見出し画像

「稚拙で猥雑な戦争劇場」1

雀組ホームページ
トレイラー

<配役>
神田川百合子 (神田川総理の娘)
神田川為五郎 (総理大臣)
織部オサム (カーショップヤマダ営業主任)
明神健一郎 持永雄恵(織部の後輩)
峰不二子 (神田川総理の秘書)
ピーター (アメリカ兵)
フセイン閣下(中東ルバム国の王子)
フーセン(フセインの母)
エロメイド(フセインの部下)
ベルマーレ(フセインの部下)
御麿(神様)
孤児ピー/孤児チク/孤児パー

場面1/神田川総理邸宅

    集団的自衛権を閣議決定した神田川総理は、その後、『国際協力隊  
    の結成』を防衛庁に要請し早い段階で決議された。これにより、日
    本は悲願である国際連合常任理事国入りの課題である軍事面での交
    渉も可能になった。神田川総理が舞台中央に立ち、国際連合会議場 
    にいるが如く演説している。
    
神田川 「わが国は2014年7月1日、集団的自衛権を閣議決定し、防衛
     省内に国際協力隊を結成するまでに至りました。これにより国際
     紛争などの際にも、積極的に軍事的活動支援に参加できるように
     なり、国際連合への協力も円滑に行えるようになったわけであり
     ます。太平洋戦争が終結して70年、ようやく日本は国際的にも
     独り立ちできるようになったのであります。このことに関してま
     して特に米国におきましてはこの70年、日本と共に歩んでくれ
     たこと、そして多大な恩恵をいただいたことに感謝しておりま
     す」

    拍手する神田川百合子、神田川の妻、神田川の執事・峰不二子。
    夕食後のティータイム。優雅な四重奏が流れている。

百合子 「おめでとう、パパ」
妻   「新聞でもパパの演説が素晴らしかったって。神田川総理の国際路
     線は今後の日本の行く末を明るくするだろうって」
神田川 「まあ、アメリカとさえ上手くやっていければ、日本はしばらくは
     安泰だろうからな。国連国連って言っても実際はアメリカ次第
     だ。国民はよく分かってる。国民の望む国作りをして、国民の望
     む未来が見えればどんなに識者が抗ったって問題はない」
不二子 「神田川政権は戦後ナンバーワンの支持率ですからね」
百合子 「パパのおかげで私の鼻も高いのよ。パパありがとう」
妻   「こんなに娘に愛されてるパパもそういないわね。パパは百合子が
     いるからこうやって一生懸命仕事をすることができるのよ。百合
     子のおかげ」
百合子 「でもパパ、アメリカってそんなに偉いの?」
神田川 「アメリカが偉いかって?」
妻   「百合子はどう思う?」
百合子 「アメリカは乱暴な国のイメージがあるわ」
妻   「百合子はいいところに気がついてるわね」
神田川 「その通り。アメリカは戦争が大好きな国なんだよ」
百合子 「戦争が大好き?みんな世界平和を願っているのに?」
神田川 「世界平和を願ってるのは世の中を動かせない人たちだけだよ。そ
     もそもアメリカがどうしてあんなに大きな国になったのか。それ
     はアメリカが戦争に参加し続けているからだよ。米英戦争でイン 
     ディアンを殺戮し、米墨戦争でメキシコの領土をぶん取った古い
     時代から、太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ソビエトとの
     冷戦。イランイラク戦争。そして今も終らない国際テロとの戦
     い。アメリカはずっと戦争をし続けて、武器を売りまくってその
     恩恵を受けている。それがアメリカだ。今の日本はアメリカの右
     腕でなければならない。何故だと思う?」
百合子 「何故?分かりません」
神田川 「百合子にはまだ早かったかな?日本がアメリカに恭順することで
     我が国が先進国と渡り合えるからだよ。そのためには」
百合子 「集団的自衛権の閣議決定・・・国際協力隊の結成が必要、という
     こと」
神田川 「そう。マイケルジャクソンが平和を唱えても、マーチンルーサー
     キングが平等を唱えてもこれだけは変わらない。アメリカは戦争
     をし続け、武器を売り続ける。百合子、でもそんなことは日本人
     はみんな理解しているんだ。そしてその方が日本が豊かでいられ
     るってことも。わかるね」
百合子 「わかります。でも・・・」
不二子 「日本が豊かでいられるために、総理は努力をしているのです」
百合子 「不二子さん」
妻   「日本が平和でいられるためにはアメリカにはどんどん戦争をして
     いただくのがよいということよ。そしてアメリカの援護をするた
     めに必要なのが国際協力隊なのよ。ねえ不二子さん」
不二子 「奥様、さようでございます」
神田川 「戦争大好きな国アメリカは、太平洋戦争以降、日本を属国だと思
     っている。そして我々日本人もそれでよいと思っている者が大半
     を占めている。つまりこの日本はアメリカが戦争をしてくれてい
     ることで平和を成り立たせているわけだ。だから日本人が世界平
     和を発信するなんておこがましいことなんだよ。日本は黙って原
     子力発電所を動かし続け、米軍の基地を作らせ続け、ハリウッド
     映画を与えられ続ければいいんだ。それで満足できる」
百合子 「私、そんなのイヤです」
神田川 「イヤか・・・百合子、お前ならどうする?」
百合子 「私は世界から戦争をなくしたいです」
神田川 「アメリカを敵に回しても?アメリカと日本が戦争になったとして
     も?」
百合子 「アメリカにもいい人はいます。戦争をなくしたいと思っている人
     も」
神田川 「百合子、お前はまだ世界が見えていない。戦争があるから平和が
     ある。これは月と太陽、光と影、表裏一体なんだ。戦争がなくな
     るなんて日は来ない。この世界で日本が平和の光の中にい続ける
     ためにパパは頑張っているんだ」
百合子 「パパが頑張ってるのは知っています、でも・・・」
妻   「百合子はいい子ね」
百合子 「でも本当に戦争がない世界は作れないの?」
不二子 「百合子さん、世界から戦争がなくならない理由はアメリカのわが
     ままだけじゃないんです。アメリカに戦いを挑んでいる国もある
     のです」
百合子 「え?」
不二子 「今、世界の火薬庫と言えば?」
百合子 「世界の火薬庫?」
神田川 「中東地域だよ」
百合子 「中東地域・・・9・11、タリバン、シリア、そしてルバム国」
妻   「ルバムの戦争はまだまだ終わらないようね。終わらないほうが日
     本にとってはいいことですけどね。ほほほほほほー」

    暗転にサス。

百合子 「私の母はこの後、急性アルコール中毒で亡くなりました。そんな
     悲しい出来事もありながら、時間はどんどん流れていきました。
     私はフランスに留学することになり、父とも離れ離れ。私はひと
     り二十歳の誕生日を迎えました」

    『稚拙で猥雑な戦争劇場』  War/Franky goes to Hollywood


2へ続く

ここから先は

0字
クライマックスまでは全編無料で読めます。

アラブ諸国の人が見るニュースと我々が見るニュースは全く違う。報道はいつも思想、政治、仮想敵国によって操作される。米国がジャイアンよろしく某…

この記事が参加している募集

私の作品紹介

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは劇団活動費などに使わせていただきます!