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【同棲日誌】345円+α

その日、久しぶりにお気に入りのパン屋さんに行った。
そのお店は、東北に引っ越してきてから道すがらに発見し勢いで購入してからというもの、その味にすっかり虜になってしまった。
元はパンよりご飯派の私だが、ここのお店のパンはちょっと、いやかなり別格。価格はスーパーやコンビニよりも1~2割高いが、スイーツパンからおかずパンどれを食べても本当に美味しいし腹によく溜まる。
おかげで日常の食事もしくはデザートに「プチ贅沢」を感じられる。

さてさて、今日の目的はバゲットと食パンを買うこと。来店する度に購入するレギュラーパンたちだ。
店内に入ると、焼き立てパンの香りが鼻を突き抜ける。幸せの香りだ。
嗅覚をもろに食らった私は、サッと買ってぱぱっと帰りますか…とはいかなくなった。店内には食欲を掻き立てる約30種類のパンたちが出迎えている。私の目線は右に左にとあらゆるパンたちを視界に入れる。定番のものから新作まで、くまなく、だ。

そこにある1つのパンが焦点にあたった。ガパオパン。
タイの名物料理ガパオライスをもちもちした生地であしらったエスニックパンである。
ふと、彼の顔が浮かぶ。

エスニックすきだったよなぁ…値段はと…345円!?結構たけぇ…
でもサムライ君、今週相当ハードワークだったよなぁ…

「ありがとうございました!またお越しくださいませ~」

散々悩んだ挙句、レギュラーパンをはじめ、ガパオパンと豆乳パン(さしみのお気に入り)など計6点ほど買ってしまった。今日も誘惑は強かった…と思いつつ手に感じる重みを幸せに感じながら家路につく。

リビングで、購入したパンを袋から取り出す。
彼が食すガパオパンを手にしたとき、ふとアイデアが浮かぶ。
私は油性ペンを出して、ガパオパンが入っている袋に「いつもありがとう」の旨を記した3行ほどのメッセージを書いた。
パン屋さんが丹精こめて作ってくれたパンに+αして私の思いも込めた。袋は食べ終わったら捨ててしまうので、手紙が苦手(気持ちはうれしいけど保管に困るから)な彼にも抵抗なく受け取ってもらえそうだ。

20時過ぎ、呑み帰りのほろ酔いサムライ君が帰ってきた。
私はパン屋にいった話をした流れで、
「これ、サムライ君の分。さしみのおごりだよ~~食べてね~~」
とサムライ君に差し出す。
彼は酔うと普段以上に素直になるので、
「えっっっっっっ、本当に!!ありがとう!!ってか、よくガパオすきなの覚えてたね!!!」
さらに裏返しにして私のメッセージが出てきたときはなぜか半泣き状態になりながら「本当にうれしい(涙目)、ありがとうね」と伝えてくれた。

翌日、彼はニコニコで食べてくれた。味も申し分なかったとのこと。
この345円+αの機会を与えてくれたパン屋さんには感謝しかない。
価格に勝る価値はさまざまなところに潜んでいると実感したさしみであった。

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