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【文学フリマ】同情するなら電気をください 試し読み

文学フリマ香川で販売する短編集『家に帰ると電気が止まっていたアンソロジー』より「同情するなら電気をください」の試し読みです。

 「で、電気が、止まってるぅ⁉」

 JKになって初の夏休み。友達と旅行をして深夜バスで帰ってきたわたしを待っていたのは、昨日の台風の影響で起きた停電と、ドが付くほどのシスコンお兄ちゃんだった。

 どこかの送電線が切れたらしい。リビングで二人掛けのソファを独占するお兄ちゃんにそう告げられ、わたしは絶望を抱えて床に崩れ落ちた。
 今日は台風一過の晴天で、七月終わりの快晴イコールとても暑いわけで、エアコンの動かない家の中はつまり――。

「地獄だぁ~」
「可愛い妹が帰って来てお兄ちゃんは天国だよ」
「うっさい!」

 両腕を広げて寄ってきたお兄ちゃんの鳩尾 を狙って蹴りを入れる。

「暑いんだからくっつこうとしないで!」

 お兄ちゃんが崩れ落ちるのを見届けてからソファを奪い、肘掛けを枕にして横になる。少し経ってからお兄ちゃんはハンディ扇風機を持ってくるとわたしに風を当ててくれた。
 そうそう。こういうのでいいんだよ。
 でも。

「暑い……」

 真夏の暑さの前では乾電池式の扇風機など風の前の塵に同じなのだ。尤も、その風を欲しているのだけど。

「お兄ちゃん工学部でしょ? 太陽光パネルとか作れないのぉ?」
「さすが我が最愛の妹! 無理難題を平然と言ってのける」
「発明家を自称してるくせにぃ」
「失礼な! 俺はちゃんと発明家さ。なにせ発明家に資格はないからね。志さえあれば誰でも立派な発明家なのだよ」
「結局自称じゃん」
「ははは」

 お兄ちゃんは扇風機をおもむろに自分の方に向けた。

「あー、うそうそ! お兄ちゃんは大発明家ですぅー!」
「わかればよろしい」

 再びこちらを向いた扇風機のおかげでわたしの命は間一髪で助かった。今はこの雀の涙の風がオアシスだ。失う訳にはいかない。

「それでもさぁ、発明家なら『こんなときのためにぃ』ってなんか発明してないのぉ?」

(――続く)


WEBカタログはこちら


同情するなら電気をください』(陸離なぎ)
旅行から帰って来た妹を待っていたのは停電と超シスコンな兄――!?
地獄のような真夏の暑さを凌ぐため自称・発明家の兄は様々な発明品を披露するのだが……。
(兄妹コメディ)

会場にお越しできない方は、後日BOOTHにて電子版を販売する予定ですので、そちらをご利用ください!

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