清澄白河で見つけた、街の「らしさ」とは?【ラーニング・ジャーニーレポート】
清澄白河を舞台に開催した「Learning Journey 冬休み特別編」
ガイド役を、清澄白河と新潟県糸魚川市の二拠点生活を送る株式会社イールーの伊藤 薫さんが務め、参加してくれた高校生・大学生・社会人合わせて11人と一緒に冬の清澄白河を散策しました。
今回の旅を一言で表すと、「人に会って街のアイデンティティを知る」
オシャレな街としていろんな雑誌に取り上げられて、新しく住む人も多い清澄白河ですが、東京の下町としての歴史の上に今があります。
新しく街にやってきた人、それを迎え入れた人、それぞれのキーパーソンからお話を伺いました。
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ちょっとカッコイイ レンタサイクルで街巡り
旅の集合場所は、東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線「清澄白河」駅からほど近いシェアオフィス「NAGAYA 清澄白河」。
まずは参加者同士の自己紹介と伊藤さんからのイントロダクションからスタートです。
続いて、徒歩10分ほどの「トーキョーバイク」に移動。自転車をレンタルします。
レンタサイクルと聞いて思い浮かべていたのとは全く違う、デザイン性の高いおしゃれなフレームの自転車です。
見た目の印象ってすごく大切で、ついつい参加者も気分が上がります。街にデザインセンスの良いものがあることは大事だと、あらためて実感します。
そうして自転車に乗って最初に訪れたのが、隅田川と小名木川(運河)が交わる遊歩道沿いにある「芭蕉庭園」。「古池や〜」でお馴染み「奥の細道」の作者・松尾芭蕉の家があった場所です。
ここでは、伊藤さんがフリップを使って清澄白河を含む深川地域の歴史を解説してくれました。
当時の世界最大100万人を超える大都市だった江戸。その舟運基地として栄えたのがここ深川エリアでした。
1653年の大火からの復興で区画整備が進み、現在も残る碁盤目状の町が形成されます。そして明治維新を経て、舟運の街は機械工業の街へ。太平洋戦争後には印刷会社などが立ち並びました。
高度経済成長が終わり、公害対策が重視された時代。その頃になると工場の多くは移転。静かな街だった深川に、近年、東京駅からのアクセスの良さと倉庫物件に惹かれてアーティストらが移住。「クリエイティブな清澄白河」として注目されるようになりました。
今私たちが目にする景色は、歴史的・地理的な背景があって、そこにある。街を見る視点を得ると、街を歩くのが楽しくなります。
清澄白河のクリエイターを訪ねました
今回の旅の目的の一つが、街のクリエイターに会うこと。
まず訪ねたのは、芭蕉庵の近くで製本業「キョーダイ社」を営む小森豊章さんです。清澄白河の印刷・製本業界は小さな町工場の分業で営まれていて、「キョーダイ社」は、製品説明書など印刷された「紙を折る」のが本業です。
15年ほど前に家業を引き継いだ小森さん。現在は「使う人に直接届けられる製品をつくりたい」と御朱印帳を自社で手掛けています。試行錯誤を重ねて作った商品は評判が評判を呼び、現在では全国のお寺から注文があるそう。
小森さんのマイ御朱印帳には、仲の良いお寺の関係者が書いたアーティスティックな御朱印が並びます。御朱印の世界も進化しているようです。
これまである仕事を淡々と続けるのではなく、創意工夫を重ねて、時代に合わせた新製品を生み出す。仕事をアップデートすることは、「仕事」を「自分の仕事」に変えていくためにも、必要なことだと感じました。
続いて訪れたのは、清澄白河の大通り沿いにある「BAR NICO」。夜はお酒を楽しむお店ですが、昼はこだわりのスパイスカレーのお店として営業しています。こちらでお昼をいただき、オーナーの小林康太さんにお話しを伺いました。
小林さんは飲食業を営む傍ら、コロナ禍をきっかけに「深川蒸留所」というクラフトジンメーカーを立ち上げます。クラフトジンはさまざまなボタニカルで香りを作るお酒です。小林さんは深川の材木問屋から青森産のヒバを調達して蒸留。愛好家の間で知られる岐阜県郡上八幡の「辰巳蒸留所」を師匠に、店づくりをされています。
どのように深川蒸留所が誕生したのかは、後のお話にも出てきますが、いずれにしても新しいモノ作りがどんどん生まれていることはこのエリアの魅力の一つだと感じます。
次に訪ねたのは、デザインユニット「gift_」のデザインスタジオ兼ショップ。gift_は、空間デザイナーの後藤寿和さんと、クリエイティブディレクターの池田史子さんによるユニットで、お店や家など様々な空間のデザインをしています。
2005年にインテリアデザインの会社 IDEE(二人はこの時の同僚)を卒業して開業。東京の西側・恵比寿に事務所を構えていましたが、2015年に清澄白河に移ってきました。
2012年には「越後妻有 大地の芸術祭」のご縁で新潟県十日町市松代に「山ノ家カフェ&ドミトリー」をオープン。現在は清澄白河と松代で「ダブルローカル」のライフスタイルを送っています。
清澄白河の魅力は、「いろいろな層の人がいること」だとお二人は話します。寺院が多くお墓参りの人もいる、東京都現代美術館を訪ねてきた人もいる、カフェ巡りの人もいる。それは新潟の「山ノ家」も似ていて、農家の人も海外からやってきたアーティストもいる。そんな混じり合う場に魅力を感じているそうです。
「ローカル」という言葉の定義について、お二人は次のように語っていました。
「ローカル」という言葉、私だったらどう定義するのか。参加者それぞれに考える機会になったと思います。
夕方に東京都現代美術館をちょっとだけ見学して、この日のプログラムは終了!
夜は懇親会で交流を深めました。
清澄白河のアイデンティティの基盤を訪ねる
2日目は、東京メトロ東西線「門前仲町」駅から歩いてすぐ、深川不動尊からのスタート。
大本山成田山新勝寺の東京別院で、参道はいろいろなお店が軒を連ねる観光地。1月7日は、まだ初詣のシーズンということで露天も多く出店していました。ここでは、一般公開されている新春大護摩供を見学しました。
伊藤さんは海外のゲストを案内することも多く、ジャパニーズカルチャーを実感する上では欠かせないスポットとのこと。
続いて、お隣にある富岡八幡宮へ。毎年8月に江戸三大祭「深川八幡祭り」が開催される神社で、境内には金ピカの日本最大のお神輿が展示されています。
ここでは、富岡八幡宮をはじめ、深川エリアを会場に毎年開催されている芸術祭「アートパラ深川」の運営に携わる広瀬新朗さんも合流して、障害者アートとまちづくりについて紹介いただきました。
「アートパラ深川」は、アートを街に解放する芸術祭。神社仏閣巡りとアート鑑賞が合体した御利益のある街歩き、さまざまなスタイルのアート展示や誰でも参加できるイベントなど、街なかを舞台に様々な出会いが生まれてきました。
このイベントが始まったのはコロナ禍真っ只中の2020年6月。当時は「不要不急」とひと括りにされた文化やアートなどの取り組みですが、広瀬さんの話からは「自分達にとってこの取り組みが大切だ」という強い思い、そしてアートや祭りが人を動かす力の大きさを改めて感じました。
さて、前日に引き続きこの日も街で活動するキーパーソンを訪ねます。
まずは、「リフォーム不動産 深川studio」の柴田光治さん。
大手不動産会社の役員を務めた後、独立して清澄白河で不動産仲介業をはじめた柴田さん。リノベーションができる中古マンションの紹介をしています。
不動産業は街の魅力を伝えることも仕事。そう考える柴田さんは地域情報を発信するWebメディア「深川くらし」の運営もされています。柴田さんが深川で起業したきっかけも、前職時代に赴任した門前仲町で富岡八幡宮のお祭りを見て血が騒いだことだとか。
次に、清澄白河のおしゃれスポットとして、たびたび雑誌でも取り上げられている「リカシツ」を尋ね、運営会社・関谷理化株式会社の関谷幸樹さんにお話を伺いました。
関谷理化は昭和8年創業、フラスコやビーカーなど実験器具としてのガラス製品を扱う商社です。2015年にアンテナショップとして開業した「リカシツ」には、実験器具をインテリアとして提案するディスプレイが並んでいます。
関谷さんの問題意識は、ガラス製品を作る職人さんの高齢化(関谷理化が扱う製品の多くは手作業で作られているそうです)。そこで、職人になりたい若者を増やそうと、コーヒー用品を開発したり、アロマ蒸留器を開発したり、新しい用途を広げる試みに挑戦しています。
実は先ほど紹介した「深川蒸留所」もBAR NICO小林さんと関谷さんが協力して立ち上げたお店。自社で蒸留器を作ることで職人の仕事を増やすことが狙いの一つでした。
「深川蒸留所」のアイディアの発端は、お酒の席で生まれたそう。「呑んだ席での約束は守る」と関谷さん。距離の近い人間関係がある街だからこそ、コラボレーションは生まれるのでしょう。
最後の訪問先は、伝統工芸「江戸切子」の企画・製作・販売を手掛けるGLASS-LAB株式会社の椎名隆行さんです。
椎名さんは深川で1950年に創業したガラス加工工場「椎名硝子」に生まれました。家業は弟さんが継ぎ、長らく不動産会社で会社員として働いていました。
そんな会社勤めに区切りをつけたのが2014年。一念発起して江戸切子の企画会社を起業。砂を使った彫刻方法「サンドブラスト」を用いて新製品を企画し、実家の工場で製造し、販売しています。
液体を注ぐと模様が動いて見えるグラスは一見の価値ありです。
かつてはB to Bとして業者に向けた取引のみだったという「椎名硝子」の事業モデル。商品の可能性を広げるためにも、生活者に向けた直接販売への挑戦を重ねています。
そんな椎名さんは、清澄白河にクリエイティブな人のネットワークが生まれる原点を作った方でもあります。
きっかけは、富岡八幡宮の「水掛け祭」。朝から夕方まで神輿を担ぐお祭りですが、1基につき担ぎ手は300~500人必要なのだとか。町会の中だけでは集まらないからこそ、新住民に声をかけて町に受け入れる協力的な風土ができているそうです。
人集めという課題に直面した椎名さんが2016年に始めたのが、新住民と町会の方々とをつなぐトークイベント「コウトーク」。毎回4人のゲストを呼んで話をするトークイベントで、そのうちの1人は祭りの関係者、3人が街で生業を営む自営業者という座組で展開しています。
コウトークは街の新旧のプレーヤーの交流をうみ、その流れの中に、今回のガイドである伊藤さんやBAR NICO、リカシツも混じり合っていきました。
新しいことが起こり続ける今の清澄白河は、こうしたネットワークから生まれているんですね。
「街のアイデンティティ」という視点
旅といえば欠かせないのが地元グルメですが、今回の旅でも「深川丼」を締めにしっかり味わいました。
いろんな出会いで心と、最後にはお腹を満たして、参加者全員で旅を振り返ります。
改めて、清澄白河のアイデンティティとはなんだろう?
ガイドの伊藤さんはこう語りました。
さとのば大学は、地域を旅する大学です。
場所が変わればまた別のアイデンティティがあり、そのアイデンティティが、街の人の気質をつくり、そして街の姿を形づくります。
地域のアイデンティティを比較すると、自分が好きと感じる地域の特長も見えてくるかもしれません。そんな重要な「視点」を得た学びの旅でした。
地域留学体験プログラムLearning Journey【春休み&GW】参加者募集中
さとのば大学の地域留学体験プログラム「Learning Journey」春休み&GW開催が決定しました!
今回は全国7地域にて開催。個性豊かな地域コーディネーターがローカルな魅力を体験する旅へご案内します。たくさんのご参加をお待ちしています!
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