マガジンのカバー画像

自分で気に入っている作品10選

10
古い順。不定期で中身が変わります。 年越し二段ジャンプは、人生で初めて書いた物語。
運営しているクリエイター

#ショートショート

【ショートショート】年越し二段ジャンプ

【ショートショート】年越し二段ジャンプ

 12月31日、大晦日。この日のために、僕は1年間努力を続けてきた。
 縄跳びトレーニングは毎日欠かしていない。跳び箱だって7段まで飛べるようになった。給食もぜんぶ残さず食べている。全ては、今日のジャンプのためだ。

「オレ、年越しの瞬間は地球上にいなかったんだぜ!」
 4年生の、冬休み明けの最初の日。女の子に囲まれながら、大声でそんなことを言っているのは、2年生の頃から同じクラスの笹山くんだ。足

もっとみる
宝くじ魔法学校 #毎週ショートショートnote

宝くじ魔法学校 #毎週ショートショートnote

「ちっ。今日も当たらなかったか。」
 男は、手に持った夢の跡をビリビリと破いて、ゴミ箱に捨てた。
 数年前に「宝くじ魔法学校」が出来てからというもの、普通の人は殆ど宝くじに当選しなくなってしまった。
 しかし、男にとって、宝くじは生きがいだ。そう簡単に辞めることは出来ない。

「1等が当たれば、今の仕事ともオサラバできるんだけどな。ガキの頃に宝くじ魔法学校がありゃあなぁ。」
 宝くじ魔法学校に入学

もっとみる
失恋墓地 #毎週ショートショートnote

失恋墓地 #毎週ショートショートnote

『探さないでくれ』
 突拍子もないメッセージを受信したツバサはため息をついた。
「またか……どうせあそこだろうな」
 文句を口にしながら、大きなシャベルを手に家を出る。向かった先は墓場だ。

 ツバサは中に入り、立ち並ぶ墓石を一つ一つ確認しながら歩いた。
「坂口……坂谷……アキ。ここだな」
 探していた名前を見つけたツバサは、持ってきたシャベルで、墓石の前のまだ柔らかい地面を掘った。地面の下からは

もっとみる
大増殖天使のキス #毎週ショートショートnote

大増殖天使のキス #毎週ショートショートnote

「神様ぁ! もう限界です! 早く増員してくださいよぉ!」
「まったく、やかましいのう」

 あまりの激務の連続に耐えかねた私は、天使業務の合間に、神様に文句を言いに来ていた。

「神界はどこも人員不足なんじゃ。わがままを言うでない」
「そんなこと言ったって、もう人間増えすぎて私一人じゃどうにもなりませんってば!」
「でも、お前ら新しく創るの大変なんじゃよなぁ。ほら、ワシってば、ゲームのキャラクリで

もっとみる
【短編小説】アキレスと不思議な亀

【短編小説】アキレスと不思議な亀

 アキレスは、心優しく、真面目な青年でした。村の誰よりも勤勉で努力家だった彼は、毎日村の仕事をこなしながら、沢山の勉学と鍛錬を繰り返していました。彼の夢は、この世の真理を探求することでした。

 ある日、アキレスは、山の奥に住む不思議な亀の噂を聞きました。その亀と競争して勝つと、願いを一つ叶えてもらうことが出来るのだというのです。

 アキレスは、自らの夢を叶えるため、その不思議な亀に会いに行くこ

もっとみる
秘密警察を宣伝してみる #毎週ショートショートnote

秘密警察を宣伝してみる #毎週ショートショートnote

「パパは秘密警察で、日本を守ってるんだぞ。 凄いだろう!」
 休日の男は、誰にも打ち明けてはならないはずの秘密を、今年の春、小学校に入ったばかりの娘へ打ち明けていた。娘にかっこいい所を見せたいという見栄は、規則には勝てなかった。

「パパすごい! おうえんしてあげるね!」
 娘はきらきらとした表情で、画用紙に何かを書き始めた。そこには、可愛らしく描かれた父親の似顔絵と、習ったばかりのひらがなで、応

もっとみる
最後のマスカラ #毎週ショートショートnote

最後のマスカラ #毎週ショートショートnote

「ウチもここまで、か……」

 亜美はビルの屋上へ逃げ込んできていた。閉めた扉も内側からガンガンと殴られていて、長くはもちそうにない。
 街中がゾンビで溢れた、あの最悪のパンデミックから命からがら生き残ってきた彼女も、もう限界が来ていた。ここが自分の死に場所だと悟った。

 体中傷だらけの彼女は、残った体力をふり絞り、肩にかけた小さな鞄から、鏡と、探索中唯一手に入れられた化粧品のマスカラを取り出し

もっとみる
告白水平線 #毎週ショートショートnote

告白水平線 #毎週ショートショートnote

「ねえ、ウミガメのスープって知ってる?」
 下校中、綾は幼馴染の圭太にそう話しかけた。
「ああ、水平思考ゲームってやつだろ? YESかNOで答えられる質問で状況を絞り込む、みたいなの」
「それそれ。私さ、問題考えたから、やってみない?」
「すごいじゃん。いいよ」

「じゃあ、問題。アヤはケイタと遊んでいると、胸が苦しくなります。なぜでしょう」
 圭太は、少し焦った様子を見せながら質問を始めた。

もっとみる
鳥獣戯画ノリ #毎週ショートショートnote

鳥獣戯画ノリ #毎週ショートショートnote

「ぎゃー!」

 目眩がしてぼーっとしていたところに、悲鳴が飛び込んできて目が覚めた。悲鳴が聞こえた方に目をやると、そこには、等身大のカエルがいた。

「ぎゃー!」

 俺も思わず悲鳴を上げてしまった。その声でまた向こうも悲鳴を上げた。
 ――悲鳴のラリーが3回ほど続いたところで、向こうの口から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

「あれ、も、もしかして、シンジ?」
「その声は……コーちゃん!? 

もっとみる