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渋谷の映像ベンチャー企業が縦型ショートドラマ制作に本気になった話:第3話「ボソボソパズル」

※この話は実話に基づいたエンターテインメント&ノンフィクション&ドキュメンタリー&青春リアリティショー&新規事業の裏側です

第3話「ボソボソパズル」

「1万円で縦型ショートドラマを作れ?冗談じゃない」
誰かがボソっとつぶやいた。

ボソどころじゃない表情

会議室。窓から差し込む夕日が、6人の顔を赤く染める。
シングメディアの未来を託すはずだった縦型ショートドラマレーベル「T36」の企画会議は、
早くも暗礁に乗り上げていた。

「1万円でショートドラマ? まるでジグソーパズルを目隠しして完成させろって言うようなもんだぜ」
カメヤマがスマホですでに予算を計算をしていたようで、そのスマホを机に投げ出す。彼の指先は、まるで見えないカチンコを鳴らすかのように、いらいらとカチカチと動いていた。

「確かに無理ゲー感はんぱない」フジモトが頷く。「でも、ゲームクリアの方法は必ずあるはずだ」

「方法? どこにあるっていうんだ?」イサナが眉をひそめる。
「企画、脚本、演出、撮影、編集、全部自分たちでやるの? それこそ、アイドルの卵を素人が育てて東京ドームでライブしますって言うようなものだ」

「だからこそチャンスなんじゃないか?」クボタが立ち上がる。
ロン毛ではなくなった短髪が、決意を示すかのようになびく。
「俺たちにしかできない、ストリート感覚での撮影方法とか…」

「ストリート感覚で撮ったって、クオリティは保証できないわ」ヒガシノが食い下がる。
「私が見てきた名作の品質には到底及ばない」

セキグチが静かに口を開く。
「でも、それが新しい表現方法を生み出すきっかけになるかもしれない。法律だって、時代とともに変わっていくんだ」

ボソボソが加速していく。
「だって、制作費1万円じゃ、ロケ地1時間借りたらそれで終わりでしょ」
「出演者はどうするんだよ。自分たちで演技でも練習しろってのか」
「撮影機材も借りられないし、カメラマンにもお願いできない」
「編集は?編集も無理くない?」

昨日まで「TTP!」と連呼していた勢いが嘘のように、会議室を重苦しい空気が包む。

なぜこんなボソボソするか解説
一般的な映像制作会社の制作部の仕事は
プロジェクト全体を俯瞰で見て、実現プランを模索して、それを実現して完成まで導く、制作進行や予算管理がメインだからである。
「企画」「演出」「準備」「撮影」「デザイン」「編集」という主要な制作工程において、各工程をプロフェッショナルなスタッフの方々に依頼してつくることがベースになっており、
自分たちが各工程を仕上げるフィニッシャーである、という自覚はない。
唯一、「準備」という工程については制作部の真骨頂仕事ではあるが、
撮影ロケ地のレンタルも、それなりに費用がかかる。
メンバーの多くが制作部だからこそ、実現方法が見えない企画打ち合わせほど辛いことはない。

雷の個人的見解

「どの企画も到底、実現は無理…」
映像ベンチャーシングメディアの未来を託すと意気込んで始まった縦型ショートドラマレーベル「T36」はバズるなんて到底夢のまた夢の状態で、最初の企画会議は終了した。

朝焼け小焼けな渋谷

鉄は熱い内に打て、善は急げ、Done is better than perfect、
翌日も企画会議という名の地獄会議は開かれた。

「どうした、テンションが低いね」雷COOが言葉を発する。
「嫌なことでもあった?」

普段なら冗談で返すメンバーも、今日は沈黙。

「企画会議を進めよう」
「…企画会議なんてする意味あるんですか?実現もできないのに」

「…企画会議を進めよう」
「どれをやるにもお金が必要です…」

「…企画会議を進めよう」
「難しいんですって!」

「…もう諦めたってことでいいのか」
「…」

無言のクッ!みたいな声なき声がこだまする。

「昨日も言ったけど、これまでの常識みたいなものや当たり前という概念をどれだけアンラーニングできるかでしかない」
雷は昨日言ったことを繰り返す。

「とは言っても、ロケ地を借りるのもお金はかかりますよ」
「ロケ地はお金がかかるという当たり前を疑ってみた?」
「…えっ?」

誰よりも早くカメヤマがググる
「あっ、お金がかからないロケ地って案外あるかも」
「えっどういうこと?」 前方のスクリーンにカメヤマのPC画面の検索結果が映し出された
「ほら、全然費用がかからないロケ地もいっぱいありそう」

「本当だ、安いところもあれば、無料で貸し出してるところもあったりするじゃん」
「家とかカフェとかお店とか公民館とか変な施設もありそうじゃん」
「当たり前にロケ地って、お金がかかるものって思ってたけど…」

※こんな丁寧なやりとりがあったかは謎だし、本当に費用のかからないロケ地があるかは勝手に確かめてほしい。あくまで自主制作のドラマ制作。そしてこれは実話に基づいたエンタメ。

注釈です

これまで凝り固まってきた当たり前というパズルが崩れる音がした
ひとつ崩れると早い、新しい当たり前というパズルを組み立てるだけ

アイデアが急に飛び交いだす。

「これ、例えば、1作品1万円って考えるんじゃなくて、6作品6万円って考えた方がむしろいいかも」
「撮影日を3日にまとめて、6作品のロケ地を共通にできるものはして、あとは1作品にかけることのできる時間を決めて」
「会社の倉庫にカメラあったよ、自分たちで回そう、照明もなし」
「iPhoneでもやれるし、検証しよう」
「編集は、自分たちでやろう、できる」
「グレーディングも自分たちでやろう」
「出演者の方もその条件で募ってみるよ」

ピースがはまっていく。ピースがはまりだすと制作部出身は強い。

「時間がない」 「予算もない」 「経験もない」
息つく暇もなく、問題が畳みかけられる。
そして——
「だからこそ面白い」カメヤマの目が輝いた。

画像はイメージです


「冗談にしてたのって、自分たちじゃん」
誰かがボソッと最後のピースをはめた。

3ヶ月以内にバズる?縦型ショートドラマレーベルT36は、
少し元気を取り戻した。
彼らの真の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

「T36」が制作する縦型ショードラマはtiktok/Youtubeアカウント「タテドラ/TATEDORA」で観れます。5月からはじめて、すでに何本か作品をつくりはじめてるので、忌憚なき意見、暖かい意見、そしてお仕事の依頼など、とにかくお待ちしております。






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