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涙になったウイッチドクター

あのころ、女の子だったわたしは、魔術的な力をふるう、お医者さまでした。
川の波立つまぶしさからは吉兆を、慰めは雨の涼しさから譲り受け、
青を制覇する雲の白さをうらなっては、小鳥やモンシロチョウを癒します。
わたしは、海からやってきた人魚。水を静かに慕い、占い、ひんやりと操ることができました。

あろうことか、そんなわたしが病気に罹ったのは、はじめて人の病を癒そうとしたから。
恋する少年の苦しみをやわらげたかっただけなのに、いつしか彼の甘いせせらぎに溺れてた。
やっぱりアンデルセンの童話みたいに、人魚の恋愛は命がけなのでしょうか?
心の鱗を禁断の恋は焦がし、わたしを焼き殺そうとするのです。

そんなある日、魔法つかいのお婆さんの言葉を思い出す。恋する人魚は死ぬしかない、と。
わたしは彼のながす涙にこの身を投じ、みずから泡となって命を絶ちました。
涙の川で水を呑み、永遠にわたしを冷やしてくれる王国で、あのころ、女の子だったわたしは、涙のひとしずくとなりました。
哀しみに暮れてやまない少年の川とともに、彼が死ぬまで生きつづける人魚姫。それがわたしなのです。

VOICEROID2の紲星あかりによる朗読です。ぜひ、お聴きになってくださいね。


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