あいみょん弾き語りLIVE-サーチライト-〈ライブレポート〉
11月5日に行われた「AIMYON 弾き語り LIVE 2022 -サーチライト- in 阪神甲子園球場」に参戦した。これまでも、甲子園球場でライブを開催したアーティストは何組かいるが、ワンマンでの弾き語りライブを開くのは、あいみょんが史上初めて。そして甲子園球場は、あいみょんの実家から歩いて行けるほど目と鼻の先にあり、正真正銘の地元凱旋ライブとなった。
ライブ前のできごと
ライブの前日である11月4日、2つのビッグニュースが飛び込んできた。乃木坂46の齋藤飛鳥さんが卒業を発表。King&Princeも、3人のメンバーが脱退することを発表した。奇しくもその日が「いい推しの日」だったというのはちょっと皮肉的だけれど、「推しは推せる時に推せ」という言葉を再び噛み締め、あいみょんの姿を全力で目に焼きつけようと思うきっかけになった。
あいみょんのライブはと言うと、グッズ販売が盛り上がりを見せた。事前販売の会場である大阪・堂島リバーフォーラム付近には長蛇の列ができ、川の向こう岸まで続いていた。自分もライブ当日、2時間半並んだ末にようやくグッズを買うことができた。待機列を誘導したり、次から次にやってくる客をレジで捌き続けていたスタッフの方々に、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたい。
ライブ会場と化した甲子園
甲子園球場には、開演の2時間前くらいに到着したけれど、すでに多くの観客でごった返していた。球場周辺には、あいみょんの巨大バルーン人形や、野球選手に扮したたあいみょんののぼり、関係各所から寄せられたお祝いの花などが並ぶ。場内に入ると、2塁ベースのあたりにステージが、さらにそれを取り囲むようにしてアリーナ席が設置されている。野球の聖地・阪神甲子園球場が、ライブ会場へと様変わりしていた。
入場の際に配られたデイリースポーツの特別号外を隅々まで読みながら、ライブの開演を待つ。どれくらい時間が経っただろうか、としきりに時計を確認するも、たいてい5分ぐらいしか経っていない。時間の経過が遅く感じるのは、ライブが楽しみでしょうがないことの表れだろう。とはいえ、そうこうしているうちに観客が続々と集まり、いよいよ開演時間を迎えた。始まりの合図は、高校野球のプレイボールでおなじみ、あのサイレン音だった。
計算された序盤のセトリ
サイレン音の直後、電光掲示板に映し出されたのは、西宮出身のスター・笑福亭鶴瓶さんの姿だった。「A-studio」を思わせるサプライズ前口上で、ライブは幕を開ける。1塁側ベンチの脇から登場したあいみょんは、球場を埋め尽くした観客からの拍手を浴びながら、ステージへと上がっていく。1曲目は「憧れてきたんだ」。鶴瓶さんの前口上にあった「わずか9年前に梅田で路上ライブをやってたあいみょんが、この〈憧れ〉の甲子園でライブをするのはすごい」という言葉を受けての選曲だろう。
2曲目は「ハルノヒ」。〈ほら/もうこんなにも夕焼け〉という歌詞が球場に響き渡る頃は、ちょうど日没直後の時間帯で、歌詞通りの夕焼け空が広がっていた。4曲目の「愛を伝えたいだとか」が歌われる頃には完全に日が沈み、あたりは暗くなっていた。これも〈今日は日が落ちる頃に会えるの?〉という歌詞と符合する。ライブ序盤のセトリは、球場の空の様子とリンクするよう、緻密に組み立てられていた。
こだわり抜かれた演出
9曲目「裸の心」の演出は幻想的だった。円形ステージの縁から上空に向かって光が放たれ、カーテンのようにあいみょんを包み込む。光は空高くどこまでも続いていて、このままあいみょんが天に召されてしまうんじゃないかと思うほどだった。この曲で第1部が終了。あいみょんは「お色直しをしてくる」と告げ、ステージを降りていった。
休憩中には、電光掲示板にビデオが流された。西宮神社の風物詩である「福男選び」にならった「福女チャレンジ」では、元陸上部のあいみょんが全力の走りを見せた。「女優チャレンジ」では、あいみょんが演技に挑戦。西宮を舞台とした青春恋愛ドラマに、制服姿で登場した。寒くなりつつあった球場も盛り上がり、30分の休憩があっという間だった。待ち時間さえも楽しませてくれるエンターテイナーは、衣装や髪型だけでなくネイルも変えて、第2部のステージに出てきた。
涙の「tower of the sun」
第2部の3曲目は「tower of the sun」。泣きながらこの曲を歌い上げたあいみょんに対して、会場の拍手はしばらく鳴り止まなかった。甲子園球場を満員にするほどのアーティストになったあいみょんだが、その裏には、ファンにも計り知れない多くの葛藤や苦悩があったはずだ。そのことに思いを馳せると、自分も涙が止まらなくなった。歌唱後、あいみょんが口にした「やりたいことをやらせてくれた父ちゃんと母ちゃんに感謝したい」という言葉も、自分に言い聞かせながら、そっくりそのまま胸にしまった。
弾き語りならではのリアル感
第1部の7曲目「満月の夜なら」では歌詞を忘れてしまって、歌唱中に思わず「間違えた!さいあく~」と嘆いたり、第2部の7曲目「分かってくれよ」では、ギターの演奏でミスをしてしまい、サビからやり直すという一幕もあった。CD音源ではあり得ない、弾き語りのワンマンライブだからこそ起きるこのようなハプニングは、むしろ嬉しい。自分は今、この先二度と繰り返されることのない、一度きりの瞬間に立ち会っているんだということを、実感できるからだ。
あいみょんが実家で作った最後の曲だという、第2部の5曲目「生きていたんだよな」も圧巻だった。特に〈二日前このへんで飛び降り自殺した人のニュースが流れてきた〉から始まる冒頭部分は鳥肌もの。ギターでゆっくりとリズムをとりながら発される、聴衆に訴えかけるようなあいみょんの声には、いつにも増して説得力があった。これも、バンドメンバーの演奏で歌う時とはまた違う、弾き語りライブならではの良さだ。
45000人のサーチライト
ライブは終盤を迎え、あいみょんが「残り3曲」と宣言すると、会場からは名残惜しさを表明するような声が漏れる。第2部の8曲目は、このライブのためにつくられた「サーチライト」。あいみょんは、弾き語りライブの度に新曲を披露していて、今回もその慣例を踏襲する形となった。実は、公式グッズであるペンライトの取扱説明書に、強調して載せられていたフレーズがあったのだが、それはこの曲「サーチライト」の歌詞の一部だった。
〈サーチライト/どこまでも/どこまでも照らしていて/この瞬間の特別を/ 演出してお願い〉という歌詞に合わせて、甲子園球場に集まった45000人のペンライトやスマホのライトが一斉に揺れる。あの光景は、一生忘れないと思う。また〈真夏みたいな春の今日に/完全試合のヒーロー誕生〉という歌詞もあった。これはあいみょんファンでもある千葉ロッテ・佐々木朗希選手のことを指していると思われ、あいみょんの生活の中から生まれてきた曲だというのも伝わってきた。
フィナーレとライブのその後
「この曲があるから私はシンガーソングライターになれるのかな、と思えた曲」と前置きしつつ、あいみょんがライブのトリに歌ったのはやはり「君はロックを聴かない」。夕方5時に開演したライブだったが、この時点で夜の8時を迎えようとしていた。空気も冷え込む中、1人でギターを弾き続け、3時間近く歌い抜いたあいみょんに対して、大きな拍手が送られた。最後はカートに乗り、丸められたTシャツをバズーカで飛ばして観客にプレゼントしながら、球場を1周した。
ライブ後の退場には、案の定時間がかかった。臨時列車も運行していたけれど、球場の最寄りである甲子園駅は、人で溢れかえっていた。なんとか甲子園を抜け出し、大阪・梅田に降り立つと、路上ライブをしている女性の姿が目に留まった。梅田の路上は、シンガーソングライター・あいみょんの原点とも言える場所。立ち止まらずにはいられなかった。この場所からまた、あいみょんに続く新たなスターが誕生するかもしれない。そんな期待も抱えつつ、ホテルへの帰路についた。
自分の境遇と重ね合わせる
あいみょんが上京したのは20歳の頃。それから7年が経ち、あっという間にスターになって、今回地元に凱旋した。ライブ中には「上京する時はめちゃくちゃ不安やったけど、東京で作った曲もあるし、今では東京も大好きになった」と語っていた。自分も20歳の時に上京して、今は東京の大学で学んでいるけれど、いつかは地元に戻って働きたいと思っている。甲子園球場の中心で輝くあいみょんの姿は、そんな自分に勇気をくれた。もちろん、あいみょんのほどのスターにはなれないけれど、まだまだ東京でたくさんのことを経験して、もっと成長して、あいみょんのように胸を張って地元に帰りたい。苦しい時は、このライブの記憶が自分を支えてくれるはずだ。本当にありがとう、あいみょん!
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