう殿に言われております故」
竹腰  「何だと」
星野  「では(書状を開き)喜八、小さん」
喜八小さん「はい」
星野  「両名が心から好き合っておること、調べにより分かり申した。命がけで恋を成就しようとする思い、大切にせよ。刑を終えたのちは屹度、幸せになるがよかろう・・・以上である」
喜八小さん「ははー!」
竹腰  「こんなこと、公方様に知れたら・・・」
喜八  「ありがとうございますありがとうございます」
小さん 「ありがとうございますありがとうございます」
星野  「連れていけ」
新八  「ははっ」
 
ドドーン
町衆、盛り上がる。
新八と堅物、喜八と小さんを連れて行く。
ひで、泣いている。
 
ふく  「バカ!喜八!幸せになんなよ!」
喜八  「ありがとよ。ふく!お前もな!」
千早  「姐さん!良かったね良かったね!」
朝雲  「姐さーん!元気でね!」
 
町衆たち、喜八と小さんたちについていき捌ける。
六道屋、スッとその場に一人残っている。
乗邑と神尾が六道屋の横に来る。
 
江戸城内・庭先
乗邑と神尾、六道屋も控える。
吉宗が来る。

    稽古風景

吉宗  「六道屋、報せ大儀であった」
六道屋 「あっしはニュースが溢れてくれれば潤うんでね」
神尾  「それにしても上様が一番嫌いな心中事件を丸く収めるとは」
乗邑  「心中ではない。相対死だ」
神尾  「相対死!許せませぬな!」
吉宗  「六道屋」
六道屋 「へい」
吉宗  「お前とは5年になるか」
六道屋 「もうそんなになりやすかね」
吉宗  「これからも宗春をよろしく頼むぞ」
六道屋 「へい」
乗邑  「仲良くしろと言っているわけではないぞ」
六道屋 「へい」
神尾  「お前は見張り役だ。分かってるな」
六道屋 「へいへい。ちゃんと報告もありますって」
乗邑  「なんだ?」
六道屋 「いよいよ尾張が幕府に弓を引くんじゃねえかって噂がありましてね」
神尾  「なんだって?」
六道屋 「上様は鷹狩がお好きでしたね」
吉宗  「ああ、鷹狩は良い運動になり、有事の訓練にもなる」
六道屋 「宗春公は鷹狩ではなく、巻狩りってのに興味があるようですぜ」
乗邑  「ま、巻狩り?」
六道屋 「鷹を使わずに人間だけで動物を仕留める狩りのことでさ。戦国の世には何万の兵を動かす訓練ってことで巻狩りをしてたそうです」
乗邑  「なに?兵を動かす訓練?」
神尾  「その巻巻巻狩りを宗春がするというのか」
六道屋 「噂ですが」
乗邑  「上様、これは宗春様が幕府の逆賊にもなりかねない大事にございまするぞ」
吉宗  「なんともあいつらしい」
乗邑  「笑い事ではありませぬぞ」
 
吉宗、去っていく。追う乗邑と神尾。六道屋残っている。
     
尾張・名古屋城内
舞台反対側に宗春と星野、竹腰が来る。

    稽古風景

竹腰  「某は反対でございます」
宗春  「?」
竹腰  「幕府に巻狩りをするなどと言ったらそれこそ尾張が謀反を起こすと思われても仕方ないことでございます」
宗春  「これは幕府を守るためにすることだ」
竹腰  「どういうことでしょうか」
宗春  「倹約令もいよいよ行き過ぎだ。民百姓の苦しみもいよいよピークに達しようとしている」
宗春  「星野」
星野  「近々大規模な百姓一揆が起こるやもしれません」
竹腰  「百姓一揆?」
宗春  「幕府は百姓たちの退路を絶ってしまったからな」
竹腰  「はあ」
星野  「巻狩りはその予防となるのです」
竹腰  「恐れながら、殿はご公儀から信用されておりませぬ」
宗春  「だから何だ」
竹腰  「尾張が2万の兵を動かせば、幕府に弓を引くと思われます」
宗春  「俺が吉宗様に恭順していることは、吉宗様は分かってくださっている」
竹腰  「・・・一国一城の主として、その言葉には確信がありますのか」
宗春  「・・・」
竹腰  「殿、今一度御考え直しください」
宗春  「・・・」
竹腰  「この件だけは譲れませぬ」
星野  「竹腰様、ここはお引き下され」
竹腰  「譲れませぬ!」
宗春  「・・・」
星野  「・・・」
竹腰  「・・・」
 
竹腰、一礼して去っていく。
宗春、縁側に移動し
 
宗春  「あんなにムキになった竹腰は初めてだな」
星野  「お珍しいですね」
宗春  「竹腰は心から尾張のことを考えてくれているのであろう」
星野  「それはそうでしょう。尾張藩の附家老なのですから」
宗春  「俺が藩主をしていることが不安なのだろうよ」
星野  「殿の面白さが分からないのはもったいないですね」
宗春  「面白いだけか」
星野  「生きていることの楽しさを知ることができます」
宗春  「春日井に言われたのだ。全ての民に恋するような政をせよとな」
星野  「恋をするような政」
宗春  「民に恋をし、また幕府にも等しく恋をする。難しいことだ」
星野  「そうですね」
 
そこへ六道屋が移動してくる。
 
六道屋 「春さん」
宗春  「おお、六道屋どうした」
六道屋 「ちっと小耳に挟んだんだが、巻狩りをやるって本当か」
宗春  「流石に耳が早いな」
六道屋 「まさか、幕府に弓を引こうってんじゃないだろうな」
宗春  「そう見えるか」
星野  「殿は、百姓一揆を案じておられるのです」
六道屋 「百姓一揆?」
宗春  「町の者に聞いたのだ。質素倹約のあおりを食ってるのは百姓たちだと」
六道屋 「どういうことですか」
星野  「幕府の下級武士の中には勝手に百姓の年貢を搾取して私腹を肥やしている者も多いそうです」
六道屋 「本当ですかい」
宗春  「ああ、そのせいで餓死者も出ているらしい」
六道屋 「そんなことが」
宗春  「俺は百姓たちを守りたいのだ。一揆など起こさせるわけにはいかぬ」
星野  「一揆を予め防ぐために巻狩りを行い、参加した百姓たちに手当を与えるのです」
宗春  「何より巻狩りをすることで幕府のご威光を示す機会にもなろう」
六道屋 「はあ、なるほど」
宗春  「ただ、幕府の連中は下級武士たちの悪行を認めないだろう」
六道屋 「そうですな。連中は春さんを失脚させようとしてますからね」
宗春  「乗邑は俺を殺そうとしたぐらいだからな」
六道屋 「そのこと公方様にはお伝えしてないのか」
宗春  「事実を伝えたからといって何が変わるわけではない」
六道屋 「春日井様のことは・・・乗邑が憎くはないのか」
宗春  「六さん、俺は春日井のために、乗邑を赦す方法を考えている」
六道屋 「赦す?」
宗春  「それが春日井の望むことのように思えるのだ」
六道屋 「・・・」
星野  「・・・」
宗春  「六さん、一杯付き合って貰えぬか」
六道屋 「へい」
 
星野、酒を用意する。宗春、六道屋。
三人で飲んでいる。
 
江戸城内。
深徳院に続いて乗邑が来る。

    稽古風景

乗邑  「深徳院様」
深徳院 「なんじゃ」
乗邑  「おめでとうございます」
深徳院 「?」
乗邑  「上様のお世継ぎが内々に家重様に決まったとか」
深徳院 「お前は宗武贔屓であろう。お前にとってはめでたい話ではなかろう」
乗邑  「とんでもございまぬ。私は前々より家重様を推挙しておりました」
深徳院 「調子のいい奴じゃな」
乗邑  「ただ、ひとつ気になることがございまして」
深徳院 「なんじゃ」
乗邑  「尾張藩主、徳川宗春公のことでございます」
深徳院 「宗春がどうしたのじゃ」
 
乗邑、深徳院に耳打ちする。
 
深徳院 「尾張が、幕府を倒すじゃと」
乗邑  「・・・」
深徳院 「ならぬ!そんなことはあってはならぬ!」
 
深徳院、去っていく。
 
乗邑  「・・・」
 
奥から吉宗が出てくる。
 
乗邑  「上様、尾張は支度を進めております」
吉宗  「・・・」
乗邑  「すでに2万の兵、1万の甲冑、具足、鉄砲の準備を整え終えたとの由」
吉宗  「巻狩りの準備であろう」
乗邑  「しかしこれは我ら幕府への脅しとも取れまする。尾張は幕府と戦を構える覚悟があると」
吉宗  「乗邑」
乗邑  「はい」
吉宗  「わしは将軍の器か」
乗邑  「何を仰せですか。上様はご立派な征夷大将軍であらせられます」
乗邑  「・・・」
吉宗  「わしは宗春のことを尾張を生まれ変わらせた良き藩主だと思っておる。もし将軍であれば、わしを越える力を持っているかも知れぬ」
乗邑  「言い過ぎでございます」
吉宗  「わしと比べたらのことだ。だが今は宗春よりも将軍として相応しいものがいる」
乗邑  「どなたでございますか」
吉宗  「家重に決まってるではないか」
乗邑  「ははっ」
吉宗  「確かに宗武は文武に長けておるが、それだけのこと。お前は家重をみくびっておるようだな」
乗邑  「とんでもございません」
吉宗  「家重はあまりよう喋ることができぬ故、誰よりも苦しい思いをしてきた。辛い思いもしてきたはずだ」
乗邑  「はあ」
吉宗  「だからこそ家重は、人の痛みを知っておる。痛みを知っているからこそ、人に優しくなれる。これこそが将軍として一番大切なことだとわしは思う」
乗邑  「はあ」
吉宗  「わしはこの国のため、何としても家重を9代将軍にする」
乗邑  「ははっ!」
吉宗  「家重を将軍にするためにできることはすべてせねばなるまい」
乗邑  「では?」
吉宗  「出る杭は打たねばならぬ」
 
そこに助六が走って来る。
 
助六  「上様に申し上げます」
吉宗  「なんだ」
助六  「尾張より早馬が参りました」
吉宗  「それでなんと」
助六  「宗春公直々に巻狩りを中止することに決めたとのことでございます」
乗邑  「なに?中止?」
助六  「では」
 
助六、去っていく。
 
吉宗  「乗邑、内々に尾張の竹腰志摩守に会ってまいれ」
乗邑  「ははっ」
吉宗  「宗春、わしはお前を裏切らねばならぬ」
 
暗転。
 


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