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箱のなかの青い蝶々。雨と夢

わたしのすべてを知りたがるきみへ。どうしても伝えておきたいことがあります。
いまはむかし。一千年前に生きた青い蝶々をおさめた、これもまた古い小さな箱を、わたしが持っていることを。
この箱の由来については秘密にしておきますね。いまは黙ってわたしのする話に耳を傾けて欲しいのです。

箱のなかの夜では、まだ一千年前の蝶々が生きていて、青く輝く鱗粉を散らしながら、柔らかく閃いています。
そこは、しっとり、濡れそぼった暗がりで、時間の彼方から、しめやかな雨のひびきまでもが聴こえてくるのです。
そのような豊かな闇から、五蘊の栄養を頂戴し、日々、夢の美しさを呼吸しながら、生きているのがわたしです。

ねぇ。だから少しだけでいい。きみも考えてみてください。もしも、そんな勇気があればの話だけど。
うるわしく濡れた夜や夢、闇に咲く、青い蝶々がゆらり、とぶ、この小さな世界を壊してしまう、そんな勇気があるのなら。
もし、箱を開けてしまったなら一千年の闇は消え、蝶は乾いて蒸発し、わたしも死んでしまうかもしれません。

ですから、お願い。箱のなかを覗かないでください。わたしのすべてを知ろうとはしないでください。
夢のいとおしい闇のなか、ひらり、すべる、雨のしじまとよく馴染む、蝶々が生きてこそのわたしだから。
わたしのことを知らないそのことが、もっと、もっとふたりが、素敵に知り合える秘訣なのだから。

VOICEROID2の紲星あかりによる朗読です。ぜひ、お聴きになってくださいね。


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