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ちいさな詩ものがたり【VOICEROID紲星あかりの朗読も】

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ちっこい詩のような、ちょっぴりスピが混じった物語のかけらを、佐藤耳オリジナルのスクリプトとして紡いでゆきます。これを読んでくださった方が元気になったり、わずかでも慰められたらいい…
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2020年11月の記事一覧

グルグルの秘密と火のダンス

グルグルの秘密と火のダンス

意地悪をしてくるポルターガイストが好きだった、と言うと、みんなはとても変な顔をします。
彼女は幽霊。誰かれかまわず憑依をしては、わたしの髪を引っ張ったり、家具を動かしては困らせる。
でも彼女のこと、いとおしい。だって生まれることのなかった、もう一人のわたしなんだもの。きっとわたしたち、そっくりの顔をしているかもね。

マッチ箱、って知ってるかな? アンデルセンの童話にもでてくる、マッチ箱がお仏壇

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アオゾラキカイ

アオゾラキカイ

雨が降ってきたというのに恋人は、約束してた楡の樹の下に、きょうもまた、やってきませんでした。
こんもり、傘みたいに緑がひろがる樹の下だったけど、土砂降りになったらわたしはびしょ濡れ。
だからロボットになることに決めました。赤さびた少女のロボットは傘もなく、冷たい瞳で彼を待つのです。

待ちぼうけの合間に見る夢は、壊れたマシンの夢でした。それも機械のパーツだけが落ちていて少しだけ、動く。
空から素

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箱のなかの青い蝶々。雨と夢

箱のなかの青い蝶々。雨と夢

わたしのすべてを知りたがるきみへ。どうしても伝えておきたいことがあります。
いまはむかし。一千年前に生きた青い蝶々をおさめた、これもまた古い小さな箱を、わたしが持っていることを。
この箱の由来については秘密にしておきますね。いまは黙ってわたしのする話に耳を傾けて欲しいのです。

箱のなかの夜では、まだ一千年前の蝶々が生きていて、青く輝く鱗粉を散らしながら、柔らかく閃いています。
そこは、しっとり

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ユージくんの青い海

ユージくんの青い海

生意気ざかりのユージくんは、わたしの弟です。この春、14歳になりました。
よくできた弟ですが、でも時には賢すぎ、むかむかすることもしばしば。
わたしたちあんまり似てないけど、ほんとに血がつながっているのかな。

ねぇ、ユージくん。あなたはどこからやってきたの?
すると、ユージくん。海の水から精製した塩の結晶を一つまみ、わたしにくれました。
これはね、ぼくらが溶けていた海からとれた塩なんだ、と彼は

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きょうの呪文。木星のマリアさま。わたしを守って!

きょうの呪文。木星のマリアさま。わたしを守って!

きみにも守ってくれる女の人がいることを知っていますか? これはジュピター、すなわち木星のマリアを召喚するための呪文です。

占星術が伝えるところによると、木星は、幸せをもたらしてくれる惑星です。それも十字架の上で命つきるその日まで、イエスさまを守りつづけた、聖なる母、マリアみたいな、とても、とてもきよらかで強い星なのです。
思い出してください。マリアさまは優しいばかりではなく、強いお母さまでした。

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虹を指し示す猫

虹を指し示す猫

コテージからみえる午前五時の海。潮騒がかおり、たっぷりとふくらんだ水平線が藍色にひろがります。
猫は誘います。ふたりですがすがしい砂浜をゆくと、遠くの沖合で雨が降っていたのでしょう。
夜明け前に雲は消え、洗ったばかりの緑の大気に海の虹がかかり、猫もわたしもうっとりしてしまうのです。

ねぇ、ゆうむ? どうしてあなたは虹がかかるタイミングでいつもわたしを誘ってくれるの?
すると、猫は教えてくれます

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木星と金魚鉢

木星と金魚鉢

金魚鉢にお水を満たし、ふうわり、ゆうらり、鰭をうごかす彼女を放ちます。
紅いおべべを着た彼女は、銀色にひかるお水のなかで、とっても気持ちがいいみたい。
わたしも金魚鉢に飛びこんで、彼女と一緒に泳ぎたい、って思います。

金魚はよくても、人は金魚鉢では暮らせないと、きみはいいます。でも、そうかしら?
ジュピター、すなわち木星は太陽系内でも最大の惑星だけど、あら不思議。水に浮かびます。
主成分はガス

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