成田ミュウ

花の色彩や、薫る風をすくいとって結晶化し、オブジェにしたい。詩のような物語とか、幻想と…

成田ミュウ

花の色彩や、薫る風をすくいとって結晶化し、オブジェにしたい。詩のような物語とか、幻想と神秘をまぶした短い小説を書いています。ほんの少し怪奇趣味をくわえることも。シンプルにして衒学、そして甘いもの好きが紡ぐ言葉のかずかずをお楽しみください。紲星あかりちゃんによる詩の朗読も聴いてね。

マガジン

  • ちいさな詩ものがたり【VOICEROID紲星あかりの朗読も】

    ちっこい詩のような、ちょっぴりスピが混じった物語のかけらを、佐藤耳オリジナルのスクリプトとして紡いでゆきます。これを読んでくださった方が元気になったり、わずかでも慰められたらいいな、と祈りをこめて書いた掌編ばかり。またVOICEROID2の紲星あかりちゃんに朗読してもらっています。こちらもぜひ、どうぞ! ※写真、イラストはすべてフォトAC様、イラストAC様からお借りしています。心より感謝しています。また規約に則って使用させていただいています。

最近の記事

はるさきの、あめ

春の冷たい雨だった。 朝、僕は学校に行く通学路の途上にいた。 薄手のコートは軽く、空気は柔らかい。 しん、と澄み渡って青いものを肺に満たすと魂までもが洗われる。 ビニール傘を叩く雨の粒は、壊れて流れる出来損ないの星座。形にはなってくれなくて。 このよう清らかな朝を雫の音、排水溝から溢れる軽やかなせせらぎを耳にしながら歩いている。 星座。コンステレーション。 神話時代の人々は、星と星を結んで形をなし、おびただしい物語を紡いだように、僕は、春と雨をモチーフに新たな星座を語り出した

    • そらとぶ、れんしゅう【ショートショート】

      宮野さんは一風、変わった娘だ。 ほっそりした指を空にかざし、爪先ばかりを見ている。 爪が気になるのかな、と思ったが、そうではなかった。 指の先が透明になり、大気と混ざりあい、うっすらと青空に溶けていた。 彼女は指と空をかわるがわる凝視めながら、 「なんで指が空になってるのさ」 と気持ち良さげに言った。 指の消失を認めながらも、さほど悲しそうではなかった。 「この世から消えてなくなるんだよね? きっと」 彼女の声は驚くほどすっきりとし、陽気でもあった。 さらに宮野さんは言葉を紡

      • グルグルの秘密と火のダンス

        意地悪をしてくるポルターガイストが好きだった、と言うと、みんなはとても変な顔をします。 彼女は幽霊。誰かれかまわず憑依をしては、わたしの髪を引っ張ったり、家具を動かしては困らせる。 でも彼女のこと、いとおしい。だって生まれることのなかった、もう一人のわたしなんだもの。きっとわたしたち、そっくりの顔をしているかもね。 ■ マッチ箱、って知ってるかな? アンデルセンの童話にもでてくる、マッチ箱がお仏壇の前にありました。 いまはマッチなんて使わないから、ホコリをかぶっていたのです。

        • アオゾラキカイ

          雨が降ってきたというのに恋人は、約束してた楡の樹の下に、きょうもまた、やってきませんでした。 こんもり、傘みたいに緑がひろがる樹の下だったけど、土砂降りになったらわたしはびしょ濡れ。 だからロボットになることに決めました。赤さびた少女のロボットは傘もなく、冷たい瞳で彼を待つのです。 ■ 待ちぼうけの合間に見る夢は、壊れたマシンの夢でした。それも機械のパーツだけが落ちていて少しだけ、動く。 空から素直さが消えてしまった世界。雨ばかりが降るここで、拾った部品はアオゾラキカイの、と

        はるさきの、あめ

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        • ちいさな詩ものがたり【VOICEROID紲星あかりの朗読も】
          13本

        記事

          箱のなかの青い蝶々。雨と夢

          わたしのすべてを知りたがるきみへ。どうしても伝えておきたいことがあります。 いまはむかし。一千年前に生きた青い蝶々をおさめた、これもまた古い小さな箱を、わたしが持っていることを。 この箱の由来については秘密にしておきますね。いまは黙ってわたしのする話に耳を傾けて欲しいのです。 ■ 箱のなかの夜では、まだ一千年前の蝶々が生きていて、青く輝く鱗粉を散らしながら、柔らかく閃いています。 そこは、しっとり、濡れそぼった暗がりで、時間の彼方から、しめやかな雨のひびきまでもが聴こえてくる

          箱のなかの青い蝶々。雨と夢

          ユージくんの青い海

          生意気ざかりのユージくんは、わたしの弟です。この春、14歳になりました。 よくできた弟ですが、でも時には賢すぎ、むかむかすることもしばしば。 わたしたちあんまり似てないけど、ほんとに血がつながっているのかな。 ■ ねぇ、ユージくん。あなたはどこからやってきたの? すると、ユージくん。海の水から精製した塩の結晶を一つまみ、わたしにくれました。 これはね、ぼくらが溶けていた海からとれた塩なんだ、と彼はいいます。 ■ もらった塩を口にふくむと、あら不思議。意識は青い海のなか、夢とな

          ユージくんの青い海

          きょうの呪文。木星のマリアさま。わたしを守って!

          きみにも守ってくれる女の人がいることを知っていますか? これはジュピター、すなわち木星のマリアを召喚するための呪文です。 占星術が伝えるところによると、木星は、幸せをもたらしてくれる惑星です。それも十字架の上で命つきるその日まで、イエスさまを守りつづけた、聖なる母、マリアみたいな、とても、とてもきよらかで強い星なのです。 思い出してください。マリアさまは優しいばかりではなく、強いお母さまでした。災いをのみこむ、マリアのちから。木星もまた、宇宙のおおきさの災厄から地球を守って

          きょうの呪文。木星のマリアさま。わたしを守って!

          虹を指し示す猫

          コテージからみえる午前五時の海。潮騒がかおり、たっぷりとふくらんだ水平線が藍色にひろがります。 猫は誘います。ふたりですがすがしい砂浜をゆくと、遠くの沖合で雨が降っていたのでしょう。 夜明け前に雲は消え、洗ったばかりの緑の大気に海の虹がかかり、猫もわたしもうっとりしてしまうのです。 ■ ねぇ、ゆうむ? どうしてあなたは虹がかかるタイミングでいつもわたしを誘ってくれるの? すると、猫は教えてくれます。海辺の白い花をふみ、砂に足あとをつける謎の人がいることを。 幽霊じゃないけど、

          虹を指し示す猫

          木星と金魚鉢

          金魚鉢にお水を満たし、ふうわり、ゆうらり、鰭をうごかす彼女を放ちます。 紅いおべべを着た彼女は、銀色にひかるお水のなかで、とっても気持ちがいいみたい。 わたしも金魚鉢に飛びこんで、彼女と一緒に泳ぎたい、って思います。 ■ 金魚はよくても、人は金魚鉢では暮らせないと、きみはいいます。でも、そうかしら? ジュピター、すなわち木星は太陽系内でも最大の惑星だけど、あら不思議。水に浮かびます。 主成分はガスなので水より密度がかるいのです。だったら金魚鉢に浮かべちゃおう。 ■ 大きさなん

          木星と金魚鉢

          夜明けの梟(ふくろう)を恋のキューピッドに

          魂を奪われた少年なんだ、と、夜明けにやってきた梟が、わたしに囁きかけます。 瞳は美しいガラスでできている代償に、少年のみる色彩には音楽も、感情すらもない。 でも凍てついた氷の宮殿での生活に、ほかならぬ彼自身が傷ついているのでした。 ■ 五歳で亡くなった弟が少年の魂を奪いさったのだ、と告げる梟。 旅立ちの日にさみしすぎるから、兄の希望のすべてを根こそぎ奪って行ったのだ、と。 魂の奪還をしなくては、と力説する梟に、わたし、困惑してしまいます。 ■ ふと気づいて、わたし、いいます。

          夜明けの梟(ふくろう)を恋のキューピッドに

          涙になったウイッチドクター

          あのころ、女の子だったわたしは、魔術的な力をふるう、お医者さまでした。 川の波立つまぶしさからは吉兆を、慰めは雨の涼しさから譲り受け、 青を制覇する雲の白さをうらなっては、小鳥やモンシロチョウを癒します。 わたしは、海からやってきた人魚。水を静かに慕い、占い、ひんやりと操ることができました。 ■ あろうことか、そんなわたしが病気に罹ったのは、はじめて人の病を癒そうとしたから。 恋する少年の苦しみをやわらげたかっただけなのに、いつしか彼の甘いせせらぎに溺れてた。 やっぱりアンデ

          涙になったウイッチドクター

          コンビニねすみを知っていますか?

          コンビニねずみを知っていますか? 白いねずみだけど、ハツカネズミとはちがいます。 だっておめめがブルーで、赤くないねずみだもの。 ■ 海岸沿いの倉庫にねずみは暮らし、チーズを食べてた遥かなむかし。 いまレジ袋に生まれ変わって、食べものをつめこまれるねずみとなりました。 あとはポイ捨てにされちゃう可哀想な運命だけど。 ■ ある夜、とあるコンビニの片隅で哀しみに震えるねずみを拾います。 そうしてジャケットのポケットにそっ、としまいこむきみ。 きみだけのポケットねずみになった彼女を

          コンビニねすみを知っていますか?

          月のエクトプラズムとアイスクリーム

          人は死んだら雲となり、お月様にゆくことをわたし、知りました。 妹のゆう子はだから月の裏側にいるのかな?、と考えます。 ■ 七月に亡くなったゆう子は、アイスクリームの魔術が大の得意。 しかもコーンつきのヴァニラアイスを物質化しちゃうほどに。 なんにもない空中からアイスクリームを取りだせるのは、 白い霧や、まばゆいばかりの積乱雲を材料にしてるから。 お姉ちゃんにも簡単にできるよ、と、あの子、笑ってくれました。 ■ 八月。正午の月から爽やかな風が吹いてきて、ゆう子を思いだします

          月のエクトプラズムとアイスクリーム

          きょうの呪文。ユニコーンと出会ったなら、ソーダ水をご馳走しなくちゃ

          夢の中でしか会えないとおもっていたユニコーンと、ふいに遭遇してしまったなら、あなたはどうしますか? たとえばの話ですけど、街角で、だったり、カフェを出てすぐだったり、ユニコーンと鉢合わせしてしまったら、ソーダ水をご馳走することをおすすめします。それも、ヴァニラアイスをのっけたソーダ水を、です。 炭酸がはじける、あのグリーンの色彩が、まるで神秘の森のように、あかるく爽やかだし、それからヴァニラアイスもなんだか積乱雲みたいで夏っぽい。 ユニコーンは夢のなかにすむ動物だから、あ

          きょうの呪文。ユニコーンと出会ったなら、ソーダ水をご馳走しなくちゃ

          許されているわたしの海

          生きるのが辛く、苦しみが泉となってわきだす日々を、いまのわたしは歩いています。 でも、そんなわたしにも悩みのたねが晴れわたる真っ青なときがあったのです。 それはまだ、わたしがわたしではなく、海だった頃のおはなし。 そうです、わたしが海だった頃、なごやかでやさしい風が吹いていました。 ■ 海だった頃、わたしはわたしではありませんでしたが、たしかにわたしはいました。 悩みのない海に魚が泳ぎ、椰子の実が海流にのって、気ままに流されてゆくのです。 クジラのお腹に大聖堂があるのでしょ

          許されているわたしの海