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あの世……etc.

先日のことだ。facebookの誕生日通知に大切な親友の名前があがった。
「〇〇さんの誕生日をお祝いしよう!」
facebookが親切に教えてくれたそのメッセージに彼の名はあった。
懐かしく、でも、悲しくなる。そんな思いを重ねる日。もう何年になるか……

彼はもうこの世にはいない。
自らの意志であの世に旅立った。
僕よりひと回り近く若かったが、人柄、人格、どれをとってみても優秀で、僕などは足元にも及ばないイイ男だった。
何があったのかは知らない。
しかし、たった一人、静かな姿で家族のもとに戻ったそうだ。

彼との最後のやり取りがいつだったか、もう覚えていない。
いや、忘れようと必死に努力したことだけ記憶にある。

ところが、facebookだけが、一年に一度、彼を運んでくる。

生きていれば30歳だったのか。
時の経つ速さを感じる。

「お誕生日おめでとう! 素敵な一年になりますように!」
そんなありふれたメッセージを送っても返事がないことくらいわかっている。
もしかしたら? なんていう儚い期待を抱く自分に嫌悪したこともあったし、そんな気持ちになる自分を許すことができるまでには、それなりの月日を要した。
僕なりではあるが、少しずつ、親友の死を受入れてきたつもりだ。

そんな時の流れを感じながら、ふと考えることがある。

彼はいつまでfacebookの中で生き続けるのだろうか……

肉体としての“生”は彼にはない。
この世の人間としても「無」だ。

しかし、彼はたしかにSNSという世界の中では「生」きている。
facebookの中の彼は、満面笑みでたしかに僕を見ている。

あの世とこの世。
死後の世界と今世の世界。

これまで僕の中にあったあの世とこの世の大きな境界は、SNSの世界ではまるで通用しないことを悟った。

自らの意志で今世に幕を下ろした彼を、永遠に存在させる世界。しかも、そこには「生」の匂いすら感じさせる曖昧さを持つ、そんな世界。
SNSの世界は生と死の壁が限りなくゼロに近い。僕にはそう思えてならない。
新しいあの世。それがSNSの世界なのかもしれない。

そして、SNSの中で確立された「自己」は永遠に生き続ける。
それは、肉体でも精神でもない、あらたな人格としての「もう一人の自分」。

現世での役目を終えても、新しいあの世では決して老いることなく、その姿、その言葉を発信しつづける。

先人が夢にまで見た「不老不死」、まさにその世界をSNSは私たちにもたらしたのかもしれない。

一年に一度、彼は確実に僕の前に現れる。
語りあうことこそ許されないが、彼の残したメッセージの数々に触れることはできる。
一方的なコミュニケーションに感じ、それに触れることを躊躇する時期の方が長かったが、ある時、彼の言葉が背中を押してくれたことがある。

人生の選択というほど大げさではないが、彼がSNSの中で発信した言葉に、はっとさせられ、一歩を踏み出すきっかけになった。

「恐れるな。一度きりの人生、行くしかない」

海外留学を決意した時の彼の投稿にそのメッセージはあった。
彼が自分自身に宛てた決意の言葉だったに違いない。
フランス行きのチケットを映した写真と共にそのメッセージが僕の目に飛び込んできた。

「そうか、迷ってる場合じゃない。やらなきゃわかんないじゃないか!」
その言葉に僕は一筋の希望の光を感じ、腹をくくったことを思い出す。

こんな風に勇気づけられることがあるんだなぁと不思議な思いになった。

それはまるで「宇宙の星」のようだとも思った。

永遠に宇宙をさ迷い続け、太陽に照らされた自らの光を地球にむけて発してくれる星。
人は時として希望の象徴としてその星の輝きに心を震わせる。
名もなき星たちが僕たち人間の営みに与えた影響は、計り知れないほど大きいのではないかとさえ思う。

SNSの世界では、それぞれの「もう一人の自分」がいずれ「星」となる(なれる)のかもしれない。
後世に生きる、顔も名前も知らない誰かの心に、希望を照らす一筋の光として。
生きた時代に残した言葉の数々が夜空を照らす無数の輝きとなり、人々の心に降りそそぐかのように。

もし、そうであるならば、誰かを照らす星として、新しいあの世に在り続けたいと思う。

もし、そうであるならば、どんなにかっこ悪くても、新しいあの世にありのままの生き様を残したいと思う。

でも、そうであるならばこそ、新しいあの世に生き続ける「もう一人の僕」のことは、限りなく偶然に見つけて欲しいなと思う。

そんなことを願い、僕はもう一人の自分の生年月日を捨てた。
生と死の境がない世界の中で生き続けてしまう「もう一人の自分」を自由にするために。

それでもいつしか、僕の言葉を必要とする誰かに、そっと見つけてもらえたら幸せだと思っている。
限りなく偶然の、でも必然的な出逢い。
生と死を超えたシンクロニシティ。
そんなロマンチックで神秘的な日が訪れることを信じて、待ち続けたい。

いつになるかはわからないその日まで、今から少しずつ、言葉の種を蒔きながら……

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