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今日も今日とて、お母さん。-大きなお腹で引っ越し編-

一人暮らしをしたことがなかった私は、自分が暮らす家を探すこと自体が初めてで、入籍前、夫と新居を探していたときも、それはそれは大変で、一悶着も二悶着もあった。

築年数が経っている賃貸物件をいい感じにDIYしておしゃれに暮らす、みたいなのがなんだか流行っていたから(流行っていたわけじゃなくて私がそういうのばかりSNSで見ちゃってただけなのかもしれないけど)、すごく憧れちゃって。
「そういうのいいじゃあああん!!!」と、やったこともないのにやれる気満々になるいつもの悪い癖がでてしまい、わざわざ築古物件を好んで探したりしちゃっていた。


自分の住む部屋を決めるということがこんなにも難しいとは、ほんとに思いもしなかった。みんな、どうやって決めてんの。

ほんのちょっとしたことが気になると、90点だった物件は80点になった。そうなるともう「80点に下がった」という理由だけでまた10点減点され、結果70点になるという訳わからん方程式が出来上がってしまい、探せども探せども決めることができなかった。

今思えば80点でも70点でも賃貸なら十分なのに、内見し、決まりかけては「やっぱ無理かも…」とキャンセルすることを繰り返した。当然夫は疲弊し、「もう俺はどこでも良いから…とにかく望が住めると思ったところにしよう…」と、精神的にげっそりとなっていった。


そんな風に夫をげそげそにした果てにようやく決まった部屋だったもんで、新婚生活のスタートはとても幸せいっぱいで、いい感じにDIYしながら快適に楽しく暮らしていた。

はずだったのに、結局私はその10ヶ月後、その部屋から引っ越すことになる。 

ふざけた野郎だよ、私って奴は。


ごめん、本当にごめん。
夫、ごめんね。振り回してごめんね。
でも無理なの。もうだって私、この部屋で呼吸するのが辛い!

そう、私はつわりの影響で、嗅覚が通常の100倍にまで鋭くなってしまったため、今まであまり気にならなかったこの部屋のにおいがまるっきりダメになってしまったのだ。

私たちが住んでいたのは築50年近くの築古集合住宅。ところどころ綺麗に直されてはいたけれど、お風呂やお手洗いなどはそこそこ年季が入っており、掃除やお手入れだけではどうにもならないこともあったにはあった。だけどまぁ、なんとかなっていた。
私が気になったのは、排水溝とかそういうわかりやすい嫌な臭いではなく、だけどとても鼻につく、発生元不明の臭いだった。

元を見つけようと、部屋中ありとあらゆるところを吐きそうになりながら嗅ぎ回ったけれど、遂に突き止めることはできなかった。
呼吸するのも辛いほどに、なんとも言えない臭いがずっと漂っていたのに、なんと夫にはその臭いがわからなかったのだ。

同じ部屋で暮らしてるのに、この臭いを感じないだと…?

信じられなかった。

同じ世界線で生きてると思い込んでるだけ?と疑いたくなったが、本当に夫にはわからなかったようで、夫はどこがどう臭うのかがわからないまま、消臭グッズをあちこちに置いたり掃除をしたりしてくれたけれど、臭いは消えなかった。


つわりのせいも確かにあったとは思う。
でもやっぱり、つわりのせいだけでもなかったと思うんだ。だって聞いて!私嘘言ってるんじゃないのよ!実家の両親に「臭いが辛くて引っ越したい」という気持ちを話したとき、父も母も「確かにちょっとするよね」と言っていたんだもの!(必死な私をなだめようとしてくれていただけなのか…?)

私も引っ越してきた当初はなにも気にならなかった。
けれど梅雨の湿気や夏の暑さで、なにかがどうにかなっちゃって、もしかしたら嫌な臭いがするようになってしまったのかもしれない。それとつわりのタイミングが重なってしまったのかもしれない。(でもつわりだけのせいじゃないと思うんだ再)


散々振り回して決めたこの部屋を、二人の生活をはじめた思い出のこの部屋を、こんなすぐに引っ越したいと言ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。なんども話し合い、喧嘩もし、不穏な空気にもなった。だけれど夫も、私の必死な訴えに遂に折れ納得してくれた。
私たちは引っ越しすることに決めた。


とは言ってもあれほど苦労した部屋探し。また同じようなことになるんじゃないかと、夫はすでにげっそり(精神的に)していたけれど、そこは私、反省してますんで。同じ過ちは繰り返しませんので。

夫と決めたルールは、何よりもまず築浅で探すこと。
「多少狭くても、家賃が高くてもしょうがない。じゃないとまた同じことになる。」と言われ、私は「その通り!同じことにはなりたくない!」と鼻息荒く賃貸情報を見まくった。

ダメならまた引っ越せば良いはもう通用しない。
だって私はもうすぐ赤ちゃんを産むんだもの!!!

このとき妊娠5ヶ月。つわりもだいぶ落ち着いてきていたので、私はルールにのっとり必死で物件を探し、不動産屋に問い合わせ、夫の休みにあわせて内見するという日々を送った。

内見時、私はなによりもまず、いたるところの臭いを嗅ぎ回った。お手洗い、お風呂、クローゼット、シンク下、壁や床まで嗅いだ。「今嗅いだって、住んでみないとわからないよ」と部屋が私に囁いてきたけれど、私は嗅がずにはいられなかった。ちょっとでも気になったらのちに大化けする可能性がある。クンクン嗅ぎ回った。

何軒か見せていただいたけれどやっぱりそう良いところはすぐに見つからず。
しょぼくれながら、別れ際に不動産屋のお兄さんが「ご参考までに」とくださった資料をぺらぺら見ていたとき、ひとつの物件が夫の目に止まった。
「ここ結構いいかも。中見せてもらおうよ」と言うので、先ほど別れたばかりのお兄さんを再度呼び出し、その部屋の見せてもらった。

私は、自分が探した物件じゃなかったし、絶対条件の築浅という点もクリアしていなかったので内見する気はあまりなかったのだけど、部屋に入った瞬間「決まった…」という気持ちになっていた。
見えたのだ。夫と子供と三人でここで暮らしている景色が。部屋探しって、運命みたいなところあるよね(うるさい)。

もちろん例に漏れず、いたるところを嗅ぐことはさせてもらい、様々な気になるポイントのチェックもした。そうして内見を終えるころ、私も夫も「ここだね」という意見で一致した。


「引っ越し」という選択肢が私の頭にチラつき始めてからここまで一ヶ月、そして物件が決まって引っ越しまで一ヶ月。
大きくなったお腹での引っ越し作業はなかなかハードだったし、スケジュールもかつかつだったけれど、全部自分で言い出したこと。泣き言言わず頭と手動かせや!と自分を叩きながら、なんとか私は無事、新しい住まいでの生活を、無臭の住まいでの生活をはじめられることになったのだった。

***

あのとき思い切って引っ越しをして、本当に本当によかったと思ってます。
新しい住まいでの暮らしは快適で、近くには気持ちのいいお散歩道や公園もあり、子供が生まれるまでも、生まれてからも、そのあたりはとても助かっています。
お隣さんもとてもいい人で、大家さんまでいい人です。ご近所のおじいさんとも仲良くなって、今ではご自宅のお庭で採れたお野菜をいただくほどの仲にもなりました。
しかも何が驚きかって、前回よりも広くて綺麗なのに家賃が下がったこと。安くなって住みやすくなるって…どゆことや。
とにかく総じて、ここが気に入っています。
(あの臭いの元はなんだったんだろう。今考えても原因がよくわかりません。住居臭としか言いようがない…。)


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