10.対アメリカ
7月30日、この日の朝10時から始まったこの試合は、(ネット中継オンリーだったので)見ていた人が少ないと思うが一番のヤマだったと思う。
日本は世界ランクは8位、本来なら世界ランク4位に入るか、アジア大陸での出場枠(韓国がゲット)を獲得することがオリンピックの出場条件となるが、今回日本は開催国枠での出場となった。
対するアメリカの順位は9位、アメリカ大陸の出場枠を獲得しての出場となった。
世界ランキング的に見ると大差が無いが、僕の目から見て日本の方が圧倒的な実力を持っており、
この試合は圧勝すると思っていた。
また、出ていたみんなも「負けはしない!」と思っていただろう。
だが、その初戦、日本にとっては想定していない状況が起こった。
計9対戦の1対戦目から、日本はアメリカにリードを許し、(加納)2-4、(山田)5-6、(見延)9-12、(山田)11-14、(加納)13-19、(見延)16-23…
日本のペースを作れないまま、7対戦目が終わった段階で22対28と日本が6点差で負けていたのだ。
おそらく、「このまだと…やばい」とみんな感じていたと思う。
エペは同時得点もあるので点差が6点差まで離れると絶対絶命と言ってもいい状況。
そこでコーチが動く。
団体戦は9対戦で終了するが
何と8対戦目で見延さんに代えて宇山を出したのだ。
オリンピックのルールには、控え選手と交代した選手は次の試合から出場出来ない、また控え選手は試合に出ないとオリンピック選手として認められない(つまり、チームが優勝してもメダルを貰えない)とある。
疑問に思った。
アメリカ戦に勝った後には、フランスとの対戦が決まっている。
フランスとの相性がいい見延さんを残すのは、今後の試合を考えると必然だというエペジーーン内の認識があった。
僕は「もしかして記念試合なのか?」と一瞬思ってしまった。
だが、後から聞くと、試合前日のミーティングでこんな会話がされていた。
「誰が交代するのか?」
戦況に応じて、選手を交代させる際の話をコーチ含め話していたのだ。
その選手は戻れなくなる。
おそらく腐ってしまう。
「俺を代えてくれ」
見延さんが自ら志願した。
4人とも実力があり、誰が出てもという自信はあった。
それに、後ろに下がっても俺ならエペジーーンを支えていけるという見延さんの自信。
点差は開いていたが、不思議と負ける気がしなかったと言う。
それは僕も宇山の動きを見てすぐ感じた。
宇山の動きは完璧で相手を翻弄していた。
ベンチから響き渡るかけ声。
僕も画面越しの宇山に「行けるぞ!」と声援を送っていた。
そして宇山はその対戦を7-3で制し、点差を2点差まで縮めて最後の加納くんに29-31でバトンタッチ。
加納くんがきっちり追いつき、見事最後で逆転勝利。
記念試合とか一瞬でも思ってごめんね笑
絶望的と思える状況だったけど、
前日のミーティング、宇山という起爆剤、見延さんの支えにより、
エペジーーンが息を吹き返したように思えた。
そしてそこから、エペジーーンの快進撃が始まる。