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組織の力を最大化させる方法

2010年5月から、私は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構からの委託事業である「高齢・障害者雇用支援センター」の運営事業の仕事を開始しました。

(参照)「利己的な人」と「利他的な人」

この事業は大きく分けて4つの業務から成り立っていました。

助成金の相談・支給受付業務
障害者雇用納付金制度の運営業務
企業に対しての雇用上のアドバイス業務
アビリンピック(障害者の技能競技大会)の運営

この業務を神奈川県、埼玉県、兵庫県の3県で滞りなく実施し完了させることが私に課せられた仕事でした。
各センターには15名ずつスタッフを採用しました。しかし、3センターでこの事業を経験している人は神奈川に1名いるだけで、あとのスタッフは全て新規で採用を行いました。つまり私含めてほぼ全員がこの仕事の素人だったわけです。

普通に考えたらこの状態で事業を開始するのは無謀です。少なくともこの「高齢・障害者雇用支援センター事業」は既に30年近く各県で運営されてきた事業で、また助成金や障害者雇用納付金、雇用上の専門的なアドバイスなどは、素人がすぐにできるようなものではありません。

ここでなぜ経験者がいないのかを簡単に説明します。
実は経験者(そのときに委託を受けている財団法人や社会福祉法人の人)の採用をしてほしいという相談はありました。実際に面接も行ったのですが、正直私は「これはヤバい」と感じました。
詳しくは書けませんが、民主党の事業仕分けで「民間企業を含めた一般競争入札にすることが望ましい」と仕訳けられたのにはそれなりに理由があるということです。
ちなみに私たちが受託するまで、この委託事業は「随意契約(競争入札によらずに行政が任意で決定した相手と契約を締結する契約の仕方)」で、一つの法人が何年も何年も運営をしていました。そこを「一般競争入札にしなさい」という仕分け結果になったのですから、意図は見えてくると思います。

その経験者の方々と会った時に私は直感的に「この方々を入れてはいけない」と感じたのです。しかし1名だけ女性の職員の方がいて、その方だけは採用しても大丈夫そうだと感じ、また助成金関係の重要な役割を担っていたので、その経験も含めて採用しました。
というわけで、私たち素人でこの事業をゼロから始めることとなりました。

確信なき船出

業務開始までは2週間しかなく、引継ぎや関係書類整理など一気に行いました。また、さすがに私たち素人だけでは難しいと判断し、高齢者と障害者雇用に詳しい社労士、行政書士の先生と契約しアドバイスをもらえる体制を作りました。あとはひたすら仕様書と過去の書類を読み込み、分からない点は委託元である独立行政法人の担当者に電話をかけ業務内容を確認していきました。

そしてバタバタの中、ついにセンターを開所日になりました。

開所した直後から状況はさらに深刻なものになりました。企業からの問合せが来ても分からないので即答できず、全て調べてから折返し。また飛び込みで来客が相次ぎ、関係する行政機関(市区町村の福祉課や労働局、ハローワーク)からも問合せが来て現場は混乱しました。

組織の力を最大限に発揮するための施策

ところがこの混乱は一か月もすれば収まっていきました。
大きな要因としては2つの取組みでした。

一つ目は「業務フローの可視化」でした。
全ての問合せに対して

①問合せ内容の分類
②付随する作業手順の整理
③関係者の整理
④業務完了の定義

この4つの徹底を現場に指示しました。
これによりみるみる「やるべき作業」「調べること」が整理されていきました。特に④のどこまで作業をしたらその業務が完了するのかを定義したことで作業のゴールが分かり、それを目指して皆で手分けして業務を行うことが出来るようになりました。
そしてこの内容をマニュアル化し、他の人でもそれを見れば作業が行える状態を作っていきました。この結果1か月経った頃には日常発生する業務の7~8割は整理することが出来ました。

二つ目は「スタッフの士気の高さの維持」でした。
私はこの事業を始めるときに「働きたい」「誰かの役に立ちたい」という気持ちの強い人を採用しました。
そのため働くスタッフの全員が業務に真剣に向き合っていました。これは障害者や高齢者、主婦といったことはまったく関係なく、全員が一生懸命に仕事をしてくれました。私はその皆のやる気が削がれることがないようにだけ注意していました。
特に注意を払ったのは人間関係でした。人間関係はスタッフ間、センター間、関係機関との間でも発生し、このバランスが崩れると皆の注意が人間関係に向いてしまい、作業効率が下がります。そのため、皆の注意が仕事に集中するようにコミュニケーションの流れを調整しました。

そしてこの環境を用意したことで、精神障害をもった男性スタッフも当初は簡単な入力作業をお願いしていたのですが、どんどんやり方を習得して半分くらいの時間で全て完了できるようになりました。そして空いた時間は他のメンバーに「何かお手伝いできることないですか?」と自ら聞いて回り、できる仕事をどんどん増やしていきました。
最終的にはお客様へ情報を案内する電話業務も行えるようになり、他のメンバーで対応しなければと思ってい部分を代わりにやってもらうことができ、とても助かりました。

この結果、当初の混乱は嘘のように収まり開始2か月も過ぎたころには委託元の独立行政法人の担当者から「本当に困ったことないですか?」と聞いてくるほどに安定運営できるようになっていました。
そしてもちろん担当者の方には「何も問題ありませんよ(笑)」と返答しました。

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